天皇陵の謎

2011-10-26 15:35:08 | 日記
矢澤高太郎著  文春新書

我が国には、天皇陵を中心とした陵墓が896も存在しているそうだ。それらの全ては宮内庁の管理下にあり、「禁断の聖域」としていっさいの立ち入りが厳禁とされている。古代の天皇、皇族の陵墓には古代国家成立の鍵が秘められているに違いないのにだ。歴史学、考古学の進展の大きな障害になっているにも拘らず。しかも、それらの被葬者に関しては、九割近くが別人の可能性が高いらしい。なかにはただの自然丘と明らかに分かるものもあるそうだ。
詳しくは本書を読んで欲しい。
歴史学や考古学の視点から言えば、天皇陵は公開されるべきだと思う。天皇陵が天皇家という一個人の家族の墓であるということは十分尊重しなければならないが、同時に天皇家は日本人の代表として存在したのであり(少なくても古代の天皇は)、そこには日本人のルーツ、日本の文化・外交史を証明される物が埋葬されているかもしれないからだ。
但し、なにもかも公開していいかというと、私は著者の意見に賛成する。周辺部分はともかく、主体部分を発掘するのはどうだろうか。まだ、早い。私が思うには少なくても後二世代くらい後がいい。明らかにされるであろう事実を虚心坦懐に受け止められる世代はまだ育っていない、というか戦前の残滓がまだ残っている、と思うからだ。



ジェーン・グドールの健やかな食卓

2011-10-24 14:52:51 | 日記
ジェーン・グドール著  日経BP社刊

著者は、チンパンジーが道具を使うことを世界で初めて発見した霊長類学者。同時に国際的に名高い天然資源の保護論者。
この本を読むと、何を食べたら良いのか分からなくなる。結局、化学農薬・飼料、遺伝子組み換えの食物(穀物、肉類、魚類他)から身を守る手段はひとつしかない。それは消費者と言う立場を最大限に活かすことだろう。いかに巨大企業であろうと、売れなければ潰れる。農業業者にしても畜産業者にしても同じであろう。人類の未来も地球の未来も、どこまで我々が抵抗するかに懸かっている。極論かも知れない。
心配なことがある。それは発展途上国、最貧国の人々である。飢えを凌ぐためには化学肥料使わざるを得ず、一代雑種の遺伝子組み換えの種苗を使わざるを得ないからだ。巨大企業が売る種苗は、確かに収穫は多い。しかし、実った種からは芽が出ない。卑劣だ。次の収穫期の希望を無残に裏切る。
「安全、人体に悪影響はない」と言っているが、分かるものではない。遺伝子組み換えの食物が発明されてから多寡だか数十年、人間で言えば一代か二代。その影響はまだ分かっていない、というのが現実だろう。一方、そうした飼料を与えられている動物にはすでに悪影響が出ている。
これを解決するには、世界中の先進国が飽食を止めることであろう。捨てられる食べ残し、売れ残りの量は、世界中の飢えている人々を十分カバーできる量である。レストランでは自分が食べられる量を自覚して、注文するべきだ。そして、余剰分を食糧危機に直面しいてる人々に廻すべきだ。
見ていると、例えば日本ではライスを半分も残している光景を良く見る。あらかじめ並・大盛り・小盛りと注文すれば無駄は出ない。飲食店もすすんでお客にその旨を確認すればいい。無駄も出ないし、経費の節約にもなる筈だ。決して難しいことではないと思うが……。

危機の指導者 チャーチル

2011-10-19 15:00:19 | 日記
冨田浩司著  新潮選書

著者は韓国日本大使館公使、英国日本大使館公使を勤めた外交官(現在は北米局参事官)。
本書は単なるチャーチル伝ではなく、外交官というプロの目から二つの大戦、特に第二次大戦中のチャーチルの政策、決断力、政治家としての彼の資質を分析した本。これまで日本人が持っていたチャーチルのイメージとは、大分違うことに驚くかもしれない。
ところで、著者も「あとがき」で言っているように、この本は今回の東北を襲った震災と原発事故を意識して書かれた物ではないが、暗に著者が言わんとすることは痛いほど分かる。
チャーチルは危機(戦時)の時の宰相だった。国難時の宰相と言い換えてもいい。その時求められる資質は平時の宰相とは違う。今の日本の現状を見た時、危機に立ち向かえる宰相に相応しい政治家は、残念ながらひとりも居ない(多分)!
第二次大戦の時、英国議会は解散・総選挙を避けた。その結果、議員の任期は10年に及んだと言う。翻って、日本。最大野党の自民党は馬鹿の一つ憶えのように解散・総選挙しか言わない。日本が直面している「危機」を全く認識していない(どんな事情があるのだろう? もしかしたら台所事情だったりして)。総選挙には時間も金もかかるし、被災した県は唯でさえ復興作業に忙しいのに、選挙人名簿を作るのに必要な人も金もないのではないか。もうすぐ冬が来る。時間はない!!
本書で印象に残った言葉を二つ挙げておく。
Action This Day「即日実行」……チャーチル
Don`t fight the problem Decide it「問題と闘うな。決断しろ」……アメリカ陸軍参謀総長ジョージ・マーシャル(米国でチャーチルの役割を果たした)

万里の長城は月から見えるの?

