わまのミュージカルな毎日

主にミュージカルの観劇記を綴っています。リスクマネージャーとしての提言も少しずつ書いています。

テイクフライト

2007年12月02日 | 観劇記
テイクフライト
2007年12月2日マチネ   東京国際フォーラム・Cホール  
1階実質4列目センター

宮本亜門氏演出、ジョン・ワイドマン氏脚本、出演者に治田敦さん、今拓哉さん、岡田誠さん、と「太平洋序曲」関係者が多くいらっしゃるにもかかわらず、プレビューにも初日にも観劇せず、やっと今日出かけてみました。
事前の宣伝文句に「太平洋序曲」の文字を多く見ますので、この作品をこよなく愛する私にとってはこの「テイクフライト」も素晴らしい作品となることを期待しています。しかし、約一年前、やはり世界初演の作品の初日に観劇し、本当に、本当に、本当にいろいろなことがあったので、今回は敢えて開幕して少し経ってからの観劇を予定しました。
この計画が良かったのか、作品自体が良かったのか、はたまた私が寛大になったのか?!?!?
後日、「世界初演」についてはじっくり語りたいと思っていますので、今日は少し触れる程度で、作品への感想を書きたいと思います。

この作品は過去の事実がベースになっていますので、結末を書いても大丈夫だと思いますが、知りたくない方は読まないで下さい。
と言っても、思い切り「あらすじ」(荒い筋)です。
ライト兄弟は有人飛行の夢を追い、砂漠で試行錯誤を重ねる。一度は諦め家に戻るが、また、挑戦を始める。
リンドバーグは人類初の大西洋横断飛行に挑戦している。その最中に、リンドバーグの飛行機との出会いや挑戦にいたるまでの苦労が語られていく。そして、最後はパリに降り立ち、人々の歓声に迎えられる。
アメリアは女性初の大西洋横断飛行をしたとして大いに人気を博すが、同乗していただけということに疑問を感じ、自ら操縦桿を握り大西洋を飛行することを、パットナムと結婚することと引き換えに実行する。そして、彼女は飛行士として自立するが、最後の飛行にすると夫と約束した世界一周飛行の途中で消息を断つ。

この3つの話が平行して進みます。

ラストは、ライト兄弟のグライダーがテイクフライトする、というところで終わります。


私は、リンドバーグの大西洋横断が描かれた「翼よ、あれがパリの灯だ」という映画を見ています。ライト兄弟の簡単な伝記も読んでいます。アメリアのことは今回初めて知りました。
が、もし、どの登場人物も知らなかったら・・・何が何だかわからないお話だと思います。
このモザイク模様のようなお話の進み方は、「太平洋序曲」によく似ています。ですので、私はとても好きです。が、やはり「太平洋序曲」も歴史を知っているから、あちこちに話が飛んでも話が理解できていたのだと思います。そして、ナレーターという交通整理をしてくれる役がとてもしっかりしていたのが、今回とはかなり違う点ではないかと思います。

ワイドマン氏の脚本から受ける印象は、やはり彼は「アメリカ人」だという点でしょうか。アメリカ人なら誰でも知っているということが前提になっているのです。ですから、日本で上演するなら、もう少し丁寧に最初に登場人物の偉業を説明しないと、作品で言いたいことが分からないような気がします。アメリカは飛行機が移動の中心ですし、宇宙飛行にしても日本に比べればとても身近なはずです。アメリカ人は私たち日本人に比べて登場人物をいつも身近に感じているのではないかと思います。

