免疫学の巨人 -7つの国籍を持った男の物語ー

2011-02-19 09:45:13 | 日記
ゾルタン・オヴァリー著   集英社刊
現代のアレルギー研究はPCA反応から始まったと言っていい。ゾルタンはこのPCA反応の概念を確立した人である。「ブリッジ仮説」「キャリア効果」といったキーワードは全てこの人が発見したものである。そして、98歳で亡くなるまで現役の免疫学者だった。
もうひとつ、特筆しなければならない事がある。この本の翻訳は彼の弟子でもあった、東大名誉教授で抑制T細胞を発見した多田富雄氏が亡くなる寸前に訳了したものであることだ。帯に「多田富雄 執念の翻訳」とあるのは、このことを指している。
ゾルタンは1914年にハンガリーという小国に生まれた。つまり、第一次、第二次大戦の只中を生き抜いた人である。それ故にハンガリー、ルーマニア、ハンガリー、ルーマニア(大戦中、国の版図が変わった)、アポリデ(無国籍)、イタリア、アメリカと国籍を変えざるを得なかった。7つの国籍とは、これを意味する。
では、研究一筋の人だったかというと、全然そうではない。彼の興味と知識は「科学」という領域を遥かに上回り、西洋史、絵画、彫刻といった芸術、音楽にまで及び、しかも一流の鑑賞者であり、聴き手でもあった。学者としての足跡を辿るのも面白いが、教養人としての経歴を読むのも面白い。
本書を読んでいて気がついたことがある。ヨーロッパやアメリカの現代における芸術家の大パトロン達の存在である。必要だと理解すれば、実に気前よく美術館やコンサートホールをさり気なく、しかも多くの場合匿名で寄付していることに驚く。税制の違いもあるのだろうが、日本ではあまり聞かない話だ。