天皇と葬儀  -日本人の死生観-

2014-02-25 16:24:49 | 日記

井上 亮著  新潮新書

ユニークな本である。天皇家の葬儀の通史というのは初めて読んだ。葬儀の歴史? と首を傾げる人も多いかと思うが、土葬で葬るか、火葬にするか、これ事態問題であるらしい。宮内庁から「今後の御陵と御葬儀のあり方」が発表されたが、そこにどんな問題があるのかを正確に理解した人は多くなかった筈だ。本書はそれを古代から現代まで、通史で述べられている。
もうひとつ、葬儀に仏教僧が関わった時代が何時だったかも教えてくれる。我々には至極当たり前なことなのだが(神式の家もあるが)。この経過も読んでいて、なるほどと思った。
天皇家という一見遠い存在の葬儀が、実は我々庶民の問題であることがよくわかる。ご一読を。


字幕の花園

2014-02-18 15:05:05 | 日記

戸田奈津子著   集英社文庫

いきなり、本題から。最近若い人たちは洋画の吹き替え版を好むそうだ。現象的には字幕離れということになる。洋画の楽しみ方が変わったのかな。分からないままに英語・仏語・イタリア語の雰囲気を楽しんだ私達に比べ、ストーリー重視になったということだろうか。著者はいずれ日本語吹き替え版が配信されるのではないかと、心配している。私としてはヘンな日本語でなければいいがと、危惧しているのだが…。バイリンガルの人たちが増えているとはいえ、彼等が日本語に習熟しているとは思えないのだが(最近の、日本語の乱れからしても)。
著者は字幕製作者。私の若い頃は清水俊二(?)だったと記憶しているので、著者の字幕による洋画は沢山は観ていない(バブルのせいで観るヒマがなかった。言い訳だけれど)。しかし、耳に入った英語や仏語と字幕を比べて、そうか、こういう意味、こういう風に翻訳するんだと感激した覚えがある。
そうなのだ。映画は(この場合は洋画だが)、俳優の演技と会話を含めて楽しむものだった。例えば「愛している」という言葉が英語よりイタリア語より、フランス語の方が情感たっぷりだったな、なんて感激は、字幕があってこそだった。これから、どうなるのかな?
書き忘れたけれど、本文ではヒット作品の出演者や撮影の際のエピソードのほかに、作品の中のちょっと素敵だったり、極め付けの台詞が原文と実際の字幕(多分?)で紹介されています。読みどころはここ。実際に応用するヒントを教えてくれています。洒落た英会話をしたい人にはぜひオススメデス。


失われた名前 -サルとともに生きた少女の物語-

2014-02-09 15:34:08 | 日記

マリーナ・チャップマン著   駒草出版刊

本書は、誘拐されて南米のコロンビアの密林に捨てられ、ナキガオオマキザルの群れに育てられた女性の物語である。5歳からおそらく10歳前後まで。現在はイギリスに住み、子供3人と孫3人に恵まれた生活を送っている。しかし、彼女が人間社会に復帰してからの生活は凄まじい。ストリートチルドレン、ギャング、売春宿、修道院のお仕置き。
本書を通読しての第一印象は、サルの優しさと、人権を無視し自分達の欲望のままに人を扱う人間の残酷さである。もしかすると、本書のメインテーマはこちらにあるのではないかと思ってしまう。
ぜひ読んで欲しい。野性の生き物の生活と、人間の社会。妙に哀しい気持ちになってしまった。私と同じ感想を持つかどうか分からないけれど、ぜひ読んでみてほしい。


我に秘薬あり -家康の天下とりと正倉院の名薬「紫雪」-

2014-02-03 15:47:35 | 日記

山崎光夫著   講談社刊

徳川家康の医者嫌いと、自ら調薬したプロ顔負けの調剤師だったことは、史実にも詳しい。しかし、究極の解毒剤を求めていた家康の側面は、これまで知られていなかった。
本書は、そこに焦点を当てたもの。著者は漢方薬に詳しい人らしく、その秘薬に使われた薬剤を詳細に追求している。
本書の最大のポイントは正倉院にある。何故? 正倉院。ここが読みどころ。面白いですよ。同時に、戦国末期から徳川時代にかけての漢方医の系譜もわかる。私としては、この辺をもう少し詳しく知りたかったけれど。
もうひとつ。家康の側近・黒衣の宰相と言われた天海も、一枚噛んでいたのではないか? なにしろ108歳まで生きた坊さんだから、お裾分けでそれを飲んでいたではないか、と思うのだけれど、どうだろうか。