2007年03月18日午後1時 ミノトール2
昨年9月にも観ました「サイド・バイ・サイド・バイ・ソンドハイム」の再演を観てきました。
出演者:池田紳一さん、さけもとあきらさん、やまぐちあきこさん、河合篤子さん
ビアノ:井福小枝子さん
そのときにも観劇記を書いたつもりでいましたが、ブログにアップしていませんでした。いろいろ思うことがあったためと思われます。
ソンドハイム氏の音楽は、全体として、聞き流せない心地よさにその特徴があると私は思っています。ここのところ流行している「癒し」の音楽は耳から入ってきて体をすり抜ける感じがします。体の力が抜けるので、確かに「癒し」には良いと思いますが、私は音楽としては勿体ないような気がしています。音楽は心に残ってこそという気持ちがどうしても私にはあるのです。
「聞き流せない心地よさ」と言ってみましたが、もっといえば、ザラザラした心地よさですね。ところが、そのザラザラがゴツゴツではまずいんじゃないかと、ソンドハイム氏の音楽を聴くときよく思うのです。
演奏者側になると、心地よいハーモニーではないし、変な転調はあるし、音域は広いし、相当ご苦労があるのだろうと、私のようなお気楽な聞き手でも予想がつきます。しかしながら、この「SSS」は出演人数も少ないですから、精鋭で作る舞台でなければならないと思います。また、私もそれを当然として会場へ出掛けているのです。
こういう話は、良くなったから出来る話なのですね。先程「いろいろ思うことがあった」のは、まさにこのことでした。
前回、昨年9月の際に、どれほどの準備期間があったのかわかりません。私が聞いた限りでは、ソンドハイム氏の楽曲の難しさからすると、少し準備が足りなかったのでは、という感じでした。
さけもとさんはどんな難曲も平然とこなされてしまうので、あまりそれを感じてはいませんでした。池田さんも雰囲気でそれなりにこなされているように感じました。河合さんはきっちりと、そして美しい色気でかなりこなされていたと思います。が、やまぐちさんにはかなり?でした。「ウエストサイド物語」の『あんなおとこ』はとてもよかったと記憶していますが、他の曲は他の3人の方からすると、音程自体がとても不安定でした。ゴツゴツしてしまっていました。ご自分が得意となさる音域ではしっかり歌えるのに、少しでもそれを出てしまうと不安定になってしまうのかな?と思いました。微妙なハーモニーも求められるナンバーも多いので、少しイライラする場面があったのは確かです。
本当に、申し訳ないのですが、やまぐちさんはそういう歌い手さんかな・・・と私の記憶には残ってしまいました、その時点では。
それから、約半年。やまぐちさんの歌声を聞いて、「あれ、全然違う!」と思いました。「カンパニー」の『過ぎ行く人々』でその思いを確信しました。この曲はとても早口で、不安定な旋律の繰り返しで、多分その繰り返しが微妙に変化していくのです。まさに「ザラザラ」の典型の曲です。正確な音程、美しい歌詞は勿論のこと、その歌にこめられたメッセージも伝わってきました。その後の、『バディーズ・ブルース』もすごく楽しめましたし、『ブロードウェイ・ベイビー』では圧倒されました。『心揺れている』は私がとても好きな曲だけに、前回はとてもがっかりしたのですが、今回は惚れ惚れしました。
しかし、こんなに変わるなんて、どんな努力をなさったのでしょう?かなり緻密な声のコントロールをなさっているなと感じながら聞いていました。一曲一曲どころか一フレーズずつ、どう歌うのかをきっちり突き詰めて練習なさったのでしょうか。
ソンドハイム氏の曲の難しさが、やまぐちさんを悩ませたのだと思いますが、それをほぼ完璧にこなされたやまぐちさんはすごいなぁ、と思います。是非、これからもその美声、豊かな声量で、私たち観客を楽しませていただきたいと思います。
私も大いに反省です。歌い手の力量をある程度は見抜けると思っていましたが、努力しても無駄な力量なのか、努力、あるいは、時間をかければ可能性がある力量なのか、全く見抜けませんでした。しかし、どこに違いがあるのでしょうか?なんだかミュージカルに何度も挑戦する歌の下手な役者に出会うたびに、「誰か、はっきり言えばいいのに」と思ってしまいます。でも、もう少し時間をかければ・・・なのでしょうか?基礎が違うのだと私は思いますが、どうなんでしょうか。
作品としても、今回の方がハーモニーの美しさも楽しめ、よかったと思います。
が、私の伺った回は、ちょっと河合さんの早口の冴えがちょっとなかったですね。以前、ソンドハイム氏の歌はちょっとでも気を抜いたら総崩れになる、と聞いたことがあります。持ち直していらしたので、河合さんは曲にかなりなじんでいらっしゃるのだとは思いますが、もう少し緊張感があってもいいのではと思います。もしかしたら、緊張し過ぎ、もあったのかも知れませんが、前回の「冴え」の印象が強かっただけに今回は残念でした。しかし、ライトナンバーの『私は生きている』には本当にぐっと来ました。
昨年末から、正直、舞台への情熱、これは私が使う言葉ではないですね・・・ええ、観劇への情熱、こちらのほうですね、この情熱がわかなくなってしまっている私にとって、こういう舞台(歌詞は映画ですが)へ、人生をかけている人の心に触れることは、とても辛く、怖く、また、申し訳ない、と複雑な感情がうごめく厳しい時間です。河合さんの『私は生きている』は、私の閉ざされた心を少し開いて下さったようでもあります。
相変わらず、厳しすぎるぞ、と言われそうですが、感じたままを書いてみました。
しかし、さけもとさんはミスしませんね。本当に憎らしいぐらいです(笑)。別に粗探しのために聞いているわけではないので、楽しめればそれでいいのですが!
今年が明けてからライヴ、「スウィーニー・トッド」、そして「SSS」とさけもとさんの舞台が続きました。ライヴなどは公演中でしたが、歌詞を覚え切れなかった、ぐらいで、ミスらしいミスもなく歌われていました。本当に、歌の神様がそこにいる、という感じです。
同じ曲を聴いても、そのときの聞き手の感情によって、その曲はいろいろな顔を見せてくれます。そして、その変化の可能性がとても大きいのがソンドハイム氏の曲のような気が私はするのです。ですから、何度聞いても飽きることがありません。
また、「SSS」の再演も楽しみです。が、これはソンドハイム氏の初期の作品からの曲なので、「SSSパート2」とかが出来ると面白いと思っています。ちょっと曲想も変わってきていますし。まあ、どの曲を選ぶかで相当苦労しそうです。だって素晴らしい曲が多すぎるから!
それでは、また。お読み頂き、ありがとうございました。