音楽については・・・う~~~ん、私の好みではないですね。ミュージカルにしては管楽器が強過ぎます。不協和音が続き過ぎだと思います。やはり、不協和音は「ここぞ」という場面で使って欲しいのです。
作曲と言わず「音楽」と言いましたが、音楽には、旋律、編曲、歌も入ると歌詞、そして歌い手も含め演奏と幅広くなります。どれかが改善されるとぐっと良くなったりもしますので、敢えて作曲とは言いませんでした。というのも、音楽監督と指揮をしていらっしゃるアベル氏の音作りが私はちょっと苦手なのです。以前、同じホールで「キャンディード」を観劇しました。初演のときはフル・オーケストラで佐渡裕さんの指揮でした。再演時は今回のアベル氏でした。再演では、オケの編成が変わったのかもしれないので、比較するのはよくないかもしれませんが、軽やかな反面、ちょっと金属的な音色過ぎるのでは?と思ったものです。
飛行機という非常に金属的な話題に、金属的な音。合致しているのかもしれませんが、描かれるのは人間の心なのです。もう少し、温かみのある音が響くといいのになぁ、という場面がありました。
温かみのある音に、もう少し歌い手が音楽に馴染めば、今不協和音の連続という場面も、落ち着きが出てくるかもしれません。

作品全体として、一幕がつまらないです。この倦怠感がいつまで続くのかという感じです。
その上、私の観ていた回では最初のころ池田成志さんのマイクが入ったり、入らなかったり・・・私は前の方ですから聞こえますが、もう少し後ろは・・・お話に入り込めない観客が相当いたと思います。
リンドバーグが操縦を習う場面なんかで、もっと飛行機を飛ばせたりしたら、メリハリがつくのにと思いました。
その場面ばかりでなく、飛行機の話なのに、そして、操縦の場面もあるのに、飛行機が飛んでいるという印象がとても薄いのです。

二幕は話が煮詰まることもあり、テンポがよくなります。
が、とても残念な場面があります。これも「太平洋序曲」の外国司令官が続々日本にやってきて条約を結ぶ場面と似ているので比べてしまうのですが・・・。リンドバーグの前に、大西洋横断飛行に挑戦して失敗する人達の話が、ショーのように繰り広げられるのです。出演者総出で、「死」を笑い飛ばしてしまうというブラック・ジョークの極め付けみたいな場面なのです。絶対、楽しくて、一番盛り上がる場面にしなければならないはずなのですが・・・。台詞も歌詞も聞き取れません。オケがもっと引くか、歌詞を詰め込ませ過ぎないか、視覚的な工夫をするか。観ながら、「勿体ない!!!」と絶叫してしまいました(心の中でですよ、笑)。

公演回数が進むうちに、自然と改善される点も多いと思います。
しかし、この作品は何を伝えたかったのだろうか?と振り返ったとき、何も残っていないのです。
アメリアが女性として自立し、結婚しても自分を見失わなかった点でしょうか?でも、現実として、そういう女性が殆どになった今、あまり重視される点ではありません。母親が夫から暴力を受けている場面がシルエットのように出ますが、アメリアの結婚観の裏づけには印象が薄過ぎます。
報道に翻弄される時の人についてかと思うと、リンドバーグの大西洋横断成功後の苦悩が描かれていないので、そうでもないらしいです。それに、アメリアがリンドバーグに「ずっと飛び続けて」と忠告する場面が、あまりにも不自然です。私は、アメリアがリンドバーグに感謝を伝えるために登場したのかと思いました。あの場面は、この作品の中で一番不自然な場面だと思いました。
ラストがライト兄弟のフライトですから、彼らの偉業を見直そうというのかとも思うのですが・・・何かピンときません。
「大空を飛ぶ夢」という問いかけから始まるのですから、劇場を出るときに、登場人物の誰かに共感して「自分も夢のためにがんばろう」となるといいなぁと思います。

俳優の皆様のご活躍については、また、後日。

今の日本の演劇のシステムでは、プレビューが機能しないとか、ロングランが出来ないとか、「世界初演」の作品を育てていくことが出来ない環境にあることは私もよくわかっています。
ですので、先程も書いたように、また、細かいことは今後じっくり書きたいと思っています。それでも、やはり厳しいことを言えば、このチケット代、これまでの宣伝には疑問を持ちます。
その一方で、キャストの皆様は、舞台で本当に素晴らしい動きをして下さいました。その姿を拝見しに、劇場へ足を運んで、本当に良かったと思っています。

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