わまのミュージカルな毎日

主にミュージカルの観劇記を綴っています。リスクマネージャーとしての提言も少しずつ書いています。

オケピ!

2003年04月17日 | 観劇記
(06年7月に整理し、掲載したものです)

2003年4月17日マチネ 青山劇場1階15列目ぐらいの上手

「オケピ!」やっと観ました。

初演は観ていません。そして、再演ですとかなりの予備知識有りで観劇するのですが、ここ数日のかなりの忙しさに雑誌は買っても写真を見ておしまい。長い上演時間に耐えられるかも不安でしたが、直前に浅草から表参道までひと時の休息があり、眠気は大丈夫そうでした。

あらすじは、ミュージカルが上演されているオーケストラ・ピットの中で起きるさまざまな出来事についてです。多くの方が観劇されていると思うので、詳細については省略。

感想というのは千差万別。それを前提に読んで下さいね。こういう伏線を張るということは、かなりの辛口ということですね(笑)。そして、数日前に観た「新・三国志」があまりに素晴らしかったので・・・

楽しかったのは楽しかったのですが、長過ぎるのです。長いのは時間ではありません。歌舞伎を観る人間にとって、3時間20分は長くはありません。問題は長く感じるかどうかです。

この作品は暴露物です。私はこういう裏の世界を描くなら、本当にその世界を愛している人達によって創られるべきだと思っています。

三谷さんの喜劇を楽しみにされていた方たちは、この舞台も楽しかったと思います。しかし、ちょっと違うんじゃない?と思っていました。私もコメディは大好きです。この前の「ミー&マイガール」なんかこんな愉しい作品があったのか!と思いました。でも、その楽しさは「オケピ」とは異質です。

この作品には、音楽に憧れ、オケピにいることの幸せを感じるパーカッションが一日だけの代役で参加する設定になっています。彼の想像していたオケピの中と、現実はあまりに違いすぎるのです。それは世の中ほとんどすべてのことに当てはまる、悲しい現象です。
 そして、トランペッターはミュージカルが大嫌い。ミュージカルの変なところを歌います。でも、生活があるからオケピに参加するわけですね。

もう一つの話の展開に、恋愛があります。こちらも注目すべき内容ですが、あまりにもありえそうにない話の展開で、ただただ笑うだけでした。

現実の悲しさ、厳しさを救う場面があるのですが、それがあまりにもあっさりしていて、全然「救い」になっていないのです。「M20」はオケピの全員が愛する曲、と言う設定ですが、それが私には伝わってきませんでした。
 そのとき、う~~~ん、この作品を作り上げている人達と私は音楽やミュージカルに対する気持ちが全然違うのではないかと思いました。
 こうなると、作品の粗ばかり目に付いてしまいます。一つ一つのエピソードは面白くても、芯がなくてはただ長いだけの作品になってしまうのです。

まあ、粗を言い出したのでさらに・・・(苦笑)。

音楽が非常に単調。
 それに輪をかけるのか、演出も単調。セットをシンプルにするなら、演出、照明でもっと楽しませて欲しいのです。同じように事件が起き、そのことについて歌う。ライトはその人の顔の辺りだけを照らしている。ピットの中の狭くて暗い感じをイメージしたようですけれど、内容が明るすぎて、照明を暗くしても、舞台が黒でも、全然あの本当のピットの狭さや暗さは感じられませんでした。

こういうミュージカルを茶化す作品であればこそ、もっともっとミュージカルを知り尽くしている俳優を登用してやってもらいたいと思います。

舞台の台詞(歌詞)にも出てくるし、またプログラムを読んでもいろいろ書いてありますが、「突然歌うミュージカルの奇妙さ」は、作り手の責任だと私は思います。この作品自体、とても不自然。歌わなくても本当に芝居が成り立ってしまうのです。歌はいらないから、先に進めて・・・と思ってしまうのです。音楽の旋律自体に感情や情景を表現する力があることをもっとわかって作って欲しいのです。台詞もくどいのに、歌詞はさらにくどい。それも同じようなことを並べているのです。だから、長くなるんですよね。台詞を100個言うより、ワンフレーズですべてが表現できるからこそ、ミュージカルがあるわけですから。

ちょっと話がずれましたが、突然歌い出す、に注目します。日本で上演されたミュージカルで、話題になった作品のうち「歌」だけで綴られるミュージカルが多いことに気がつかれていますでしょうか?最初から最後まで殆どが歌なので、突然歌い出す、という違和感がないのです。まあ、この形式だと、あまり複雑な話は作れませんけど、こういうミュージカルに出会うと、日本のミュージカルも凄い、と感動しきりです。

が、芝居の部分が多くなると、なんで歌うの???とがっかりすることもあります。曲の責任も、演出の責任もありますが、歌い手の責任はかなりあります。台詞回しと歌う時の声があまりにも違いすぎるのです。今回も白井さんに対してすごく感じました。こうなると、まさに「突然歌う」と言う印象が強くなるわけです。全部が歌ですと、演じ手は歌う声で通しますから、台詞の声との差を感じないわけです。

