わまのミュージカルな毎日

主にミュージカルの観劇記を綴っています。リスクマネージャーとしての提言も少しずつ書いています。

エリザベート

2004年05月18日 | 観劇記
04年5月18日マチネ公演を観劇。
帝国劇場11列目下手。

2004年東宝版をやっと観劇しました。変更点を詳しく聞いていたためでもありますが、特に違和感もなく、再演ではなく新たな作品として楽しみました。
リピーターの多い作品なので、本当にいろいろな面で魅力があるのだと思いますし、私自身も初演時から通算すれば10回を超えています。回数が増えた理由を今思い出すと、劇場を出ると何だかもうすぐにでも観たくなる、という衝動だったようです。しかしながら、今回は一回でもう十分楽しめたなぁという感想です。本当に成熟しきったなあ舞台だったと思います。
言葉というのは、とても難しいですね。楽しんだとはいえ、また、成熟しきったと感じたとはいえ、感激したわけではありません。私は舞台を作り上げることが、そして、毎日体調を整えて舞台に臨むことがいかに大変であることかはそれなりに理解しているつもりです。今回の舞台の構成をみると、盆を回さなくなったので、キャストの皆様が大道具の運びをかなりなさっていたように見えました。地方公演もあるので、それを考えてのこととは思いますが、本当に大変な労力だと思います。かなりお疲れが出ているのもわかります。それでも本当に舞台の上できびきびと演じ、踊り、素晴らしい歌声を聞かせて下さるキャストの皆様に大きな拍手を送りたいと思います。
しかし、その一方で、成熟したひとつの方向性なのかもしれませんが、私にとっては成熟を通り越し、しつこい!と思えるキャストの方もいらっしゃいました。舞台全体に対して、もう、充分、お腹一杯と思った大きな理由だと思います。

舞台装置で、玉すだれのようなところにライトをあてて、舞台設定を表現している場面がありました。これもちょっと私としてはあまりに現代的過ぎて、19世紀の世界に浸りたいという気持ちを削がれました。全体として、重厚さを、それがエリザベートへの脅迫とも繋がっているのでしょうけれど、それを出している中で、あまりにも不釣合いだと感じました。

キャストに対しての感想をいくつか。
一路エリザベート。少女時代の可愛らしさ、結婚してからの戸惑いの表現が以前にましてよかったと思います。すっかり落ち着いた「皇后」というあたりは、相変わらず素晴らしい歌、演技でした。現代的な女性からこんなしっとり、気品あふれる女性まで演じられるなんて本当にこれからますますご活躍が楽しみです。

石川フランツ。正直、鈴木さんで是非と思っていたのですが、どうしても日程が合わなかったのです。でも、石川さんもすごく素敵な皇帝でした。鈴木さんが演じていらしたというだけでもなく、私はこのフランツ・ヨーゼフという方にとても魅力を感じています。石川さんもそんな私の夢に描くフランツを具現化して下さいました。「夜のボート」最高でした。04年バージョンで鈴木フランツを拝見していないので、こう言い切るのも難しいかもしれませんが、Wキャスト、トリプルという配役の妙の真髄がここにあると思いました。私が思い描くフランツ・ヨーゼフにお二人ともぴったりなのです。でも、お二人とも全然違います。お二人の個性は出ているけれど、フランツとして舞台で生きていらっしゃる。上手く言葉に言い表せられませんが、本当にお二人とも素晴らしい俳優だと再認識したのでした。

初風ゾフィ。初風さんの舞台もかなり観ている私ですが、今回の舞台は秀逸でした。亡くなられる直前の歌の素晴らしいこと。母として生きられなかった皇太后の辛さがわかりますよね。

トートは内野さんでした。相変わらず、指先の動きまで憎いほどのトートぶり。その演技からは「死」という冷たさとエリザベートへの愛という矛盾を嫌というほど見せ付けられました。本当に素晴らしいです。歌も、黄泉の帝王ということで、他のキャストとは違った響きを作ってもらっていたようですね。まあ、「キャンディード」を観た次の観劇がこの日の舞台だったわけで、歌に対しては厳しくなってしまうので、これ以上は言うのをやめようと思います。

この舞台には「太平洋」組から、治田敦さん、今拓哉さん、さけもとあきらさんがご出演です。だから、本当は3回は観ようと思っていたんですけれど、なかなかスケジュールが合いませんでした。

治田さんは、落ち着いたグリュンネ伯爵を演じていらっしゃいました。宮廷生活の要所要所でご登場で、生活の広がりを感じさせてくださいました。エリザベートの大変さを観客に感じさせる下地作りという点もありますから、短い場面でもそれをアピールしなければならないわけで、治田さん始め宮廷の重臣の皆様の上手さに相も変わらず感激したのでした。

さけもとさんと言えば、この作品の中では精神病院の院長が印象的です。演出がかなり変わり、動きが激しくなったように思いました。ソロでもいつもと変わらず美声をお聞かせ下さいました。この作品は、アンサンブルと言っても、皆様ソロがあり、役付きの場面もあります。ですから、とてもアンサンブルの質が高く、充実もしているわけです。この作品の大きな魅力だと思います。

最後に今さん。はっきり言って今さんのせいで一回しか観られなかったのです。今さんのご出演と私の行かれる日がこことごとく合わず・・・観ないほうがいいってことかしらと思うほどでした。確かに、エルマーという役は私が拝見した今さんの役の中で、今さんがとても窮屈そうに見える役だったので、ここまでスケジュールが合わないなら観ないのもいいか、と。前回の公演のとき、エルマーがとても浮いていて、今さんのファンの私でも、共感するのが難しかったのです。でも、拝見してとてもよかったと思います。観ている私が大人になったのかもしれませんが、熱い思いをエルマーと共有できたような気がします。そして何よりハンガリーという大国の圧政に苦しむ人民の思いをエルマーは背負っているのだとすごく思えたのです。印象的だったのは、ハンガリー国王の戴冠式後の人民の喜びを見て去る場面でした。舞台下手で立ち止まり人民の歓喜を振り返り、そして正面を見ます。何か遠くを見つめている姿でした。今エルマーの視線の先には、未来への希望見えているのでしょうか。私にはちょっと寂しげなその眼差しには亡父への思い、ハンガリーの苦しみが写っているように思えました。全体として熱い思いのエルマーですが、その眼差しひとつで、エルマーって本当に大きな人物なんだなぁと思えたのです。そして、最初の登場からすると革命時にはかなりの年齢になっているわけですが、今回はとてもそれがよくわかりました。でも、ちょっと革命のときのダンスの足取りが重くなっただけなのかも(笑)。

Wキャストの妙を実感したり、Wキャストゆえの観劇日程の組み難さを体験したりと、「Wキャスト」にとても縁のあった04年版「エリザベート」でした。
04年いっぱい続く「エリザベート」。キャストの皆様には体調に十分気をつけられて、魅力あふれる舞台をお続け頂きたいと思います。