なぜ人間は泳ぐのか? -水泳をめぐる歴史、現在、未来-

2013-06-28 15:16:44 | 日記

リン・シェール著   太田出版刊

本書は水泳(スイミングと言ったら良いのだろうか?)をこよなく好きな人には、面白い本だろう。それどころか、一行・一言に「うん、うん。そうなの!」と首肯しながら読む筈だ。あいにく、私は金槌(敢えて漢字で書きたい!)なので、そこまではシンクロできなかった。多分、好きな人達には……と思っただけだ。
著者は70歳を目前に控えた女性。その御歳で、トルコどギリシャを隔てるヘレスポントス(ダーダネルス)海峡を完泳した話を横軸に、水泳の歴史を縦糸に著述した本。当然だが、私は専ら縦糸の方に興味を持って読んだ。
蛇足だとは思うが、本文欄外下のカットが洒落ている。左手に本の背を持ち、5ページ目から早送りで見るといい。本書にピッタリのカットである。本文に目を取られていると気がつかないかもしれないが…。


マグナカルタ Vol・3

2013-06-25 16:06:23 | 日記

ヴィレッジブックス刊

サントリー二代社長・佐治敬三の伝記が載っていると早合点して買った本。実は、それは第一回目で物足りなかった(というのも、A5判で292頁もあったからなのだが)。
クォータリーとあるから季刊誌なのだろうが、創刊号を見ていないので、この雑誌のコンセプトは分からないが、どうやら「人間というか人物」に焦点を合わせた雑誌らしい。目次を見ると結構おもしろい人物やテーマが挙がっているが、各著者のアプローチは様々・多岐に亘っていて(そこが狙いなのかも知れないが)、よく言えば宴会料理、私に言わせればゴッタ煮という印象が強い。
多くの読者が私と同じ感想を持つとは思えないし、それが面白いという人もいるかも知れない。唯、全体に言えることは総じて著者たちの突込みが浅い。雑誌ということもあるだろうが、どれも舌足らずの感が否めない(何点かはその限りではないが)。季刊誌は週刊誌ではない。
改めて、創刊のコンセプトを読みたい。雑誌の冒頭に、コンセプトを毎回載せるべきではないか?


フィールズ賞で見る現代数学

2013-06-24 15:56:20 | 日記

本書は、数学を勉強し始めた人か、かつて数学に親しんだ人には恰好の本だと思う。素人には全く歯が立たない。
とは言うものの、多少とも数学や数物に興味を持っていた私には、辛うじてその一端は理解できた。そもそも数学学者には「定理の樹立」という夢?があるのだけれど、その一歩手前、あるいは二歩手前まで到達した人達が数多くいる(物理を初め、他の学問も事情は同じだが…)。そして、栄誉は最後に纏めた人間が手にするのだが。この経緯がドラマチックだ。
但し、その心算で読むと肩透かしを喰う。冒頭で書いたように、これを理解するには基本的素養が必要だ。なにしろ「数学のノーベル賞と言われる、フィールズ賞」を受賞した数学者の業績を概説した本なのだ(2006年まで)。それも文庫本でたった203頁(本文のみ)。凄い!!
唯、この本で日本人としてほっと!できるのは、この受賞者に三人、そして選考委員には九人日本人がいることだ。あとは、言うまい。


