Takepuのブログ

中国旅行記とか、日ごろ思ったことなどを書きたいと思います

江沢民死去報道打ち消し

2011-07-08 10:25:16 | 時事
前日、江沢民死去を報じた香港の亜洲電視(ATV)は、報道を取り消した。「新華社が江氏死亡はまったくのうわさだ、と報じたことをわれわれは重視している。視聴者と江氏、その家族に謝罪する」と放送した。

亜視のサイトからこのニュース動画を見ると、このあと、亜視のオーナーで中国の若手実業家、王征・政協委員への記者のぶら下がりが映され、王氏は、「テレビを見てこのニュースを知った」、中国当局からののお叱りはとの質問には「ない。亜視のこのニュースへのコメントの放送をみてください」「あなたたちもメディアなら過度に反応しないでほしい」「香港の報道媒体ならこういう事態は避けられないこともある」「私自身もこのニュースは真実であってほしくない」などとのやり取りを放映していた。

香港の記者たちが敏感に反応するのはもちろん、中国当局が、一国二制度の原則の下運営されているはずの香港の民間テレビ局に対して、報道規制や管制をしいているのか、ということ。ただ、新華社の江沢民死去を否定する報道や、中国外交部の定例会見でスポークスマンが、「新華社が報じているとおりだ」と言っているのなら(新華社は中国国営の通信社)、中国当局が江沢民の死去を数十時間、数日間も隠し続ける理由は特にないと思われるわけで、誤報だ、と考えていいだろう。それならば報道の訂正を出すべきで、江沢民の家族なり、所属する関係機関(この場合は中国共産党、あるいは中国政府)が亜視に対して抗議、あるいは意見を述べることは当然のことで、これは報道管制とは別のものだと思う。

もちろん報道管制の圧力の意味合いのあるものになるかもしれないが、この期に及んでも王氏が「香港の報道媒体ならこういう事態も避けられない」と述べていること自体、香港に中国当局の管理を離れて、一定の報道の自由は維持されていると考えていいのではないか。もちろん、宗主国に対して香港のテレビ局側が自主規制をすることはありえるし、たぶんあると思うが。

これに対して、7日の夕方段階で江沢民死亡を伝える号外をPDFでサイト上に載せた産経新聞は依然として報道を取り消していない。PDF号外もサイト上に残ったままだ。

紙の新聞を見ることが出来ないため、サイト上での報道でしかわからないが、「生命維持装置で生かさず殺さずの状態を維持して、政治の風向きとタイミングを見て死亡を発表することがある。毛沢東も小平もそうだった」などと、どこから聞いてきたかわからないような「屁理屈」原稿を流している。

すくなくとも小平の場合は死去(と中国側が発表した時間)から5時間後には公表しているわけで、かつて林彪がモンゴルで墜落死したあと公表までに10ヶ月を要したのは、文化大革命時期という「報道の鎖国」の特殊状況にあったことなども考えられ、今の中国とは違うだろう。産経新聞は中国を敵視するような報道で右寄りの意見を持つ人々の支持を得ているようだが、今回ばかりは人の生死に関する情報なので、素直に訂正をだすべきだろう。

産経新聞が中国に対して強気の報道をし続けているのは、台湾との関係も考えられる。そもそも文化大革命期に北京を追放されて以降、他紙が北京に支局を置く中、唯一台湾に支局を構えていた産経が北京に「総局」を置いたのは98年。中台両岸の交流が進むにつれて、中国当局が産経に支局開設許可を与えた。条件は北京の支局の名称を「中国総局」として、台湾の支局をその配下を意味する台北「支局」として、北京が中国の総元締めだ、と支局名にあらわすこと。これは「台湾は中国の一部」との中国当局側の主張と一致する。産経は親台湾の建前より北京に支局を置くメリットを選び、文革期以来約30年ぶりに北京支局(中国総局)が復活した。逆に、中国当局に遠慮して台北の支局を開設していなかった産経以外のメディアは次々に台北支局を開設、北京支局を中国総局と改名した。

中国当局は産経がまた北京の支局を閉鎖して大陸を飛び出し、台北のみに特化するなら、「台湾は中国の一部」の原則を外れる存在になるのではと恐れて、産経の報道を大目に見る、あるいは産経側も大目に見てもらえる、との考えがあるのではないか。

7日夕刊で「危篤」とうった毎日新聞は朝刊には続報記事はなしだ。「危篤」と報じたからにはその後どうなったのか、すくなくとも香港のテレビが誤報だったと認めたこと、新華社が否定し外交部会見でも否定した事実のみは報じるべきなのではないか。