わまのミュージカルな毎日

主にミュージカルの観劇記を綴っています。リスクマネージャーとしての提言も少しずつ書いています。

ミュージカル十二夜

2003年11月17日 | 観劇記
(06年7月に整理し、掲載したものです)

2003年11月17日マチネ 帝国劇場5列目上手

約2ヶ月ぶりにミュージカルを観ました。「十二夜」はシェイクスピアの作品の中でもとても好きなものの一つですし、喜劇ですから、きっとハッピーな気分になれると楽しみにしていたのですが・・・

あらすじです。とても単純に。
難破した船に乗っていた双子の兄妹は互いに相手が死んだと思っていた。その二人とも同じイリリアに着いていたのだ。
妹のヴァイオラは男装して「シザーリオ」と名乗り当地の領主オーシーノー公爵に仕える。 オーシーノー公爵は伯爵令嬢オリヴィアに思いを寄せるが、相手にされない。そのオリヴィアは使いとして来たシザーリオに一目惚れ。そして実はヴァイオラはオーシーノー公爵に一目惚れをしていたのだ。
いろいろ騒動はあったが、兄のセバスチャンが登場し、すべては解決。 失恋したマルヴォーリオやサー・アンドルーもいたが、ヴァイオラはオーシーノー公爵と、オリヴィアはセバスチャンと結ばれ、めでたしめでたし。
とこんなお話です。

何人もが、「一目惚れ」という、何とも軽いお話なので、あまりいろいろ考えずとにかく楽しく、わっと終わるだろうと予想していましたし、そうあって欲しかったんですよね。それが、長い。とにかく長い。と感じた一幕。でも実際は1時間半ほどだったんですね。二幕は1時間。それでも、長く感じました。

コメディなんですよね。いろいろギャグも言うし、登場人物自体も面白い。音楽もなかなか耳なじみがよく素敵でした。それに、斉藤由貴さんが相当苦労なさった作詞も、とてもよかったと思いました。言葉に溢れ、それで楽しむストレートプレイの下地があると、台詞と歌詞がダブって、歌に飽きる可能性が高いのですが、あまりダブることもなく、歌の美しさが旋律、歌詞から生まれていたと思いました。 なのに、なんであんなに長く感じたのか???

ミュージカルで、演技、歌と来ればあとはダンス。そう、ダンスが何とも頂けなかったのです。ダンスの内容は素晴らしかったのです。本当に、切れもあったし、アクロバティックで、楽しませてくださいました。しかし、何の意味があってこの場面があるのかよくわからなかったのです。そりゃ、意味はあるのですが、それがわかりにくい。そして場面が長い。本筋を忘れるほどなんです。
ミュージカルのダンスと言えば、主役級も一緒に踊るとか、主役級が歌うのを周りで盛り上げるとか、本筋を助け、観客を楽しませる場面だと思うのです。ショーに徹する場合でも、一場面あれば十分なんですよね。2場面も3場面もあると、それを観ながら、本筋のいろいろなことを考え過ぎてしまうのです。あんなとんでもなくお転婆なオリヴィア姫に、思慮深く、お優しいオーシーノー公爵が惚れ込むでしょうか?しっかり者のマルヴォーリオが恋するでしょうか?最後のどんでん返しというか、解決としてのセバスチャンの一目惚れがあるのでしょうか? 普通は、こんなこと考えません。「十二夜」はそういうおめでたい人々が楽しく恋をするお話なのです。
楽しい場面をたくさん作ろうとして、ショーのようなダンス場面が多かったのかもしれませんが、それによってお話自体の楽しさが、途切れ、途切れになってしまったと感じました。 せっかく、実力のある俳優の皆様、華のある女優の皆さんの競演でしたのに、勿体無い舞台になってしまったナァと思いました。

キャストの皆様に関する感想です。
オーシーノー公爵の鈴木綜馬さん。いつも変わらぬ美しい歌声。今回は、低音が多くて大変だったと思いますが、どの音域も明瞭な歌詞をお聞かせ下さるのだと惚れ惚れしていました。そして、周りにダンサーをたくさん侍らせて嫌味のない方だなぁと思ってしまうのです。「チャーリー・ガール」では今回とはまるで違うキャラクターで、男性ダンサーを従えて踊りましたが、この時も素敵でした。主役にダンサーをつけて舞台を構成するのはとてもポピュラーな手法ですが、それが嫌味に感じられることも多々あるのです。(まあ、正直に言えば、この舞台でもそういう場面がありました。)綜馬さんは、ダンサーの中で、浮くでもなく、埋もれてしまうでもなく、絶妙のバランスでこの構成を楽しませて下さいます。何というか、自然に集まってきたって感じなんですよね。この方の思いを受け入れないなんて、オリヴィアはどういう女なのかしら(笑)。

