女系図でみる驚きの日本史  大塚ひかり著   新潮新書

2017-12-26 10:57:26 | 日記

「女系図」とは、「母親が誰か」に注目した系図。従来の系図が「どの父の子か」を主題にした男系図とは違う。日本の系図に詳しい人ならば分かると思うが、通常、女性は「女」としか書かれていない。誰の娘か確かめるだけでかなりの文献を調べなければならなかった筈である。これだけでも賞賛に価する。系図を見るのが苦痛でない人にはお勧め!
ここでは、滅亡したはずの平家が実は今上天皇まで平清盛の血筋が繋がっていることを例にあげるに止める。楽しみを先取りするようで気が引ける。「女系図」は意外の連続で面白い。
そう言えば、ヨーロッパに散在する王室・王家は同様に女系図から見ると、殆ど全てが親族になる、という文献を読んだことがある。それでも周知の通り、各王家は抗争ところ殺し合いを続けてきた。血は水より濃い。されど権力欲は血よりも「濃い」ということだろうか……。


戦後歌舞伎の精神史   渡辺 保著   講談社刊                黙阿弥の明治維新  渡辺 保著   新潮社刊・1997年刊

2017-12-24 09:34:18 | 日記

この二冊のコメントの前に、『東京人』(2018・1)「対談 歌舞伎は嫌い?! だけど面白い。武井協三・酒井順子」から、武井氏の次の発言を引用しておく。
「十年くらい前に歌舞伎を観た時“水っぽくなつたなぁ”と思いました。いわゆる新劇と変わらなくなって歌舞伎らしい“アク”や“コク”のある演技が見られなくなった」。
渡辺保氏の『精神史』のメインテーマもこれである。コクーン歌舞伎に代表される最近のカブキが武井氏の「水っぼくなった」という指摘がこれに当たるだろう。
私も同感だ。形式は歌舞伎だが形だけで、アクもコクもない。と言うか、ドタバタだ。
しかし、歌舞伎の長い歴史の中ではこのような事が何度かあった筈である。
その代表例が『黙阿弥』。渡辺氏は20年前にこの事を指摘している(但し、本書は古本屋でしか手に入らないと思う。たまたま私は持っているが)。明治維新後、折からの西欧主義に迎合した永井荷風に代表される演劇改良論者達は、河竹黙阿弥の戯作をボロクソに批判した。アクもコクも古臭いというわけだ。かくして、黙阿弥は挫折した。
今、アクやコクのある芝居をする歌舞伎役者の出番は少ないように思える。何故こうなったか? これについて渡辺氏はユニークな分析手法を使って解説している。これを書きたいが……止めておく。これが、なかなか面白いのだ。一読されたい。


同時通訳はやめらない   袖川裕美著   平凡社新書

2017-12-24 09:01:06 | 日記

通訳とは、外国語を「適切」な母国語に言い換えることである。翻訳ならば時間をかけてその条件をクリアできるだろう。しかし、同時通訳ではそうはいかない。
つまり著者に言わせれば、それを瞬時にドンピシャと通訳出来た時の快感が堪らないそうだ。これがやめられない最大の理由! しかし、それは数多くの失敗の裏返しでもある。
本書の読み所は随所に入れられた「ワンポイント・レッスン」。ここを読むと英会話の難しさとコツが分かる。同時通訳を志す人は一読を!
但し、多くの通訳者が言っていることだが、まずは正しい日本語を(日本文化とも言い換えてもいい)マスターする事。これが無いと英会話は出来るけれど、通訳した事にはなっていない、ということになりかねない。


時を刻む湖 -7万枚の地層に挑んだ科学者たち-  中川 毅著 岩波科学ライブラリー242

2017-12-23 09:24:41 | 日記

若狭湾岸の水月湖の湖底の土に刻まれた45m、7万年分の縞模様。これが過去5万年の地球の時を測る年縞・「レイク・スイゲツ」が「世界標準時計」として認められた。
簡単な割り算をしてほしい。45m÷7万年分。これが一年分。1mmにも満たない。これを数えたのだ。技術的な問題もあって、20数年に及ぶ挑戦であった。これ以上は私には書けない。これをやり遂げた人達がいたのだ。詳しくは本書を読んでほしい。
ところで、地球の地軸( N極とS極)は何度か逆転している。最後の地軸逆転は78万1000年前~12万6000年前。これを目の当たりに見ることができる地層が、千葉県市原市田淵の養老川沿いにある(千葉セクション)。
これが世界標準模式断面として「チバニアン」と命名されることが検討されているのだ。凄いな、日本の地質学!

 

 


私のヴァイオリン -前橋汀子回想録- 前橋汀子著  早川書房刊     ピアニストだって冒険する  中村紘子著  新潮社刊

2017-12-22 10:07:49 | 日記

私はお二人のコンサートを何度も聴いている。特に、ヴァイオリンは私と縁が深かったので…。お二人に共通しているのは一流の指導者に巡り合うための苦労である。そして、名器を手に入れる為の金策(ヴァイオリン)でもある。
なにしろ、時代が違う(二人とも1940年代生まれ)。誰もが今のように気楽に外国に行ける時代ではなかったし、為替レートもちがう。そして、彼女たちをサポートするシステムもなかった。
しかし、それらの苦労が現在の二人の人格を作り上げ、それがお二人の演奏に深みを与えてもいる。テクニックだけではない。その人間的な重厚さが魅力になっているのだ!!


父「永六輔」を看取る

2017-12-22 09:29:06 | 日記

永 千絵著   宝島社刊

ちょっと読むのが辛かったなぁ。私達の世代には良く知っている人だっただけに…。なにしろ、いずれ私も……。
娘さん達も偉いが、その苦労も並大抵ではなかった筈!
しかし、仕方ない。死に行く者が家族や他者に迷惑をかけないように、万全の対策を取れる筈がない。さて……どうしたらいい!!


警視庁生きものがかり

2017-12-22 09:03:56 | 日記

福原秀一郎著  講談社刊

最近筆不精になった所為か、読んだ本を記録していなかつた。年末も近いので、記憶に残っている限りで書いておく。

一読してまず思ったのは…。稀少動植物をどうしても手元に置いておきたい人間があまりにも多いことだった。しかも手に負えなくなると平気で放置してしまう。こういう人達を真の生き物好きとは、言わない。こんな人間がいる限り密輸したり、盗掘する人間が商売にする。勿論、両者とも許される存在ではない。
こんな勝手な非常識人間を相手にしている著者達は、毎日虚しい思いをしているかと思うと、同情してしまう。