細 将貴著 東海大学出版会
サブタイトルは「追うヘビ、逃げるカタツムリの右と左の共進化」。これで本の内容が見当ついた人は、かなりの生物学通。私も相当なオタクだが、さっぱり見当がつかず本書を買ってしまったというわけ。
本書の基本的テーマは「右利き・左利きが何故存在するのか」ということ。人間はもとより、自然界には左右非対称な生き物が存在する。海辺でよく見かけるシオマネキの巨大なハサミ脚はどちらか一方だし、しかも左と右にある比率は半々ではない(進化論から言えば、どちらかが自然淘汰されていい筈。ヒトでも圧倒的に不利な環境にいる左利きはね相変わらず存在している)。どちらかに偏っているのだ。実は、これがすっきりと解明されてはいないらしい。ヒトの全ゲノムが解析された今では、とっくに解明されたと思っていた。
それにしてもだ、その研究材料にヘビとカタツムリ? もう少しポピュラーな生き物にしてほしかった。正確に言うと、ヘビはイワサキセダカヘビ、一方はクロイワヒダリマキマイマイ。ご存知でした? 専門家に言わせると、この着眼点はユニークだったようだ。かくして著者は、右利き・左利きの発生に「ヘビ仮説」を立てて研究を進めたようだ。このプロセスがとても面白い。
どうやら当初に立てた仮説を十分立証できなかったようだ。それでも、かなりな評価を得たそうである。それでいいのだと思う。著者はまだ若い(1980年生まれ)。失敗するチャンスは充分ある。失敗が許されない高齢の学者が歯噛みするくらい。
異次元を遊べる楽しい本です。