人類20万年遥かなる旅路

2013-05-22 15:41:20 | 日記

アリス・ロバーツ著   文藝春秋刊

前回の人種は存在しないを自分なりに総括する意味で本書を読んだ。成り行きで『人類の足跡10万年全史(スティーブン・オッペンハイマー著 草思社刊 2007年』『一万年の進化爆発ー文明が進化を加速したー グレゴリー・コクラン ヘンリー・ハーペンディング著 日経BP社刊 2010年も読むことになった。
まず、本書の『20万年…』
は「人族(ホミニン)」つまりホモサピエンスの誕生時点からの人類史の考古学的考察をを実際に訪れ、発掘した学者にインタビューしたもの。一方『10万年…』は現生人類が出アフリカを果たした時点(19万5000年前?)を意味し、DNA分析で地球上の人類の系統樹を中心に人類の発展史を記述している。
この二冊を読むと、人種などというものは存在しないことがよく分かる。乱暴な纏め方をすれば、出アフリカを果たし、あっという間に南アメリカの最南端に達した(生物史的には本当にあっという間なのだ)現生人類は、混血に混血を重ねもう少しで70憶に達する。ということは、現生人類はたった一種類なのだ。99%同じDNAを持っているからこそこれだけ繁殖したのであって、例えばウマとロバの混血は子孫を残せない、つまり一代雑種なのだ。現生人類にはその例がない(あるのは病気で、これはほかの生き物にも共通)。
これら2書に比べ『一万年…』
 は、農業や科学が発達してきた一万年前からの記述で、読み方を間違えると「だから人種はある」という人の意を強くさせるかも知れないが、それが単なる思い込みであることを悟らされる破目になる。
へんな譬えだが、ポメラニアンもハスキーもブルドックもイヌなのだ。人間が意図的に交配させた結果であって、油断すれば唯の雑種のイヌに戻ってしまう。現生人類は出アフリカを果たしたホモサピエンスの雑種の末裔なのだ。乱暴すぎたかな? 相撲や落語ならば内弟子、歌舞伎ならば名題下、つまり名乗りが付かない。現生人類はせいぜい出身地が分かる程度、生物史の位置はその程度なのだ。

 


サイコパス  -秘められた能力-

2013-05-13 16:01:25 | 日記

ケヴィン・ダットン著   NHK出版刊

「サイコパス」という単語から、どんな人物を想定するだろうか? 残念ながらコチラの方面に疎い私は連続殺人犯や異常性愛者、稀代の詐欺師くらいしか思い浮かばない。言ってみれば余り興味のないジャンルにも拘らず本書を買ったのはオビのコピー『大統領も、CEOも、凄腕スパイも、じつはサイコパスだった! 「犯罪者」と「成功者」、その分かれ目はどこにあるのか』による。しかも「アメリカには200万人、日本には10万人もいる!?」とある。
しかし、コピーがそれ相応の意味を持つことに納得するまで少々時間がかかった。そして、読後には「そうかも知れない」と思った。大統領を筆頭に、弁護士・為替ディーラー・外科医などが挙がっているが、確かにサイコパスの素質がないと出来ない職種かもしれない。そして、途中であなたも気が付くかも。「自分にもサイコパス的人格」があることに……。つまり、10万人の一人かも知れないと。幸いな、あるいは不幸にも「それは思うだけ」に終わる。何故か? ここから先は本書を読んで欲しい。
そこでだが、私やあなたの周辺にもそれらしい人が居る事に気が付くかも知れない。さて、どう対処すればいいか! も含めて読むとなかなか含蓄があるように思うが、どうか…。


卑弥呼と邪馬台国の謎

2013-05-12 16:52:54 | 日記

歴史人  2013・6月号

今月号の特集はタイトルの通り。これまでの様々な学説を集大成したもの。興味のある人には馴染みの説だが、それぞれを比較検討できる構成になっている。どちらを支持するにせよ、いずれも問題点があることが要領よくまとめられている。
読みどころは「新説! 邪馬台国を作ったのは出雲勢力だった!」ではないだろうか。以前紹介した『出雲と大和』の著者、村井康彦氏が監修している。おそらく、こうした特集で邪馬台国・出雲説が登場するのは初めてではないだろうか?(多分…)。 これまでの各説と比較してみると、とても面白い。
私事だが、これで『備後国風土記・蘇民将来』の意味する所が見えてきたような気がして来た。


姫神の来歴  -古代史を覆す国つ神の系図-

2013-05-06 16:39:57 | 日記

高山貴久子著   新潮社刊

う~ん、なんとも言えない。視点は面白いし、資料の解釈もユニーク。特に専門家が余り注目していなかった文献を渉猟したのはなかなかだと思う。国つ神に論点を絞ったのがいい。唯、文献や資料に関しての解釈が平凡すぎる。もう少し吟味が必要ではなかったか? 著者略歴を読むと急逝されたそうで惜しまれる。もっと新しい展開が期待できただろうに……。
しかし、読んでみる価値はあるかもしれない。思いもよらない展開だが、「そうかも知れない」という予感を持たせるのがいい。著者が挙げた資料を詳細に分析してみるのも面白いと思った。


地球全史の歩き方

2013-05-04 16:27:59 | 日記

白尾元理(もとまろ)著   岩波書店刊

大人の絵本。唯、唯、大自然の凄さに圧倒される。同じ撮影者の大判の写真集を見てみたいと思うが、かえって実地に行って見たい思いに火が点くと思うので、この一冊に留めておくことにすることにした。なにしろ、エディアカラ動物群が見つかった現場なんて、化石のアップ写真は沢山みたけれど、現場のカラーの全体写真なんて見たことがない。いや、列挙するには多すぎる。体力と金があったら、と思った。
ただ、蛇足だけれど、なぜ「全史」としたのだろう。内容から見ると「地球前史」とした方が相応しいような気がするのだけれど……。それに「全史」となると人類が犯した愚かな現場写真も必要になるし。


人種は存在しない  -人種問題と遺伝学-

2013-05-03 09:33:00 | 日記

ベルトラン・ジョルダン著   中央公論新社刊

テーマが直截なので買った。
「人種」って言葉、嫌いだな。というか、ぞっとする。この言葉を錦の御旗にどれほどの人々が虐待され、殺戮されたのだろう!? というのが、世界の常識の筈だが、どっこい未だ世界のあちこちでこの思想は健在である。どうにかならないのだろうか?
本書はタイトルで分かるように、最新の科学データを元に「人種は存在しない」ことを実証した本なのだが、尽々思うのはこの思想が人類共通の認知を受けるのは4分の一世紀か、下手すると半世紀が必要になるかもしれない。どうしてか? それは過去の歴史が雄弁に物語っている。社会的な利害関係や国際的な権力争いもあるだろうが、どうしようもなく存在する最悪の原因は宗教的信念と独裁的国家の独り善がりである。過去に何人かの識者が「人種は存在しない」と主張したが、力ずくで否定されてしまった。これはもう人類の叡智の進化を待つより他ない。
という理由で、いまは暗澹たる心境にいる。何故「人種は存在しないか」については、もう少しスッキリ纏めたいので後日に…。