船の旅 -詩と童話と銅版画 南 桂子の世界-

2014-04-30 15:35:59 | 日記

筑摩書房刊

書評を見て買った本。南桂子は1911年生まれの人。詩も銅版画も詳しくはないのだが(そもそもこの人のことは全く知らなかった)、観ていてほっとするのがとても気に入った。画の線は単純というか省略しきった絵なのだが、ほのぼのとした雰囲気がある。きっと小さな子にはとても分かり易く、想像が膨らむ絵だと思う。
1992年・81歳までの絵が収録されているが、最後までタッチは変わっていない。大人が手にとっても充分楽しめる。早速、孫に送るつもり。


宇宙の扉をノックする

2014-04-29 09:09:08 | 日記

リサ・ランドール著  NHK出版刊

やっと読み終わった。私にとってはこれはリベンジになる。前著『ワープする宇宙』で三回読んで、挫折した。というか、「5次元時空」という概念が掴み切れなかった苦い思いがあったからだ。
今回、それが氷解したかというと正直言って自信ない。しかし、前著よりはかなり分かり易く書かれているのは確か。という訳で何が分かったかと言うと、要するに宇宙に関しては過去も現状も、未来もまだ解明できてはいない、という事。しかし、かなりのところまでは分かりつつある、というのが現状らしい。
ただ、私が読んで良かったとおもうのは、例のLHC(大型ハドロン衝突型加速器)についてである。あの山手線一周ほどもある地下に作られた実験施設、ついこの間ヒッグス粒子を見付けたあの施設である。どうして見付けたと言えるのか、それがどうしても分からなかった。本書はこれらについて丁寧に説明されているのが嬉しい。どういう設備で、どんな実験をして、その結果をどう理解するのか、それを詳しく説明している。というのも、探している粒子そのものが見付かる訳ではないのだ。ある事象が観測された場合、結果から逆に類推して、この粒子が存在していない限りこの現象は起こらない。従って、この粒子は存在していた、と結論するのだ。
まるで犯罪の科学捜査みたいの手法だ。この類推する根拠を与えているのが、数学、著者の専門分野ということになる。
ここだけ読んでも、これから発表されるだろうこの実験施設の結果を理解するには役立つ。
今回はここまで。正直言って、3カ月かかりましたよ。


シモネツタのどこまでいっても男と女

2014-04-29 08:32:43 | 日記

田丸公美子著   講談社刊

久しぶりで著者のシモネツタシリーズを読んだ。イタリア語同時通訳の第一人者だけれど、私は米原万理との関連でこの人のエッセイのファン。相変わらずの軽妙な文章は面白いが、今回は少々趣きが違っていた。目次を紹介する「とかく夫婦はままならぬ」「男と女の仁義なき戦い」「波瀾万丈な父母の人生」「シモネツタの忘れえぬ男たち」。印象に残るのは三番目。
そうか、この人にもこんな背景があったのだと納得した。別に際立った人生ではない。私たちの世代ならば大小の違いはあっても、似たような人生を経た親を持っているから、この人も同じなんだなと思ったくらいだ。違うのは、これまでの著者の軽妙さを保ちながら、それを飾り気なく書ききっているところだろう。こういうことを書ける世代になったのだな、と思った。なかなかこうは書けない。著者の筆力に感心した。
それにしても、イタリア、特にイタリアの男たちの観察力は素晴らしい。同時通訳をするにはこれくらいの素養が必要なのだろうな。彼等のジョークに即座に切り返すには、さぞかし月謝を払ったのだろうな。


辞書になった男  -ケンボー先生と山田先生-

2014-04-21 15:19:22 | 日記

佐々木健一著  文藝春秋刊

三省堂の『三省堂国語辞典』と『新明解国語辞典』を作った二人の男の物語である。
読み終わった第一印象は国語辞典にはこれほど個性があって、人間くさかったのか、ということだった(私は両方持っていたので、読みながら納得したのだが)。しかし、本文中で言われている事だが、辞書は読み物ではないので、ここまで深か読みすることがなかったのも事実。本書を読みながら、手元の他の辞書も引いてみると、成る程と思われるに違いない。
ただし、国語辞典の定義にもよるだろうが、わたしにとっては本来の意味とは違う使われ方をしている事が多い(最近はこちらの方が断然多い)ので、それを確認するために専ら使っている。本当は「古語辞典」を使うべきなのかもしれないが。と言って、国語辞典が現代を映す辞典だという意義を否定するものではない…。
決して退屈しない本。まさか手元にある辞典に、こんな物語があるなんて、きっと驚くに違いない。とりあえず、気になる言葉を幾つか引いてみるといい。あなたが思っている通りの意味だったらいいのだが、ちょっと違うと思う解説もあるかも知れない。
因みに、私は両方持っているけれど『三省堂国語辞典』派です。


