世田谷パブリックシアターで開催されました宮本亜門さんの帰国記念「ブロードウェイでのミュージカルの作り方」というトークイベントに行きました。
宮本亜門さん、舞台装置を担当されていた松井るみさん、小嶋麻倫子さん(「シアターガイド」で「『太平洋序曲』組曲」の記事を書いていらっしゃる方)がたくさんお話して下さいました。一時間半は3人のトークやスライドを見ながら説明でした。残り30分は観客からの質問に答えて下さいました。
長時間にわたるトークでしたので、全てを記憶しているわけではありません。とても大雑把にご紹介します。また、私の主観が優先してお話を聞いているという点が大いにありますので、ご了承の上お読み下さい。
このトークイベントを開く動機が亜門さんから二つほど示されました。一つは、これからブロードウェイ(以下BW)に挑戦する日本の演劇関係者の参考にして欲しいので、自分達の体験を伝えておきたいこと。もう一つは、ある意味けじめをつけたい、ということでした。
私は、「けじめ」という言葉が出たときに、ドキっとしました。もう「太平洋序曲」から離れたいという意味なのかな、と思ったからです。あとの観客からの質問にまた上演の予定はあるのか、との問いに、「話は出ているが、まだ分らない」とのことでしたので、もう絶対にやらないとか、関わらないという意味ではないと思います。が、トーク全体から受けた印象として、BW公演は本当に大変なことが多くて、しばらくはパワーが湧かないという意味だったのではないかと思います。
ユニオンの話がたくさん出ていました。舞台作りの上では弊害が出ていると3人の方もおっしゃっていましたし、BWで仕事をしていらっしゃる小嶋さんはアメリカでもいろいろ批判があるとおっしゃっていました。
BWは素晴らしい環境で舞台作りが出来るのかと思うと、そうでもないどころか、日本の方がずっといいというと感じることが多かったようです。
仕事が細分化されているので、誰がする仕事かわからないようなところがたくさん出て、その調整にとても苦労なさったようです。
そして、その苦労をなくすには「言った者勝ち」という気持ちで、どんどん自分の意見を言わなければならない、と亜門さんも松井さんもおっしゃっていました。
亜門さんは、日本では変わってるというか、多分、言った者勝ちのようなところがあるのに、BWに行って、本当に自分は日本人だ、と自覚したそうです。
と、書いているととても堅苦しい話があったように思えますが、その苦労話が、あまりに日本では考えられないようなことばかりなので、大笑いの種なのです。3人の方も、「今なら笑える」と。
批評について、亜門さんから「白黒つけたい日本の報道もわかるけれど、取り上げてくれたことが嬉しかった。仲間として見てくれた。」とお話がありました。そして、たくさん書いてくれて、細かくよく見てくれることが嬉しいともおっしゃっていました。
私も米新聞の批評を読む機会を得て、さらに日本語に置き換えるという作業をしてみて、本当に1回しか観ないで書いているのかなぁと思うことがあります。それほど、細部にわたって、たま、時代背景などもとてもよく理解して書いて下さっていると思います。日本の劇評は、9割あらすじで、1割が主役を褒めるという文章ですからね。雲泥の差というか、この辺りが芸術を支える、育てるという社会となるかどうかの違いだと思います。
苦労話が多かったので観客が「ポジティブな面はなかったのか」と質問しました。それに対し、「キャストといろいろなことが話し合えた。スタッフは対等で頭ごなしに決定が出ることはない。」と楽しかったお話もたくさん出ました。
他にも、本当にいろいろなお話があって、興味深いことがあったのです。が、結構個人名が出たり、私が聞いても、「そこまで言うか」という内容もありました。それは、「次の挑戦者」が苦労しないためにという、まあ言ってみれば親心のような感じだったのですが、文章にすると伝えにくいのです。
最後に、私がとても気になっていたことがあって、それがすっきりしたのでそれをお伝えしておきたいと思います。と言っても長くなりそうですが。
それは衣装のワダエミさんのことです。
私は、ワダさんの新国立版「太平洋序曲」への思いがとても嬉しく(詳しくは
再演の制作発表時の発言をお読み下さい。)、ワダさんが「太平洋」に関わって下さるなら、本当にこのカンパニーが世界で活躍出来るのではないかと思っていたのです。ところが、BW版でワダさんが関わられないことになり、「どうして?????」となっていたのです。ワダさんはアメリカでのお仕事も多いですから、亜門さんや日本のスタッフを一番助けて下さると信じていたのです。それなのに・・・。
その疑問が解けました。
今回制作母体となったのがラウンド・アバウトという団体だったのですが、というかBWではこの団体に限らないようですが、非常にスケジューリングが遅いそうです。はっきり決定しないという期間が非常に長いわけです。ワダさんは衣装の全てを染めからなさるつもりで、いろいろ予定を立てて下さっていたそうです。ところがなかなか決まらない。もう、染めて、仕立てるには時間がない、という段になっても決まらない。というわけで、ワダさんは降りられたそうです。
このお話を聞いて、ほっとしました。もしまた日本で上演することがあったらきっとワダさんはまた参加して下さるだろうと思えたからです。
楽しい2時間でした。本当に亜門さん、松井さん、小嶋さん貴重なお話をありがとうございました。私は、舞台制作に関わっているわけではないので、申し訳ない気持ちで聞いていました。それどころか、「この舞台は何よ」みたいに、平気で言ってしまう身勝手なファンなのです。
で、いろいろお話を聞いて態度を改めるか?
改まらないでしょうね。でも、もっともっときちんと舞台を観ようと思いました。良いか悪いかではなく、深く観ることで、この身勝手さをお許し頂きたいと考えています。