樅の木は残った 続

2013-06-21 15:40:34 | 日記

以前に、本書は「歴史小説では唯一の政治小説だ」と評した書評を紹介した。正しく、そうだと思う。
本書に悪人は登場しない。政治とは、政権を担う政治家の政治信条によって施行され、当然だがそこからは政治利権が生じる。本書の主要な登場人物は突き詰めて言えば、その政治利権に振り廻された人達である(何人かの小悪党はいるが、それ自体はめずらしくもない)。誰もが自分の主張に疑問を持っていない。それどころか、それなりに正当性を確信している。
ここが、ポイントかも知れない。政治信条→政治利権→自分の主張は正しい、という構図がそうさせているのである。勿論、甲斐も埒外ではない。仙台藩六十万石の安泰という「政治信条」に拘束されているのだ。
世界の国々の騒乱を見てもその構図が見て取れる。日本でも、例えば原発ひとつ以ってしても、その構図が透いて見える。その意味では、この小説は充分現代的でもある。
それにしても、原田甲斐宗輔の深謀は見事というしかない。歌舞伎の『伽羅先代萩』の仁木弾正は極悪人として登場する。これは、幕府・仙台藩が甲斐の筋書きをそのまま踏襲したものである。原田甲斐の目論見どうりだったということである。


樅の木は残った 上・下「山本周五郎長編小説全集 第一巻・二巻」

2013-06-20 08:36:43 | 日記

新潮社刊

本書シリーズの広告を見た時、驚いたことがある。「脚注付き」というのは、古典か翻訳物というイメージがあったので「山本周五郎の作品は、もう古典になったのか?」という驚きだった。『古事記』や『徒然草』『平家物語』、『ゲーテ全集』は、脚注がなくては到底読めないものだったからだ。こんなことを目にするとは思ってもいなかった。
実際に手にとって見ると、私には鬱陶しかった(評者の中には肯定する人達もいるようだが)。考えてみると、発表されてから約半世紀経っている。しかし、初めて読んだ時に辞書を引いた覚えはない。多分、当時は歴史・時代小説の全盛時代で、知らず知らずにこうした用語は身に付いていたのかも知れない。ついでに言えば、最近の時代小説には脚注はいらない。というか、時代考証がなっていないし、時代設定が江戸期を借りているだけで中味は現代小説だからだ。
それにしても、生きているうちに山本周五郎の作品を脚注付きで読むとは、ホント思ってもいなかった。
本書については、後日に…。何度か読み直した本だが、やはり新しい感慨がある。


出雲大社[第三版]

2013-06-14 09:37:15 | 日記

第八十二代出雲国造 千家尊統著   学生社刊

立花 隆氏が名著だと推薦していた本。先に読んだ本は、出雲大社に関する広範囲なテーマを扱ったものだったが、本書は出雲大社の宮司が出雲大社そのものの成り立ちから、出雲に関する神話、そして古代出雲にあった二つの勢力、出雲大社親祭の詳しい話、出雲の国造とは何か、古代から綿々と伝わる神事などが詳述されている。
今回の御遷宮が今日にまで続いた経過などは、知っているようで知らない、というのが一般人の認識ではないだろうか? 私が知りたかったのもその辺りにある。
これ以上は書けない。たとえば、国造という系譜が今日までずっと続いているのはこの出雲の他には、紀伊国造と阿蘇国造家しかないそうだ。なぜ、続いたのか、読んでみたいと思いませんか。


出雲大社 -日本の神祭りの源流-

2013-06-10 15:22:06 | 日記

千家和比呂・松本岩雄編   柊風舎刊

週刊文春の「私の読書日記・立花 隆」推薦で買った本。編者のひとり千家氏は、出雲大社の現宮司の弟で、自身も権宮司で今回の遷宮にも中心的に関わった人。立花氏が「いちばん情報が豊富」と評していたので、読んでみた。
感想からいうと、要するに「専門家・学者が要点のみを記述」したもので、図版も豊富だし最新の成果が記されていて、確かにその通りなのだが、如何せん専門的過ぎる。それぞれの記述が、どういうことを意味しているか、そこからどいうことが言えるのかがいまひとつ分からない。立花氏のような博覧強記の人には「情報が豊富」と言えるのだろうが、素人には歯が立たない。ということで、同氏が推薦のもう一冊を近々読むつもり。書店に在庫がなかったので取り寄せになるので、少々時間がかかる。
それを読んでから、改めて感想を書いてみたい。