考える人  特集・海外児童文学ふたたび

2014-04-19 08:56:46 | 日記

2014年春号  新潮社刊

書き漏らしていた。『考える人』春号は、海外児童文学の特集だった。村岡花子を読んだ方は続いて本書を読むことをお勧めします。村岡花子のほかに石井桃子にも言及されているが、その他海外の主要な児童文学が特集されている。『ムーミン』『メアリー・ポピンズ』『鏡の国のアリス』『雪の女王』『モモ』『長くつ下のピッピ』『飛ぶ教室』『さんご島の三少年』、他にも『ノンちゃん雲に乗る』『幻の朱い実』(私は読んでいないけれど)といった児童書が取り上げられている。
読後感として思うことは、意外とこれら児童書に自分がかなり影響を受けているということだった。なにしろ、「そうだった」「そういえば、似たようなことを真似して遊んだっけ」という想い出が次々に浮かんで来るのに、自分自身で驚いた。そして、ここが重要なのだが、多かれ少なかれその後の私の人生に影を落としているのだ。
もう疾うに遅いが、子供には良い本を沢山読ませるべきだと思う。それにしても、良い本を読んでいて良かった。きっと読み返したいと思う人が多いのではないだろうか?

 


村岡花子

2014-04-15 08:40:46 | 日記

KAWADE夢ムック

彼女が『赤毛のアン』シリーズの翻訳者であることは知っていたが、『フランダースの犬』や『ハックルベリィの冒険』『クリスマス・カロル』も翻訳していたことは知らなかった。何しろ翻訳者を確認して読む習慣はないというか、娘がテレビでアニメを見ているのを横目で見ていたくらいなので。つまり、その手の本を読む年ではなかった。というと、言い訳になるが…。
むしろ、女性教育評論家、市川房枝と一緒に婦人参政権を戦った運動家という印象の方が強い。
それにしても、明治生まれの人は強い。ふたつの大戦を生き抜いて来ただけでも大変なのに、敵性語の英文学を翻訳するというのは正に命懸けのことだったに違いない。とても今では考えられない。
という訳で、いろいろな意味で読み応えがあった。テレビドラマ化されるそうだが、どこまでこうしたことが描かれるのでだろうか。


小山三ひとり語り

2014-04-13 08:52:15 | 日記

中村小山三著   演劇出版社刊

17代・18代中村勘三郎、現勘九郎、七之助の中村三代に仕える女形、小山三のひとり語りの自伝。御歳九十三歳。脇役とは言え、歌舞伎界の生き字引。
歌舞伎ファンならば誰でも知っている人なので、これ以上の紹介は野暮というものだろう。とにかく面白い。それも歌舞伎を正面で観ていては分からない話が、次から次へと展開されている。これを読んだあとでは歌舞伎の観かたが変わる。
しかし、なにしろ四歳で入門した人、つまり90年の歌舞伎を舞台から見た人の話は、ちょっと聞かれない。凄い人、としか言いようがない。ぜひ、ご一読を!


仏典はどう漢訳されたのか -スートラが経典になるとき-

2014-04-04 08:58:59 | 日記

船山 徹著   岩波書店刊

久し振りで手を挙げた。素人が読む本ではないと思い知らされた。しかし、テーマは面白いのである。インドで生まれた仏教は、当然サンスクリット語で書かれていたもので、それが中国で漢訳されたのがいわゆる仏典である(細かいことは省略して)。つまり、トランスレーションなのであるが、当然インド文明と中国文明が密接な互換性を持っている筈もなく、漢訳の過程でそれなりの操作が必要だったことは分かる。それまでの中国文明にはなかった概念を表現するための様々な工夫があった。分かったのはここまで。
造語や当て字、時にはこれまであった漢語に別の意味を強引に援用した。例を挙げる。縁起、世界、輪廻、煩悩、羅漢、億劫、奈落、餓鬼、寺、色(しき)、梵、塔、僧、袈裟等々。これはこれで面白いのだが、解説があまりにも専門的すぎて付いていけない。著者のせいではない。身の程知らずに手を出した私がいけない。
できればもっと一般的に分かり易く書かれていたのならば、と思うがこれはないもの強請りというものだろう。いや、久し振りで頭を抱えてしまった。