渡辺 保著 演劇出版社刊
著者の論評は雑誌の中で何篇か読んでいたので、その論旨はある程度分かっている心算だ。それにしても、演劇評論というのは大変な仕事だと改めて思った。
著者は「観劇者の参考になるように」執筆したと言っているが、私のような平凡な観客には残念ながら役立っていなかったような気がする。唯々、綺麗だな、面白いな、うん流石と思ってぼうーっと観るのが常だった。つまり、著者のアドバイスは頭から消えている(申し訳ない)。
勿論、時には「あの大根!」とか「そんなにリアルにするなョ、恥ずかしいじゃないか」と内心舌打ちすることもないではなかったけれど……。後で思うと著者の言わんとすることはこれだったのか思うのだけれど。歌舞伎の役者というのは大変だな、と思う。様式美という縛りの中で、己の個性を昇華させるのは並大抵の努力を必要とするだろうから。
それにも増して、劇評家である。そんなことにまで気を使って芝居を観ていて辛くはなかつたのだろうか(勿論、著者はそうした中で歌舞伎を堪能したと言っているけれど…)。私としては取り敢えずは、ぼーっと観て「良かった!」で充分なのだが……。