猫猿日記    + ちゃあこの隣人 +

美味しいもの、きれいなもの、面白いものが大好きなバカ夫婦と、
猿みたいな猫・ちゃあこの日常を綴った日記です

ごめんね、ちびくん。

2006年01月06日 01時03分12秒 | 猫たち
昨年末、連日の点滴に耐えてくれたちびくんの調子が、一月二日夜頃からまたおかしくなった。
ほとんど動かず、食欲もなし。
水ばかり飲みに行ってはまた眠る、といった具合に。

なだめすかして私やゴンザが口元に持っていく食べ物も、少し食べてはすぐやめる。
具合が悪いのか、食べるものに対してわがままを言っているのか、17年間共に暮らしてきた私にも、すでに区別がつかなくなってきている。
点滴で確かに下がったBUNの数値がすぐに跳ね上がるほど腎臓が悪くなってきているのか。
しかし、なんとなくではあるが、いつもの腎臓の調子ではないようにも思える。

私はちびくんを可哀想に思いながらも、少々のドライフードを強制給餌してみることにした。
と、ちびくんは食べたものを吐く様子もない。
ただ、口元を気にしては右手で顔をこする動作を時折り繰り返す。

一月三日。
様子を見つつ、強制給餌を数回。
無理矢理食べさせることに心が痛み、ちびくんが病気とわかったときから繰り返してきた、自分と向き合う事に疲れ果てる。
「病院へ連れて行ったり、無理矢理食べさせたり、薬を飲ませたり。嫌なことばかりして、嫌われたまま別れることになるかも」
「出来るだけ長く一緒にいたいと思うのは私のエゴだ」
涙ばかりが出てくる。
ちびくん、ごめんね。

人間は、どう治療してゆくのか、自分の行く末をどうするのか自分で決められる。
私が<治療>と称して病院へ連れて行くことは、さらにちびくんの苦しみを長引かせ、痛めつけるだけに過ぎないのではないか。
どんなに考えても答えは出ず、真っ暗な中を手探りで進むよう。
私が泣いててどうする?
そう思いながら、ちびくんの小さなため息や寝顔に心は迷い、乱れ、ぐるぐるとそれを繰り返す。

ちびくんはといえば、その後も数度、食べ物を口に入れようとしては、時おり口元を気にしている。
「........?」

私は。
ちびくんが「腎臓の数値の限界に達してしまった」という問題にだけ囚われすぎていないか?
口元を気にし始めた時にすでに点検済みの口の中も、もう一度よく見てみるべきではないか?
もとより、彼が嫌がることはすでに散々してきたのだ。
ちびくんが心を預けられる人間としては、私以外にもゴンザがいるのだから、私は嫌われたって構わない。
ただ、ちびくんが安らかに暮らしていけるのなら。

私はちびくんを押さえ込み、無理矢理口をこじ開けると、隅々まで点検した。
と、上顎の、暗く凹んだ部分。
本来なら歯の生えている部分の内側に、ぽこっと3ミリほどの穴が開いている。
実はちびくんにはすでに歯が数本しか残っておらず、奥歯に至っては右下に一本残るのみ。
もしや、何かの拍子にこの下の歯が、すでにストッパーである上の歯を失った上顎に刺さった痕か.....。
穴が膿んでいる様子はないが、もしかしてこれが痛んで食べ物を口に入れたくないのかもしれない。
だとすれば.....この穴の原因となっていると思われる、下の歯さえ抜いてしまえば、問題は解決する。
しかし、それにはまた別の大きな問題がついて回ることを、私とゴンザは知っている。
猫の歯を抜くには全身麻酔が必要で、全身麻酔には、常に危険が隣あわせであるという、大きな問題が。

