Takepuのブログ

中国旅行記とか、日ごろ思ったことなどを書きたいと思います

中国新幹線事故

2011-07-27 02:43:45 | 時事
温州で発生した中国高速鉄道の追突脱線事故。死者数も当局の思惑で新華社が数を減らす訂正を出したり、現場では、先頭車両を埋めちゃったり、また掘り返したり、事故発生後1日半で運行を再開したり、と中国鉄道省のやることは我々の常識をはるかに超えている。

埋めちゃって本当に事故原因の検証ができるのか、という疑問、また、掘り出して温州西駅に運び出されたことで、徹底的な原因究明が望まれる、とか報じる日本メディアもあるが、想像するに、検証をしてもしなくても、事故原因は中国当局的には最初から決まっているんだろう。26日は「専門家」が現場検証したようだが、中国に第三者機関の事故調査委員会など存在するわけもなく、当局の言いなりになるお手盛り調査に過ぎない。

原因は、おそらく「運転士の居眠り運転かよそ見、運転ミス。これに管制センターの指示が的確でなく、落雷などの天災が加わった複合的なもの」となるのではないか。原因は人為ミスであって、新幹線の車体の落雷に対する弱さという構造上の欠陥や、自動列車制御装置の不備、あるいは運行システムの不備、など設計上の問題は提起されない。
そもそも自動列車制御装置を導入しているのなら衝突は起こらない。中国が“独自”開発した制御装置のスイッチを何者かが切っていたのか、ダイヤの遅れを取り戻すために警報がなる装置がうざったくて切ってしまっていたのか。また装置を切ることが常態化していたのか。あるいはそもそも自動制御装置などないんじゃないか、とまで思える。

中国高速鉄道事業は国家の威信をかけて進めている。もっというと江沢民系の上海閥が牛耳る、巨額な汚職も伴った巨大プロジェクトだ。劉志軍・前鉄道相は収賄容疑で更迭されている。片腕の張曙光・運輸局長も数千億円という蓄財をして停職処分となり取り調べ中だ。温州の現場に真っ先に駆けつけた高速鉄道担当の張徳江副首相も江沢民系だ。江沢民の事業をポシャらせて顔に泥を塗るわけにはいかない。国から多額融資を引き出した結果、事業として成り立たなければ、また莫大な利益を得られる海外売り込みに失敗すれば、中国の国家財政に大きな損失を与える。高速鉄道事業は後戻りすることはできない。ましてや、この期に及んで、システム上に欠陥があったなどと認めれば、海外への売り込みが不可能になる。あくまでも人為ミスで起きた事故で、中国“独自開発”の車体やシステムそのものにはなんら問題がない、とシラをきり通さなければならない。
だから事故発生直後の当局側のコメントも、「運転士の養成に万全を期し、技術向上や安全運用を徹底しなければならない」とシステムそのものの欠陥にはまったく触れていない。

何か日本の原発問題に似てるぞ。原発をやめようとは日本政府の誰も思っていない。レイムダックの菅首相が思いつきで言って、官僚やほかの政治家、財界とつながりのある(政治献金をもらっている)人々から総スカンを食っているだけだ。

人のうわさも七十五日、喉元過ぎれば熱さ忘れる。しばらくしたら中国当局はまた平然と中国高速鉄道の海外売り込みに力を入れるだろう。ただ、米国やブラジルなどはどう見るか。中国高速鉄道が順調に進んだ段階でなく、まだこのような早期に“欠陥”と思える事態が明らかになったのだから、世界各国はその評価のために十分な時間を得ることができるだろう。

事故車両を穴に埋めた、というのも驚きだ。鉄道省の王勇平報道官も会見で「空港に着いたとき、このことを聞き、『なぜそんなことをしたのだ』と聞くと、『地盤が軟らかくて救出作業に支障をきたす』と言われた。それなら仕方ない。信じるも信じないも自由だ。私は信じる」と開き直った。現地の考えでは、事故車両を西側メディアや当局のいうことを聞かない人民に写真撮影されたりすると、自分たちが隠そうとしている本当の事故原因のヒントを与えてしまうのではないか、と思って、シートをかぶせるなどの露骨な方法では非難を浴びるので、埋めてしまえ、というのが理由ではないか。実際掘り起こした車両はシートをかぶせて運搬したのだから。地元が勝手にやった、とも思えるし、実は中央指導部の指示だったが、あまりに批判が多くて地元に責任を押し付けたのが王報道官の発言だった、との見方もできる。

掘り起こしたのは、あまりに国内外から批判を受けて、引っ込みがつかなくなった、というところだろう。中央宣伝部から事故報道は独自取材を許さず新華社の原稿を使え、と指示があったと報じられているが、実際、メディアのサイトにアップされた原稿でも独自取材や独自の見解を示すものが少なくない。中国メディアの記者たちまでもが、今回の事故の対応には相当腹を立てていると思わざるを得ない。
下の写真は24日の王勇平報道官の記者会見の様子を写した新華社のサイトの写真だが、王報道官が頭を下げて謝罪をしている写真が2枚もアップされている。


中国人記者が一番腹を立てたのは、救出作業を終了した後の25日になって、2歳8カ月の女児が救出されたこと。「当局は被害者を見殺しにするのか」と記者のヒューマニズムが、当局の報道規制も恐れず、各媒体で当局も抑えられないほど、巧みにこの事件を報じていることで、中国当局も「隠し通すことはできない。このままだともっと大きな中国共産党指導体制を揺るがす原因になる可能性もある」と判断、車体を掘り起こしたのだろう。

実際、この事故の処理を誤れば、そうでなくても不満がたまった民衆の中国当局への不信感はますます強まり、体制維持もままならなくなる。ましてや「党の舌」といわれるメディアを敵に回せば世論コントロールさえできない。外国のメディアが、温州での遺族の抗議の様子を撮影して報じ始めており、指導部に楯突く抗議の様子が国内にも広まることがあったら、指導部の脅威になりかねない。今後、事故現場でのメディア規制はますます進むだろう。四川大地震での校舎倒壊が当局も手を貸した違法建築によるものだとした遺族らの抗議や、チベット、新疆ウイグル自治区のデモの再来になりかねない。しかも、今度は中国の多数を占める漢民族が快く思わない少数民族の問題ではなく、シンパシーを抱きやすい事故被害者だ。中国指導部のお手並み拝見だ。