何度も言って恐縮ですが、音楽と台詞の絡みを計算していない作品の上に、台詞と歌とを繋いで演じられないキャストとなると、ミュージカルにはなりえません。
 「ミュージカルを愛するすべての人と、そうでもないすべての人へ。」という副題みたいなものが付いていましたが、そうでもない人に、ますますミュージカルって変、という印象になってしまったのではと思います。
 ミュージカルを初めて観る方も多かったと思うのです。だからこそ、作品に多少の難があっても、ミュージカルを知り尽くした人達の手がもっと加われば、もう少し軌道修正されたんではないかと思います。

ここでもう一つ是非伝えておきたいことがあります。よく言うことなので、また言っていると思われるかもしれませんが・・・(笑)。

私がここで敢えて「ミュージカルを知り尽くした人」と言っていて、「歌が上手い人」とは言っていないことに注目して頂きたいのです。

上手い歌を聴きたいなら、オペラを観劇するべきだと思います。ミュージカルでの歌はその役柄のキャラクターやその時の心情を映し出す手段ですから、必ずしも上手い歌とはなりえません。例えば、酔っぱらっているのに、朗々と歌い上げるはずもありません。音程をはずすのも、その時の状況として要求されることだと思います。ちゃらんぽらんな役柄なら、やはり歌もちゃらんぽらんが似合うではありませんか。

が、いろいろ見聞きした結果、私が感じているのは、本当にきちんと台詞として歌を歌い上げられる人が、役柄や状況に応じて、なんだかいい加減に歌っている(と、観客に思わせる、というのが本当のところ)のと、本当に歌えないから適当になっているとでは、伝わるものがまるで違うと言うことです。

そして、歌わない役柄でも、歌える役者がやるか、やらないかで、その舞台全体の音楽の流れが違ってきます。歌えない役者が登場すると、ただの台詞でも、音楽を止めてしまうのです。歌える役者は普通の台詞が、音に乗り、リズムに乗り、音楽の流れの中で役を演じていくのです。

偉そうなこと言ってと嘲笑されるのは覚悟の上です。私がここまで言うのは、「オケピ!」と言う作品は、ミュージカルの批判もしているわけでしょ。本当はここまで日本のオリジナルで出来るのにやらないのはおかしい、って作り上げなければ、作品の中で批判したことがそのままこの作品に返って来てしまうではありませんか。反骨精神で創るべき作品にしては、あまりにもお粗末だったんではないか、ということで思い切り辛口になってしまいました。

ここまで言ったから、もうひとつだけ。
 いろいろ裏話が出て、そんな現実を楽しみましたが、そこまで言うなら矛盾しているって思ったことを一つ。
 厳しい批評が雑誌に出て、大先生(女優らしい)が怒ったとあったけど、今の日本じゃそんな批評はまず出ませんね。相変わらず、ひどい舞台に、がらがらの客席。それでも批評は「最高の舞台」。オケピの面々が大先生に思い知らせてやる!ってした方が、もっと皮肉でよかったんでは・・・

さらについでに言わせて貰えば、初演のときから「長かった」というこの作品への感想は多かったはず。それを本当の時間の長さを言っていると思っていたのでしょうか?日本人の奥ゆかしさ、批評の奥の奥に隠された真実はちゃんと読まなきゃ、日本に住んでいるのですから!

このまま終わらせると、私も悲しいので。

岡田誠さんを楽しみに行ったわけですが、やはり素晴らしい歌声でした。あの歌詞をあそこまで歌い上げて下さる岡田さんに脱帽でした。そして、ちょこちょこ台詞も入っているわけですが、歌とのつなぎの上手さと言ったら・・・この岡田さんの歌は2幕の頭なので、もう散々「なんだ、この作品は」みたいな感じになっていましたから、岡田さんの歌を聞きながら、「そうよ、ミュージカルはこうじゃなくちゃ」と叫びたくなりました。曲が少々悪かろうと、歌詞がくどかろうが、歌い手の腕一つで、歌に新しい命が吹き込まれる、と実感しました。

布施明さんも楽しみでしたが、「It‘s My Life」はいただけませんでした。「オーボエ奏者の特別な一日」は良かったです。涙が勝手に流れていました。歌の力って凄いですね。でもね、このあとの話が本当に余計だと思うんです。せっかくの演奏を娘さんが聞かなかった、って設定にしたでしょ。これこそ蛇足ですよ。

岡田さんも役のために太った体をスリムに戻すのが大変だと思いますが、この作品の贅肉も落とすのは大変でしょうね。内容の楽しさは満点ですけどね。何か芯のない作品でした。とにかく、三谷さんの作品だからと「オケピ!」を観てみたという皆様が、これがミュージカルだと信じてしまうことがないことを、祈っています。

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