2011-10-17 15:22:17 | 日記
武田雅哉著  講談社刊

面白いタイトルだと思いませんか? 一年に一回くらいこういう本に出会いたい! ぜひぜひ一読をおススメしたい。著者もあとがきで述べているように、このジャンルのオーソリティーではなく、興味が湧くままに書いた手慰みだと断っている。だから、気軽に読んでください。
「万里の長城は月から肉眼でも見える」という言い方はかなり古くからあるそうで、それ自体中国文学の常から言って不思議ではないのだが(白髪三千丈のたぐい)、現実に人類が宇宙を飛び、月面に降り立った時から、中国では混乱が起きる。しかも、中国初の宇宙飛行士・楊利偉が地球に帰還後「宇宙から万里の長城は見えなかった」と発言したのだから、その混乱振りは想像できる。
それでも、この神話を信じたい中国の人々はついには、アメリカのアームストロング船長が「月面から肉眼で見えた」と言ったというデマをでっち上げる。
この後は書かない。この後の顛末は読む人の楽しみにとっておきたい。ともかく面白い。今年の「面白い本」ベストテンに挙げたい。それにしても……、いやいけない。先走りしないと言ったばかりではないか!


天皇はなぜ滅びないのか

2011-10-14 08:38:53 | 日記
長山靖生著  新潮選書

読後の第一印象は、決定的な根拠が希薄というか、情況証拠ばかりというものだった。少なくても、私には……。そこで、私見を述べてみたい。
なるほど平安期以降、日本の支配権は武士階級が握ったが、特異な点は彼等が自らの権威付けのために系図(先祖)を利用した点だ。武士階級は遠祖が天皇家に繋がることで、自らの支配的地位に正当性を得ていた。つまり、天皇家を滅ぼすことは自らの家系・権威を否定することに等しい。ということは、武士階級は天皇家に対して自縄自縛状態だった。
そして、明治維新では究極の権威・天皇を持ち出すことで武士階級から支配権を取り戻した。その後は我々が知っている歴史を辿った。これらのことを証明するのは大変だろうが、この辺に鍵があるように思えてならない。なぜ、彼等がでっち上げにせよ、自らの遠祖を天皇家に求めなければならなかったのか、そこに天皇家の存在意義があるのではないだろうか。

雪男は向こうからやって来た

2011-10-10 15:23:24 | 日記
角幡唯介著  集英社刊

良いタイトルである。だからと言って「雪男と遭遇した話?!」などと早合点してはいけない。しかし、ここにこのドキュメンタリーの本音の半分がある(と、私は思う)。著者は『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』で開高健ノンフィクション賞を受賞した人。早大探検部出身のタフな人である。しかし、このタイトルを付けた素養(敢えて、彼が主張している探検好き、勉強は殆どしなかったという意見に従って)はなかなかどうして。
ヒマラヤの雪男に憑かれた男達の歴史が綴られているので、このジャンルの概要が大雑把にわかる。そう言えば、国際的な「雪男探査プロジェクト」が結成されたと新聞で読んだ。報告書が待ち遠しい。まさか、「雪男は向こうからやって来た」に終わらなければいいが……。

追記 そのチームが3日前に「イエティー(雪男)が存在する確率は95%」と発表したそうだ。(10・11)


評伝 野上弥生彌生子 -迷路を抜けて森へー

2011-10-08 15:06:51 | 日記
彼女の本は『秀吉と利休』を読んだくらいで、むしろ戦中に多くの作家が軍国主義に迎合した中で、それに靡かなかった数少ない作家の一人として記憶に残っている。法政大学総長・野上豊一郎夫人だつたことはこの本で初めて知った。
改めて評伝を読んで驚いたことは、代表長編小説『迷路』『秀吉と利休』『森』はいずれも彼女が人生の後半を迎えてから執筆されたことだ。三作目の『森』は87歳から書き始め、亡くなる99歳まで最後の一章を残して書き続けたことだ。多くの作家が晩年は軽いエッセイや紀行文で終わることを考えれば、これは凄い。
勿論、その背景には実家が財産家であったこと、夫の社会的地位、その夫を通して漱石、中勘助、田辺元を初めとした当時のインテリゲンチャーと知己を得ていたこともあるが、何よりも類稀な強い意思で規則正しい生活習慣と孤高を守ったことにある。そして、凄いのは「身勝手と思われるくらいの、結構偏見に満ちた自信とプライド。そして亡くなる寸前まで旺盛だった知識欲」だろう。
100歳まで長編を書き続けたこの人は、驚異の人だと言える。著者の丁寧な分析があって、初めて著者の素顔を知ることができた。



神道と日本人 -魂とこころの源を探してー

2011-10-05 15:14:44 | 日記
山村明義著  新潮社刊

本書は内容的に悪くはない。というより、200人を超える現役の神官(宮司、禰宜等)の声を収録した労力は評価していい。まず、一般の我々が神道に対する神官の本音を聞くことなどないからだ。
但し、次の点を指摘しておきたい。
なによりも、著者の主張したい点の記述部分が執こい。もう少し立ち入って言えば、本来読者が持つべき「読後感」というか「そうか、そうだよな」という部分を侵蝕しすぎている。本来、読者は各事例や神官の言説を読んだ時にふと立ち止まって「何故?」「どういうことだろう?」と考えて、先に進むものだ。ところが、著者は読者が考える前に「こうなんだ!」と決め付けてくる。これが非常に煩い。私自身、途中で読むのを止めようとさえ思った。
著者は本書の言わんとするところを読者に分かって欲しかったはずだ。中味の問題ではない。記述の問題。読者の領分を犯しすぎている。改めて、構成と記述法を考えて出版して欲しい。編集者も同じ反省をしてほしい。
ただ、こうした理由からサブタイトルの「魂のこころの源を探して」部分を読者が自分の識見として納得できる筈の領分は希薄になってしまっている。残念だ。