Takepuのブログ

中国旅行記とか、日ごろ思ったことなどを書きたいと思います

中台関係の4項目声明

2011-05-14 00:48:53 | 時事
今月10日、中国大陸を訪問中の台湾与党・国民党の呉伯雄名誉主席が、中国共産党の胡錦濤総書記と会見、この席で胡総書記は、「両岸(中台)関係を発展させるための4点の意見」を示した。

中国系香港紙「文匯報」によると、

第一、国民党と共産党はそれぞれ中国は一つという原則「九二共認」(92年コンセンサス)を堅持すること。

第二、国民党と共産党は互いに認め合い中台問題に対処すること。

第三、中台は早期に投資保障協議に署名し、文化教育交流、特に青少年交流を進め、中華文化と中華民族の認識を高めること。台湾側が提案した原発の安全性について、早期に交渉を持つことを希望する。

第四、民間交流を引き続き進めること。

このなかで、第一がもっとも重要で、根幹であるとの認識だ。「92年コンセンサス」とは、1992年に中台の交流窓口機関のトップが香港で口頭で約束したとされる。台湾側は「一つの中国の解釈はそれぞれにゆだねる(一中各表)」と解釈しているが、それについては中国側は認めていないが、話が先に進まないのであいまいなままにしている。

大陸側の人間は台湾の現状を理解していない。共産党が国民党とのみ交渉すれば中台問題は解決できると思っていること。台湾が民主的な政治形態ですでに多党制に移行し直接選挙を通じた穏健な政権交代により、カウンターパートが国民党以外になる可能性があるとの認識が欠如していること。台湾人イコール中華民族ではなく、台湾的アイデンティティーを持っていて、大陸の中国人とは別の価値観、国家観を持っているとの認識に欠けていること。共産党が国民党側の肩を持つことで不快に感じる台湾人が相当数いると気がつかないこと・・・・など。

中台の指導者による交流、交渉に向けての原則は、1981年9月に葉剣英・全人代常務委員長による九項目提案(葉九点)。83年6月にはトウ小平が、「国共両党の平等な対話」「台湾の司法権独立、軍隊保有の容認」「台湾当局の人事権の独立」など六項目を提案した(トウ六点)。95年1月には江沢民の8項目(江八点)、同年には李登輝の6項目の逆提案(李六点)に次いで、胡錦濤も2005年に3月4日に4項目声明(一つの中国の原則は動揺しない、平和統一を勝ち取る努力は放棄しない、台湾人民に希望を寄せる政策は変えない、台湾独立運動への反対は妥協しない)を発表していた。

今回は、「台独の権化」陳水扁総統が退場し、三通(通信、貿易、交通の直接交流)が実現し、新たな状況下での4項目原則で、胡錦濤があえて提示したのは、呉伯雄へのリップサービスというより、来年実施される台湾総統選をにらんで、台湾独立を提唱する民進党の総統選候補となった蔡英文主席らへの牽制だろう。

台湾の現在の馬英九総統は、国民党の切り札として総統に当選、今回2期目を目指すが、水害処理にもたつき、経済政策でも汚点を残した。唯一の救いは中国との交流促進で景気が徐々に回復基調にあること。ただ、不景気にあえいでいた台湾住民も、喉元過ぎれば熱さ忘れ、中国との経済交流の重要性より、中国側が台湾経済に攻勢を強めていることへの不満や危機感が表れている。

世界保健機関(WHO)で、台湾を「中国台湾省」と表記するよう中国側が強いていたことが発覚したことも、それに輪をかけている。WHOには、中台蜜月の影響とSARS禍を受けて台湾のオブザーバー参加が実現している。馬英九総統は中国側とWHOに抗議して「中国の言いなりでない」とのポーズを示したが、台湾の有権者に「国民党は中国べったり」との印象をもたれすぎれば、総統選の行方に影響を及ぼす可能性は否定できない。

一方で、中国共産党の大敵、陳水扁前総統が逮捕、収監され、民進党での求心力が急速に低下したあと、民進党も台湾独立を声高に叫ぶことをせず、中国との関係改善を模索している。昨年11月の県市長選では、台湾全土での得票数で民進党が国民党を上回った。現状では世論は国民党よりは民進党を押していると見ることができる。

中国共産党は台湾のこのような微妙な有権者の心理を理解できていないようだ。大陸は国民党とのみよい関係を築いている、と見せ付ければ、台湾の住民は安心する、と勝手に思っているようだ。馬英九は、呉伯雄と胡錦濤が握手している写真を苦虫を噛み潰して見ているかもしれない。馬はおそらく中国との関係改善を前面にたてて総統選を戦わないだろう。

台湾総統選は来年1月、国会議員に当たる立法委員選挙とダブル選挙になる見通しだ。もし民進党の蔡英文女史が当選したら、大陸側は台湾政策を根本から見直さなければならなくなる。その可能性はかなり高いのでは、と筆者は見ている。