夜の日本史

2013-11-22 09:01:38 | 日記

末国善己著   辰巳出版刊

本書を要約すると、歴史上に登場する男女69人の風説・スキャンダルを集めた本。内容的には日本史に詳しい人ならば、真偽はともかく知っていることが大半である。しかし、これで「…日本史」というタイトルを付けるのは勇み足だろう。しかし、これだけ集めると、それなりの面白さはある。ただ、外国には類書がごまんとあるので新規さはない。
もうひとつは、渉猟する範囲が狭いことだ。例えば、源頼朝を取り上げるならば、平清盛と建礼門院のスキャンダルも取り上げていい。なにしろ黄表紙になったくらいなのだから。同じように、井伊直弼と長野主膳と愛人の三角関係も面白いのに。但し、明治以降は、完全にスキャンダルで、「…日本史」というタイトルには遠い。もう少し、文献の渉猟範囲を広げて欲しかったし、深みがあってもよかった。せめて、200組くらいは…。出版するのには、早すぎたというか中途半端だ。
とは言え、気晴らしに読むには面白い。


進化する魚型ロボットが僕らに教えてくれること

2013-11-19 14:49:52 | 日記

ジョン・H・ロング著   青土社刊

化石に残っている生物が生きている時、どう動き周っていたのか? 進化のプロセスをこの目で実際に見てみたい! と、思うのは生物学者に止まらない。私達だって、進化論をこの目で確かめたいと思うはずだ。
それにチャレンジしたのが、ロボット工学者の著者だ。もっとも原始的な生物ロボットにまず水中で泳がせる、それも自由自在に(著者の場合はオタマジャクシをモデルにしたロボットからスタート)。しかし、なにか足りない。柔軟性がないのだ。なにが必要か! それでも上手くいかない。そうだ。背骨だ。では、部品を改良して、取替えよう。この試行錯誤のプロセスが本書のテーマだ(著者の最終モデルはカジキマグロに似たロボット)。つまり、部品=遺伝形質→遺伝子。これまでとは、違う生物学のアプローチだ。
そこで、生物学は分からないけれど、ロボット制作ならばお任せ、という人達の出番だ。水中を自由に泳ぎまわる→手足ができる→地上で立ち上がる。進化論そのまま。但し、肺呼吸をするとか、受精するとかは無視して(しかし、捕食という機能は無視できませんが)。
発想がいい。しかし、ロボットの製作段階の解説はお手上げでした。唯、進化というのがとても複雑なことは十分理解したつもり。ロボット作成に興味のある人は、チャレンジしてみる価値がある。もしかすると、進化論の新しい一ページを創る事ができるかも……。


ハリウッド検視ファイル -トーマス・野口の遺言-

2013-11-13 15:03:09 | 日記

山田敏弘著   新潮社刊

トーマス・野口という人物については、現代アメリカ史によく登場する人物なのでよく知っているつもりだった。もちろん、彼が日本人であることも。迂闊だったが、彼が人種差別を猛烈に受けた人だったことにまでは思い及ばなかった(というのも、様々な殺人事件の解決者、検視官として立ち会った本しか読んでこなかったからだ)。その意味では、彼のプロフィールを知ることが出来る本。
という話はさて置き、本書では誰でもニュースで知っている、現代アメリカ史における事件の真相を知ることが出来る。マリリン・モンローの謎の死、ケネディ暗殺、シャロン・テート事件、ナタリー・ウッドの死等が列挙されている。
同時に、検視官という職業(例の、女性検視官のシリーズを思い浮かべる人もいるかも知れない)の難しさも分かる。面白い。


さよなら、オレンジ

2013-11-11 14:56:58 | 日記

岩城けい著   筑摩書房刊

キーワードは、「私は自分で自分の出入り口をつくらなくっちゃなりません」という言葉に尽きるだろう。本書はアフリカを後にした女性と、日本を後にした女性の、オーストラリア語(敢えて、言うが)を習得するまでの物語である。彼女達の身になって考えるまでもなく、我が身に置き換えても、その困難さは解る。自分の住処、アイデンティティと言い換えてもいいが、それを得るための、その必死さはよく分かる。
問題は、「思考するベースまでが、習得した第二言語になれるか?」ということであろう。おそらく、自分の論理を組み立てる時には、母語で組み立ててから、習得した第二言語に翻訳するだろう(私ならば、そうする)。その過程のもどかしさは、痛いほど分かる。
話は飛ぶが、最近の低学年の児童に対する早期英語教育である。母語・日本語をマスターしないうちに英語教育をして、何を期待しているのだろうか? 私には理解できない。結果として、どっち付かずの人格をつくってしまう危険はないのか。
未熟な英語の演説で世界の失笑をかった、最近の首相がいたのは記憶に新しい。英語圏の人々にも、夫々の民族に特有のアイデンティティがある。今の英語教育でそこまで習得できるとは、とても思えない。
本書は深か読みすれば、そうした問題を提起していると思うが……どうだろうか?


「本」に恋して

2013-11-03 15:18:32 | 日記

松田哲夫著   新潮社刊

誰でもが面白いと思える本ではない。しかし、編集者や本作りに興味のある人達には恰好の本。装丁から製本、函、紙、インキまで、本作りの基本が書かれている。
それはともかくとして、無我夢中で奔り廻っていた若かりし時を思い出してしまった。私は著者とほぼ同時期に編集稼業に入った。つまり、本書に書かれた本作りの工程は一応知っているし、何工程かは実際に経験している。唯、決定的に違うのは背負っている看板の格の違いである。著者は大手出版社、私は中小出版の末席の会社だった。別に、卑下しているわけではない。私の場合は、編集者になった途端、現場に放り込まれた。予備知識なしである。これは少人数で出版点数を稼がなければならない小出版社の宿命で、言い換えれば急いで一人前?に育てなければならない事情による。
多分、そのお蔭で例えば紙屋では希望通りの紙は手に入らないけれど、値段との折り合いで沢山の紙から選択しなければならない、という経験もした(それが、大当たりだったことも稀にはあった)。勿論、布引きの表紙も作ったし、箔押しの本も作った(金型がとてつもなく高くて、採算を取るために著者引取りの交渉などという厄介な局面もあった)。
逆に、大手の社員だからこそ経験された工程もある。例えば、紙を抄く工程は見ていない。現場に入らせて貰えなかった。まして、束見本を自分で作るなんて体験は望んでも出来なかった(束見本、大好きだったのに)。羨ましい。
その替わり、継ぎ表紙(モロッコ皮の継ぎ表紙で、あの皮を20数枚に剥ぐ職人の作業に立ち会ったことも)、天金張りの辞典とかも作った。何でも作る、制作部もない小出版社の役得である。
それにしても、著者が指摘するように上製本というか、装丁の美しい本がなくなったのは淋しい。
最後に、イラスト担当の内澤旬子さんの緻密なイラスト、いつもながら素晴らしい(実は、ファンです)。自身が装丁家なので、要領を得ている。遠くから、拍手です。