Takepuのブログ

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薄熙来の重慶市の職が解かれる

2012-03-15 23:15:39 | 時事
ついに、この日が来た。
「唱紅打黒」(紅歌=革命歌=を歌い、暴力団や官僚汚職を摘発する)と、中国で4つある中央直轄市のひとつ、重慶市で辣腕を振っていた薄熙来・重慶市党委員会書記が、重慶の全ての職務を解かれた。すなわち市トップである書記と市常務委員、市委員の職だ。次の異動先を示されるわけでなく解任されるのは尋常でなく極めて異例。薄熙来は党中央政治局委員の肩書きだけは残された。

新華社は「職務調整」ということばを使って、もちろん薄熙来解任、などとは表現してない。

日本のマスコミはわかりにくく書いているが、「薄熙来氏を解任」はある意味間違い、というか正確ではない。「重慶市トップを解任」なら正しい。「薄熙来氏の重慶市での職務を解く」とするのが一番正確だろう。

そもそも重慶市(にかぎらず中国の地方都市)では、市長より、市の行政機関を指導する立場にある共産党の組織「市党委員会」のトップである書記の方がより大きな権力を持っている。市委員というのは市会議員のようなもの。市常務委員は市委員のなかから選ばれた、日常の条例作成や行政の決定権を持つ常務委員会のメンバー。そして書記が市の最高権力者ということになる。

薄熙来は中国共産党中央(中共中央)の高層指導部である中央政治局委員16人の末席にいた。その16人の上に中央政治局常務委員9人がいて、これが最高意思決定機関となっている。胡錦濤現政権の7人が引退、顔ぶれが入れ替わる秋の党大会で、この9人に入るべく、薄熙来が猛烈な猟官活動をしていたことは以前にも書いた。

薄熙来が「完全な失脚」とは言い切れないのは、この中央政治局委員の職にはとどまっているからだ。香港メディアなどの見方でも、全人代常務副委員長とか、全国政治協商会議副主席など、実権のない名誉職につく可能性はある、と指摘している。

そもそも昨日14日に温家宝首相が全人代閉幕後の記者会見で、王立軍事件についての質問にはじめて答えて「現在の重慶市党委員会と政府は深く反省する必要があり、王立軍事件の中からまじめに教訓を吸い取らなければならない」と、間接的ながらはっきりと薄熙来を代表する市党委員会と市政府を批判した。この段階で翌日の事態はある程度予測できた話だ。

ただ、おそらくトップ9である中央政治局常務委員にはなれないだろう。王立軍の審査が終わり、薄本人にも捜査の手が伸びれば政治局委員の職も、もっとも重ければ共産党の党籍も剥奪される。

かつて中央直轄市のトップが党大会前のタイミングで失脚した例として、北京市トップの陳希同、上海市トップの陳良宇がいる。このときも江沢民と胡錦濤の人事をめぐる権力闘争というか、駆け引きがあったためといわれてきている。

もうレイムダック状態だとはいえども、温家宝総理は政治改革を口にしたり、ロイターの記者の王立軍事件の質問に答えたりと、温州の高速鉄道事故のころの保守派からのバッシング状態と比べて、今の中国では中国共産主義青年団出身(団派)が巻き返しているようにみえる。
習近平・国家副主席の総書記就任がひっくり返るとは思えないが、薄の政治局常務委員会入りがダメになったことから、9人の多数を団派がとることが現実的になってきているのではないか。習は団派のいうことを聞かざるを得ない最高権力構造になるのではないか。王立軍の米総領事館逃げ込み事件が、まさに習近平のお墨付きをつける訪米中に発生したことも習の影響力、というか権力が相対的に低下している理由なのではないか。自分の配下の人間の不始末を、自分が不在のまま政治局常務委員会が開かれて話し合われ、その席に立ち会えなかったこと。胡錦濤ら団派はまさにそのタイミングで習不在のまま政治局常務委員会を開くことに成功し、党内の主導権を大幅に回復したのではないか。

薄熙来がまったくだめになるのか、どうなのか、もう少し様子を見る必要があると思う。