Takepuのブログ

中国旅行記とか、日ごろ思ったことなどを書きたいと思います

温家宝首相「11日間病床に」

2011-07-28 18:30:02 | 時事
浙江省温州の中国版新幹線追突脱線事故から6日目の28日、温家宝首相が事故現場にやってきた。花をたむけ深々と一礼するさまは痛々しいほどだ。

新華社のサイトに現場での記者との質疑の様子が掲載された。それによると、まず病院に行って負傷者を見舞ったあと、遺族とも対面したと話し、「この機会を借りて記者の皆さんに心のうちをちょっと話したい」と低姿勢で話し始めた。「最も重要なことは人の生命、安全なのだということを、この事故は改めて気づかせてくれた。そして政府にとって最も大きな責任とは人の生命安全を保護することだと気づかせてくれた。私は最近病気で11日間病床にあり、今回、医師の反対を押し切ってやってきた。事故発生から6日目になってやっと私が現場に来たのはこのためだ」

中国の指導者にとって、自分が病気だ、と告白することは、きわめて稀だ。病気で体が悪い、と広まれば一気に政治的影響力を失うからだ。中国のほとんどの指導者が黒髪だ。江沢民も李鵬も胡錦濤も、違和感を持つほど真っ黒な髪だ。もちろん染めているのだろう。白髪は老いを連想させ、自らの健康問題について、他人からいろいろ言われてろくなことがないからだ。

人民宰相として、中国の庶民にもっとも親しまれている温家宝首相が、自らの健康問題について告白したことはどういうことなのか。温首相の現場入りが遅れたことについて、いろいろ揶揄する論調もあった。それに対する言い訳なのか。あるいは本当に病気だと、これは来年の権力継承までもつのか。ある意味、中国の現指導部の中で、最も親日的で常識的で、政治体制改革について積極的な姿勢を見せている温首相が任期途中で病に倒れて職務遂行できないことになると、胡錦濤国家主席兼党総書記も太子党、上海閥に歩み寄りつつある中、中国指導部の中の最後の良心が失われる危険がある。
自分が病気だ、と発言することで同情を得て、事態を沈静化させようとしただけなのか。温首相の性格的にはあまり考えられない。本当に11日間寝込むような、外出にドクターストップがかかるような病気だとすると、中国政局が心配だ。

記者との一問一答を見てみると、この事故の収束へ並々ならぬ決意を表明している。

まず新華社の、「関係者の引責についてはどのように考えているか」との質問に対し:
 この事故処理については多くの疑念がある。責任者の交代も検討する。事故後、国務院はすぐに事故調査グループを結成した。これは独立した組織で安全監督部門、監察部門、検察部門を含む。法律に基づき直接の責任者と指導責任を追及していく。調査の全過程を公開透明にする。

次に米CNNの「中国は米国を含む世界各国に高速鉄道技術を輸出することを急いでいるように見える。中国政府、および温首相本人は国際社会に対して、具体的にどのような方法で高速鉄道の技術が非常に先進的かつ安全だ、と説明するのか」に対し:
 口先だけでなく実践で答えなければならない。安全性を失えば信頼性も失う。今回の事件が我々に気づかせてくれたのは、高速鉄道建設においては安全が第一だ、ということだ。今回の事故を教訓に多くの分野で改善し、管理を強め、本当の安全を実現して世界の信頼を勝ち得なければならない。

ロイターの「今回の事故の今後の鉄道建設への影響は」に対しては:
 科学的な計画を練り、合理的に配置し、順序だてて発展させ、早ければ早いほどよいでは駄目で速度と質、効率と安全を有機的に結びつけて、安全第一にやらなければならない。

香港商業テレビの、今回の事故は天災か、人災か、との質問には、
 調査の結果、人災なら責任者を処分し、もし機械設備の問題、管理の問題、生産工場の製造上の問題なら解決に努力する。もし隠蔽が発覚したならば法により処理しいっさい手は抜かない。そうしなければ犠牲者が安らかに眠れないだろう。

中国中央テレビ局は「現場でもう事故の痕跡は見えない。事故現場の処理が早すぎるのではないか、と疑念を抱いている。先ほど公開透明とおっしゃったが、大事故が発生したあと、政府はどのように公開、透明を示していくのか」。結構きつい質問だ。
 事故発生後、胡錦濤国家主席は、直ちに救出第一と指示した。私は鉄道部の責任者にすぐに電話をして「人命救助」を確かに伝えた。先ほど遺族の方々と会ったときも同じようなことを聞かれた。事故処理の大原則は救出だ。2つ目の原則は安全検査だ。調査と分析を経て問題のある列車を動かすかどうか決めた。当然、事故現場の処理は被害者を考慮しなければならない。合理的な賠償をしなければならない。事故処理をうまくする鍵は大衆に正確に情報を伝えられるかどうかだ。

