秀明記(syuumeiki)

着物デザイナーが日々感じたこと、
全国旅(催事)で出会った人たちとのエピソードなど・・・
つれずれなるままに。

糸目友禅その2

2007年01月31日 20時18分58秒 | 着物話
「では出席とります。硬い話は受講者が少ないのぅ・・」なんてね。
ま、興味のある方だけでも耳を傾けてください。

昨日は糊の話まででしたね。糸目糊の後は「糊伏せ」加工に入りますが、
この糊は水で流し易い糠や塩を混ぜたものを使用します。

「糸目糊置き」と「糊伏せ」は一人の職人で賄えますが、爺の知り合いは
旦那が「糊置き」、奥さんが「糊伏せ」と仲ムツマジク仕事してました。

糸目糊を置く道具は和紙の先に口金が付いていて、この和紙の部分を親指
で押しながら線描きしていくわけ。

この口金は先が縫い針が通るか通らない位の細さです。

数年前、この口金を専門に作る職人さんが亡くなり、友禅職人に小さな
衝撃がはしりました。

三重の方だったと思いますが、かなり繊細な技術が必要な上、儲からない
仕事のため、後継者がいなかったんです。

なんとか一緒に仕事をされていた奥さんが、引き継がれましたが、10個
作っても使用できる物は半分にも満たない・・・。

当時でも一つ千円台の値ですから、一日2~3個の生産では生活は大変
だったと思います。

それでも、友禅の仕事には欠かせない道具、使命感で引き継がれたと
思います。

出来上がった着物からは想像できない、いろんな苦労があります・・・。

余談でした。(でも大事なコトだとワタクシは思いますけど。)

糸目糊置きにはこうした「手糸目」と「型糸目」がありますが、今回は
「手糸目」に限ってお話をすすめます。

糸目糊置き職人さんのなかには、凄腕の方もいて、糸目糊だけで柄を構成
するコトもあります。「線アゲ」といいます。

こういう着物は残念ながら今ではほとんど目にかかることはありません。

量産ができない割りに地味なんです。刺繍と組み合わせたり「挿し友禅」の
一部に使用していますが、初めて「線アゲ」だけの作品を見たときは、
その繊細な筒使いにうなってしまいました。

ワタクシもその職人さんに依頼して何枚か、「線アゲ」を使った作品を
お客さんに提供したことありましたけど、着てもらっているかなぁ・・。

もしかしたら、十数年後には、消滅してしまうかも知れませんね。

植物性の糊は地色をひいた後、蒸し(蒸気で色とめ)の後、水で流します。
(水元。昔は京都でも川で流していました。)

ゴム糊はまだ残っていますから、この線が色を挿す(塗る、とは言いません)
ときの防波堤の役目をするわけです。

この「糸目糊」がしっかりしていないと「色が泣く」、と言って線から
はみ出たようになっちゃいます。

古着など良く見てると、「色が泣いて」いる部分を時折発見しますね。

今では、柄全体をプリントしたものが多いのと、本友禅自体が余り
制作されないので、完成度を追求されるため見かけることは少ないでしょう。

「色挿し」が終了後、また蒸しにかけて、今度はゴム糊を薬品で落とします。
(昔は揮発水洗でしたが、余りにも火事が起こりすぎたので、今は発火点の低
いトリクレン等を使用しているようです。)

まだ、イロイロ加工があるけど、これくらいにしておきましょう。
(眠たくなってきたでしょう?)

では、最後に。この「本友禅」、現在では余り需要はありません、実は。

かなり有名な作家になれば別ですが、以外では手間賃と売値が合いません。

何人か「本友禅」の職人さんを知っていますが、今でも続けている人は
ごく僅かです。

加賀も一時は企画商品として出回りましたが「本加賀」イコール高価、
というイメージが定着しすぎたため、これからしんどいかも知れませんね。

業界では「着物の復権」を目指していろいろ努力していますが、「売る事」
も大事ですけど、製作者(職人)の環境改善にも目を向けなくては
「本友禅」以外の着物もダメになっていくのではナイかと思います。

なんて、今日はお堅い話でスイマセン・・・。

写真は糸目を使用しない無線友禅、「素描き」です。
このような柄をシャツやパンツにいかがです?興味のある方はご一報を。
(ちょっと、コマーシャル。)