鮨 そのほか

2013-06-07 08:54:26 | 日記

阿川弘之著   新潮社刊

随分久しぶりで著者の作品集を読んだ。
端正な文章といい、論旨がすっきりしていることといい、懐かしい思いで読む。「少なくなったな、」というのが感想である。なにより、日本語が綺麗だ。それに最近の著者のように知っていること書きたいことをだらだらと書いていない。時に読んでいて「それがどうした? 何が言いたいんだ!」と、突っ込みをいれたくなるが、それがない。言葉使いひとつで著者と登場人物の間柄が分かる。最近の著者はここを矢鱈書き込んでいて、煩い。
それにしても、この旧仮名遣いの文章が読めなくなるとは思いたくない。と言っても、最近の人達には分からないかも知れないが…。娘さんの佐和子さんに頑張って貰って、一冊でも二冊でも出版して貰いたい。
収録されている小品はそれ以前のものだが、「あとがき」でも分かるようにその健筆は今尚鋭い。我が身の衰えを泰然と肯定している姿勢に頭が下がる。
きっと、私は本書を何度も読み直すだろうな。


プレジデント・クラブ  -元大統領だけの秘密組織-

2013-06-04 15:25:27 | 日記

ナンシー・ギブス/マイケル・ダフィー著   柏書房刊

サブタイトル通り、アメリカの元大統領経験者だけのクラブ(サブタイトルには、秘密…とあるが公認の組織らしい)。このクラブの歴史はそれほど古くはない(31代・ハーバード・フーヴァー、1993年かららしい)。
このクラブの主旨は分かり易い。「米国大統領は、時に党利党派おのれの信条を別にして、国家・国民のために決断しなければならない。その孤独感、心境の迷いは経験者にしか分からない。そうであるならば、我々も党利党派おのれの信条を捨てて大統領を助けようではないか」というものだ。この心境はトップに立った人間ならば同感できる筈であるが、ここまで「無私」に協力できるのは、国家と国民の将来を決める大統領という職の経験者だけだろう。勿論、すべての元大統領がそうだったというわけではなさそうだ。しかし、こうしたシステムがアメリカの永続したスタンスを維持できた理由でもある。
翻って日本。明治・大正・昭和の初期まではそれらしきものがあった。「元老」制度である(あまり上手くはいかなかったが…)。しかし、今の時代にそれらしきものがあるのかどうか、私は知らない。ましてや、そのメンバーは想像できない。
とにかく、これまでのアメリカの政治史とは一味も二味も違う面白さがある。ライバルだった元大統領が、現大統領のために特使を買って出て世界中を飛び回る。しかし、本音は「彼は好きじゃない。しかし、アメリカのためだ」と呟く元大統領は、結構恰好いい。
日本の政治家、とくに最近の政治家、ガキですねぇ。


市川中車  -46歳の新参者-

2013-06-02 15:53:09 | 日記

香川照之著   講談社刊

歌舞伎役者に46歳でなれるとは思わなかった。確かに、映像の世界では日本アカデミー賞を始め数々の賞を貰った人なので、演劇に関してずぶの素人だとは言えないだろうが、なにしろ歌舞伎である。そう簡単になれるものではないだろう。しかし、見事に初舞台を勤めたのである。私も劇評を読んだが、好演だったという。月並だが、やはり血筋なのだろうか、それとも俳優としての蓄積なのだろうか。素人には分からない。
ただ、決断した歳が46歳だったというのがギリギリの歳だったのは確かだ(本人の弁)。30代ではプライドが許さないだろうし、50代では身体も頭もついていけなかったかもしれない。先輩・後輩のアドバイスを素直に聞ける根性を持続できる歳の限界だっただろうと思う。この先は分からないが……。
しかし、である。読後として、どうも消化不良なのである。決断した動機がいまひとつはっきりしないのだ(家業を自分の代では絶やせない。息子は猿之助の直系だから、とかいろいろ言うが)。喉に棘が刺さったみたいでスッキリしない。勿論、今の彼の立場でなにもかも書くわけにはいかないのは承知しての話だが。これからの活躍に期待したい。