共同通信の「中国民衆や海外の人々が中国への信頼を回復させるために、鉄道部はどのような改革をするのか」との質問には:
 特に科学技術事業では、自らの発明、ブランド、知識財産権、これらをもって国際競争力のある生産品ができる。技術や設備には安全性をもってこそ競争力を得られる。中国の未来に対して私は十分な自身を持っていて、今後も目標実現のために努力奮闘を続ける。

……………………………
温首相の回答が本当なら、調査グループは独立している(中国ではそんなの絶対無理だ)という。責任者の処分もする。安全対策を最優先し、スピードばかり気にする開発もしないという。本当にできるのだろうか。もし温首相が病気なら、絵に描いた餅にしかならないような気もする。
事態収拾と民衆の不満を緩和するため現場にやってきて、理想的な解決方法について語るが、実際は高速鉄道政策を強引に進めている江沢民系上海閥の抵抗に遭い、温首相はその板ばさみになって、結局何も出来ないのではないか。


事故原因落としどころか

2011-07-28 13:46:18 | 時事
浙江省温州で23日起きた中国高速鉄道の追突脱線事故。新華社は28日午前、事故の原因は信号機の設計上の重大な欠陥により、落雷で故障した後、本来赤にならなければいけない区間で間違って青になったままで、後続列車が突っ込んだ、と上海鉄路局の安路生局長の、事故に対する初期的な原因についての分析を紹介した。

新華社のサイトによると、安局長は温州で開かれた事故調査グループの全体会議で、北京の研究設計院が設計した09年9月29日から使用している信号について、設計上の重大な欠陥があると話した。

また、地元の温州南駅の電気部門の当直者が、新しい設備に対する理解が足らず問題を軽視し欠陥を放置したままで、鉄道行政部門の職員に対する教育訓練がいたらなかったことも認めた。

と、なんとなくもっともらしそうな原因が出てきたが、昨日ブログで書いたように、落雷によって容易に電気系統の故障を招き停車してしまう中国版新幹線の車体の構造上の欠陥や、今回の事故で明らかになったダイヤ上は本来後ろを走っていたはずの列車が停車、微速前進中に、本来前を走るべき列車に追突されたという、管制システム上の問題、自動列車制御装置がうまく機能しなかったと見られる問題については触れられていない。これらの中国版新幹線システムの根幹をなす、より大きな欠陥を隠すために、とりあえず生贄の欠陥として、信号機の設計上の欠陥という、それほど全体状況に関係ないような「小さな」原因を持ち出してきたのではないか。
ついでに、温州南駅の担当者が不具合や故障を放置したという人為ミスを加え、落雷の影響もあったとした複合的な原因、という方向に持ってきているのは、昨日書いたとおりだ。

本当に早朝から会議をしたのだろうか。新華社のサイトのこの記事の配信時間は午前9時23分。中国人は早起きだ。というか前日までの事故をめぐる報道などに対応するため、前日から用意していた一定の途中経過での結論なのだろう。普通、日本での事故調なら、会議が終わった後で記者会見して、そこで発表する、という形だが、そこは「国営」新華社。会議に同席して局長のセリフをその場で記事化して配信しなければ、あるいは、事前に結論を教えてもらっていなければ、こんな早業は普通出来ない。

さらに、遺族に600万円の賠償金を支給するという、従来より厚めの補償対応も、温州駅や南駅などで遺族たちが集まって抗議をしていることに対して、体制を批判する様相がうかがえるという危機感を得たことで、まずこの動きを沈静化しよう、との出方に見える。都市部でデモなどの鎮圧に当たる武装警察らによる治安維持の予算に、防衛費と同等程度の予算を投入している中国において、大規模なデモになる前に未然に防ぐことが出来るのなら、破格の600万円など安い安い、と考えているのだろう。

ただ今のところは100人程度と、遺族関係者だけで抗議しているようで、ほかの不満分子を巻き込んでの大きなうねりになるような気配はない。中国当局は先手必勝だろう。あるいは中国のやり方に批判的な一部の西側メディアが彼らをあおって、より大げさに抗議を扱って何らかの動きを招くように仕組んでいるのではないか、と見るのは考えすぎだろうか。ややメディアスクラムが過ぎるように見える。