実は..... 私はゴンザと出会うずっと前、ゴンザの写真を見たことがある。
写真の中、十代の、まだあどけなさを残す少年は、
その写真が撮影された当時ライブハウスで働いており、
無理に大人びた感じを出そうとしているのが、なんだか微笑ましいようだった。
また、その、なんだか困ったような表情と綺麗な目が、やけに印象に残り、
そのせいで私は今になっても「あの写真はゴンザだった」と、
たった1枚の写真を覚えているのである。
それが運命というのかは知らないけれど、
確かにその時から、私はゴンザと出会うよう、
見えない力で引っ張られていたのだと思う。
その写真を見たのは、私がとても仲良くしていた、年上の友人の家だった。
彼女とは同じモデル事務所で知り合い、彼女が事務所を辞めたのちも、
互いの家を行き来するような間柄だった。
そして.....。
ある日、彼女の家でアルバムをめくっていた時、私はとある写真に出会う。
それが、その写真に写った少年こそがゴンザだった。
アルバムの持ち主である友人は、若い頃、ある店を任せられていて、
この写真に写っているのは当時の従業員なのだと語った。
私は、少年の目がとても可愛いと思い、
確かそのことを口に出して言ったように思う。
まさか、そののちその目と出会い、結婚するとは夢にも思わずに.....。
数年後。
アルバムの主はある会社に就職する。
私はといえば、彼女との親交を深めつつ、
のらりくらりとモデルを続けていたのだが、
あるとき、彼女に繁忙期の手伝いを頼まれたことから、
仕事のベースと遊びのベースが横浜に移る。
そして。
そこからは新しい交友関係、異性関係も次々生まれ、
次第に私は調子に乗りまくっていった。
若いときと違い、自分の扱い方を自分でもわかってきていたし、
他人との関わり方も良い感じ。
毎日仕事で忙しく、一人で夜遊びも出来、デートする相手もたくさんいた。
そんな.....まっすぐ家に帰ることなどまずない毎日の中で、
私は突然ゴンザと出会ったのだった。
違う「彼」とのデートの最中に。
その、地下にある暗いバーは、中華街の裏手。
山下公園...大桟橋の汽笛が聞こえる、路地の中ほどにあった。
周囲には、古い建物と駐車場、営業をやめたホテルが廃墟となって建っており、
一見すると見つけにくい場所。
知る人ぞ知る大人の遊び場で、私はゴンザと出会ったのだ。
暗く狭い、地下へ降りる階段。
下から漂ってくる香の匂い。
ドアを開けると目に飛び込んでくる、
少し高めのカウンターにオーナーの趣味で飾られた花。
初めてそこを訪れた時から、私はその場所が大好きになった。
そしてその日.....その店のカウンター越しに、私は未来の夫と出会う。
そう、私をそこへ連れていってくれた「彼」が、
私とゴンザを出会わせてくれたわけだが.....
この「彼」は、後々、
私がゴンザを意識するきっかけを作る役目までも負うこととなる。
「彼」は、私をゴンザに紹介した。
私はその時まだ、あの写真の少年が、今自分の目の前にいる、
長めの黒髪を一つにくくった、スペイン人のような男だとは気付かずに、
無邪気にグラスを傾けていた。
ただ、その妖しい黒髪の男の目が、とても素敵だなと思いながら。
カウンターの向こうで、器用に手品を見せてくれながら、挑戦的に見る目つき。
その黒い髪とは対照的な、少し薄めの茶色をした瞳。
「この子、自分の見せ方を知っているんだな」
その時、そう思ったことを、私は今でもはっきりと覚えている。
しかしその後。
私はその店に一人で遊びに行くようになったものの、
まだしばらくは調子に乗った日々を送り、
ゴンザはその店のバーテンダーの一人に過ぎなかった。
それが時折、飲みに行った先で顔を合わせるようになり、友人へと発展し、
そこでようやく私はあの写真の少年がゴンザだと気付く。
そしてまさにそんな時、最初に私をゴンザと出会わせてくれた「彼」が、
二人の関係に変化をもたらすのだ。
それは突然の濡れ衣から始まった。
その時.....ゴンザはすでに新しい店に移っていたのだが、
そこへ一緒に行った「彼」が、突然私とゴンザに特別な関係があると、
店を出てから言い出した。
私はゴンザとはただの友達だと、
たくさんいる男友達の一人だと、説明したのだが、
「彼」は絶対に納得しなかった。
別に私は「彼」に義理立てするような理由もなかったけれど、
濡れ衣を着せられるのは嫌だったから、そう言った。
しかし、「彼」は納得することなく、それきり私を誘わなくなった。
そして。
あの日。
あの大晦日、私は、ゴンザと初めて出会ったバーで、
いつものように夜を過ごしていた。
その頃には、私はその店の常連になっていたし、
オーナーにもとても可愛がってもらっていたから。
カウントダウンも終わり、狂乱の時間が過ぎて、
静かに飲んでいるとき、ゴンザが現れた。
その店の元従業員であるゴンザは、新年の挨拶をしにきたのだったが、
オーナーに、「お前、車で来たんだったら、帰りにerimaちゃんを送っていけ」
と命ぜられ、快く私を送り届けてくれることとなった。
新しい年の陽が、今しも昇ろうとしているその時に。
そして.....
さて。
その帰り道、何があったかは、皆さんの想像にお任せしよう。
ただ、あの年の日の出はことのほか美しく、
二人で車内から見たその光景は一生忘れないであろうと。
それと、私はゴンザの気持ちになど、
その時までこれっぽっちも気付いていなかったから、とても驚いた、とだけ。
さらに言えば、加えて、
そのゴンザと夫婦になるなど夢にも思っていなかったから、今でも驚いていると(笑)
あの大晦日から、もう6年近くの月日が流れ、
出会ったころにはギラギラの色気を漂わせていたゴンザも私も、
すっかり心身ともに丸くなった。
アルバムの主とはほとんど会うこともなくなり、
私とゴンザを出会わせてくれた「彼」は、
私たちの結婚を知る由もないだろうけれど......
(いや、横浜は狭いからとっくに知ってるかな)
もし、私があの写真と出会ってなかったら、
私とゴンザは出会ってなかったような気がする。
「彼」が濡れ衣を着せなければ、こんな風になっていなかった気がする。
そう。
出会ったころとは、体型も髪型も、
それから性格もすっかり変わってしまったゴンザの......
今でも変わることのない、綺麗な目を見ながら、しばしば私はそう思うのだ。