調べてみたけど、もうない会社!?
始まりは壁が4枚出てきたことである。
店の移転のため、物件を借りて、
これまで以上に狭いながらも、
「どうにか、少し手を入れれば営業出来るかな」
が。
ある時、一変した。
一本の柱が、
『不自然に板の貼られたもの』であることに、
工事の指揮をとる、
友人J が気づいたのだ。
ちなみに、
本題に触れる前に説明すれば、
新店舗の工事は、
建築事務所を経営する、
ゴンザの高校同級生Jが指揮をとり、
空調工事は小学校同級生である
『ボリビアカットの男』が。
水周りは水道屋を経営する中学校同級生Y君が。
鉄関係は家族で鉄工所を営む高校同級生M氏が担当し、
新しく入る木材は高校同級生AK氏協力の元...
という、
同級生たちによる、
チーム戦でもあったのだが、
ゆえに、互いに気になること、
問題点について、
即時に、
また正直に言い合える仲での工事でもあった。
引き戸も数枚出てきた。
柱を前にしてJが言う。
「なぜこんな板が柱に貼ってあるのか。
気になるから剥がさせてくれないか」
私たちとしては、
プロである彼を信頼して、
お願いした工事なので、
もちろん異論はなく。
しかし、これが、
大きな『誤算』の発端だったのだ!
柱を囲った『板』を剥がしたJはこう言った。
「やはり怪しんだ通り、
根元の部分が白蟻にやられていて、
板はそれを隠すためのものだった。
工事をする前に。
まずはこの柱をどうにかしないとね」
この時点で、
初めは、
『カウンターを設置して、
壁紙を替えれば、何とか営業出来るかな』
くらいの感覚だったものが、
だんだん怪しくなってきた。
次いで、まだ営業中であった、
当時の店舗に飲みに来た、
高校同級生・設計士Sちゃんの、
新店舗図に対する呟き...。
「この設計でもいいとは思うんだけどさ。
この作りだと、例えば俺がひとりで飲みに来た時に、
どこに座ったらいいのか、わからないんだよな...」
なるほど私たちは、
なるべく金のかからないように、
なるべく早く工事が済むように、と、
そればかり、
考えすぎていたのではないか。
確かに、新物件の構造上も、
そうするしかなかった設計図ではあったが。
そこからまた、根本的に見直しが始まった。
そうして、
疑問があれば相談し、
提案があればみんなで協議し、
工事の規模はどんどん大きくなった。
『貼り替えるだけ』のつもりの壁も、
『基礎を確かめるため』に一部が壊され...
ついには、冒頭で触れた、
『壁が4枚出て』くる事態に至ったのである。
奥の壁を壊すと窓が!(用途不明)
「これ、こんなの見たことないけど...
みんな上から重ねていっちゃったんだね」
そういえば、私たちが知る限り、
そこはいくつかの飲食店が、
入っては出て行き、入っては出て行き、
を、
数年毎に繰り返していた物件ではあったが、
それはすなわち、新しく入った飲食店が、
壁を一枚上から貼って営業し、
そこが出て行くと、また新しく入った飲食店が一枚重ね、と、
繰り返していたということでもある。
壁を壊したJによれば、
「基礎もだいぶ傷んでいて」
また、ゴンザがするような、
「本格的な調理には、
完全な防火対策をした方が安心」であるから...。
ついに、
古い建物の耐震補強も兼ねて、
「全部やり直そう!」
...もう、ここまでくれば、
どうとでもなれ、である。
最終的には、新築工事同然(笑)
問題の発端となった柱は、
『ついでに』と、移動可能な範囲で、
「どこがいい?」と、位置まで変わった。
現場には毎日、ほぼ誰かしら同級生がいて、
指示を出したり工事をしたり。
『みんなで作る』現場がそこにはあって、
なかなかの活気であった。
美しいすり硝子は、もう作れる人がいないだろう。
4重の壁が壊れたことで、
その分、スペースが拡がったのは、
嬉しい『誤算』であったし、
また、壊した壁の中から、
いくつかの『お宝』が出てきたのも、
嬉しい『誤算』であった。
...一番下の壁。
すなわち、一番古い壁には、
ひとつの窓があって、
これはもう、何のための窓だったのか、
構造上はわからなくなっていたのだが、
それは美しい模様入りのすり硝子で、
捨ててしまうのはあまりに惜しかったので、
『生け捕り』にしてもらい、
新店舗の洗面所戸棚にしてもらった。
また、やはり一番下の壁に使われていた、
トタンの引き戸には、
『OSAKA ZOSENSHO』の文字と共に、
可愛い象の絵がプリントされていたため、
これも『生け捕り』にしてもらって、
腐食していた下半分を切り落とし、
壁に飾って鏡の土台とした。
カウンターは、13年間、
これまでの店舗で使っていたもの。
「新しく作った方が安いし、
時間もかからないよ」
という意見もなくはなかったが、
このカウンターは、ゴンザの、
亡き父が、13年前に張り切って作ってくれたもので、
捨てて行く訳にはいかなかったし、
今回の大工さんに相談をしてみれば、
「それはぜひ持って行くべきだ!」
と言って下さったので、移設し、
新しい部分も付け加えていただいた。
...そう。
さらに加わる嬉しい『誤算』は、
こうした、職人さんたちとの、
新しい連携、とでもいったらいいだろうか。
ゴンザの父親作・旧店舗の扉も移設、さらに引き戸に作り替えて頂いた。
「ここはこうしたら?」
「この、旧店舗の部材は新店舗のここにどう?」
結局、新店舗に対して、
私たちが出した結論は、
『長年通って下さっているお客様に、
違和感のないよう、
これまでの店舗とそっくりに作る』
であったのだが。
加えて、この工事を経て、
様々な事物を目にする中で、
なんだか、
新しい使命を負った気にも、
勝手になっていた。
すなわち、
この古い建物の歴史を映す、
美しい建具を生かすこと。
出てきたもの、移設したもの、持っていたランプ、買ったものの混合。
壁を壊したことで出てきた、
すり硝子やトタンの引き戸が、
捨てられることもなく、
壊されることもなく、
守られていたのは、
そこで入れ替わりする飲食店が、
それと知らず、
上に壁を重ねていったからであるが。
それを見つけたのが私たちでよかったのではないかと。
日々、古い建物が無情に壊され、
似たような小さい飲食ビルが、
無感傷に建て続けられる、
この『戦後の街』で。
すべてを古いまま、
継承は出来なくとも、
違う形で生かし、
引き継ぐことくらいは出来るのではないか。
古くて美しい、
硝子とトタンの新しい居場所は、
新店舗内で一番、
私の趣味を投影した洗面コーナーである。
彼らはおそらく、数十年、
人目に触れず、その輝きを守っていた。
今となっては、彼らを守ってくれた、
4枚の壁に感謝である。
もちろん、壁を壊し、
それを見つけてくれた Jにも、
それを生かす建具を作ってくれた大工さんにも。
もちろんM氏作の大小看板も移設!
新しい店舗の椅子に座り、
新しくなった壁を眺めていると...。
「ん?」
何かが揺らめいているのに気付く。
旧店舗から持ってきた鏡が。
予想もしていなかった美しい影を、
そこに映していたのである。
なんという...誤算!
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