あるとき。
ちびくんのあごになぜかわからないが、大きな腫れが出たことがあった。
先生曰く、歯槽膿漏の腫れがあごに出たものかも、ということだったが、それを治すにあごを少し切開して膿みを出すのが一番だということだった。
そして、その場で私たちが立ち会ったまま、ちびくんは麻酔をして、患部を切開することになった。
麻酔をかけ、小さく傷をつけ、膿みを出す。
先生は手際よく作業を進め、ちびくんの傷口はみるみる消毒されてゆく。
しかし、何か変.....
ちびくんの胸はどう見ても呼吸をしているようには見えない.....
と、先生は普通の顔で、時おりちびくんの胸を押す。
傷の処置を続けながら、時おり胸を押し、また続けるといった風に。

そのとき。
私とゴンザは、ちびくんがもう二度と戻ってこないのではないかと思った。
結局、ちびくんはその後麻酔の覚める薬を注射されると普通に目を覚まし、即自宅に帰れたのだが、以来その麻酔中の光景が我々のトラウマとなり、麻酔=怖いもの、という認識がとことん思考に組み込まれてしまった。
しかし、犬や猫にとって、何らかの処置をするための全身麻酔は常識であり、そうでなければ出来ない処置も多々あるというのも事実。
私とゴンザは話し合った結果。
今現在ちびくんが持っている体力と先生を信じることにした。

一月四日朝。
正月休み中である病院へゴンザが診察を頼みに行ってくれる。
そして、一旦戻ってきたゴンザと私でちびくんに
「絶対元気で戻ってきてね」
と、祈るようにお願いをする。
私たちは意を決し、ちびくんを病院へ連れていくと、先生に口内の傷を見せた。
先生が出した答えはやはり抜歯。
あわせて皮下点滴もして、腎臓の数値も安定させようという提案。
私たちは先生にすべてを託し、午後3時には家に帰れるという言葉を信じた。

と、家に帰ったゴンザが何やらPCで調べごとをしている。
聞けば、猫や犬のお守りを売っている神社がないか、特に猫や犬を守護してくれる寺社がないのか調べているという。
そして、市ヶ谷にある亀ヶ岡八幡宮という神社を探しあてると、
「お守りを買いに行く」
と言い出した。
そこで、しばらくちゃあこに留守番を頼み、私もゴンザと同行することにする。
電車を4本乗り継ぎ、地図を片手に目的地を目指せば、そこは駅前とあって、すぐにたどり着くことが出来る。
ゴンザと私はまず手水で身を清めると、ちびくんの快癒を心から祈った。
帰りにはペットお守りを三つ買う。
ちびくん、ちゃあこ、それに妹の家の猫の分。
そこでゴンザがポツリと言った。
「俺、こんなに神様に必死に祈ったこと、今までなかった」
私たちは帰路についた。

再び電車を乗り継ぎ、最後の乗換えを待つとき。
ゴンザの電話が鳴った。
「ありがとうございます!あと10分くらいで家に着くので迎えに行きます!」
ちびくんは無事だった。
予定時間よりも早く治療を終え、また私たちの家へ帰ってきてくれるのだ。
その時、駅のホームで泣く怪しい二人組みを気にかける人がいたかどうか.....それは定かでない。
その時の私たちに大切なのは、ちびくんが家に帰ってくる。
それだけだった。

そして.....家へ帰ってからのちびくんは、歯を抜く前とまったく様子が変わった。
毛繕いを済ませ、しばらく寝た後、あれほど食べたがらなかった食事を摂る様になったのだ。
しかも、食べては水を飲み、寝、食べては水を飲み、寝、まるで食べられなかった分を取り戻すかのような姿を見せてくれる。
その光景は、ゴンザにとっても私にとっても、夢のようで......

しかし、それまでには。
私は大変な過ちを犯し、ゆえにちびくんを不必要に苦しませてしまっていたのだということを決して忘れてはならない。
ちびくんが大事、ちびくんのためにと言いながら、彼がどうして苦しんでいるのか、気付いてあげられなかったなんて。
痛んで食べることもままならない口に、食べ物や薬を飲み込ませていたなんて。
まるで鬼だ。

ごめんね、ちびくん。
私はいったいこの17年間、何をして、何を見てきたのか.....

抜歯の前にされた血液検査の結果、BUNの数値が点滴直後からそれほど上がっていなかったことに感謝しながら、自身の無力にまた迷う。
コメント (12)
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