セバスチャンの岡幸二郎さん。いつも岡さんの舞台を見て思うのです。「この方、本当に、本当に、本当に舞台が好きなんだナァ。」と。板の上で、間違いなくその演じるべき役柄で生きている、と感じます。この舞台でとても印象に残ったのは、アントーニオとイリリアの町外れに登場するシーン。悲しみと辛さの暗い表情から始まり、新たな一歩を踏み出そうとする少し明るい表情へと変わるところでした。

治田敦さんが演じたのは、オリヴィアの召使のフェービアン。しかし、行動はオリヴィアの伯父のサー・トービーや、侍女のマライアと一緒。口うるさい、伯爵家の執事マルヴォーリオをいじめたり、オリヴィアと結婚させようと連れて来た田舎貴族アンドルーを担いで、いたずらしたり、やりたい放題。本当にやりたい放題をするのは、サー・トービーの安崎求さん。治田さんは、安崎さんのつっこみを受ける側、でした。いつもなら、安崎さんのキャラを演じることが多い治田さん。とてもとても落ち着いたいたずら坊主という感じでした。でも、久々に本当にたくさん歌って下さったので、すっきりしました!

そして、久しぶりに舞台でお目にかかれた越智則英さん。アントーニオは、セバスチャンとの登場になりますから、出番が少ないとわかっていました。さて、あの素晴らしい歌声をお聞きすることが出来るのか?と不安だったのですが、オリジナル・ミュージカルのいいところは、キャストへあてがきして下さることですね。セバスチャンと友情を確かめ合い、不安一杯のセバスチャンを励ます歌。そして、セバスチャンの岡さんと二人で歌うところなどは、もう最高でした。これで満足しようと思っていたら、あてがきの成果なのか、決闘の場面でも素晴らしい歌声をお聞きすることが出来ました。本当に幸せなひと時でございました。

 しかし、越智さんが金魚を拾うというのは、どういう意味があったんでしょうか?
こういう類の、脈絡のないギャグも舞台の流れを止める原因だったのかもしれません。何となく、「喜劇」を三流漫才と取り違えているような・・・

「喜劇」こそ、スピード感や流れが大切だと実感しました。多少引いてしまいそうなギャグも勢いづいて笑えそうですからね。 いろいろ文句もありましたが、越智さんと治田さんの歌を堪能したので、素敵な舞台だったということにしたいと思います。

そして誰もいなくなった

2003年11月04日 | 観劇記
(06年7月に整理し、掲載したものです)

2003年11月4日ソワレ シアター・アプル8列目かなり下手

アガサ・クリスティーの名作中の名作と言える小説の舞台です。あまりに有名なお話しと思っていましたが、推理小説が好きではない方はご存じないようですね。劇場でも、「誰が犯人?」「このあとどうなるの?」との声が聞こえていましたので、さらっとですがあらすじを書きます。 全3幕、3時間弱の舞台です。

 ある年の夏8月8日に8人の客が島の邸宅に招かれる。迎えたのは召使の老夫婦。島には10人。招待したはずのオーエン夫妻はやってこない。初日の夕食後、レコードに吹き込まれた声によって10人が過去に犯した罪が暴かれる。人々は弁明する。そして、突然、マーストンが死ぬ。翌朝、ロジャース夫人が死んでいることがわかる。残った8人は、二人の死が他殺か否か迷いながら、その死が壁にかけられた「10人のインディアン」の歌詞によく似ていることに気づく。その後次々と人々が死んでいく。最後に、ロンバード、ヴェラが残る。ヴェラはロンバードの持っていた銃を奪い取り、ロンバードを殺す。で、ここから舞台と原作は違います。
 原作は、ヴェラは自殺してしまうのです。というか自殺に導かれます。そして、真犯人の手紙がロンドン警視庁に届いて、真相が解き明かされるのです。
 舞台は、真犯人の元判事ウォーグレイヴがヴェラに真相を話し、ヴェラは呆然としてウォーグレイヴの言うままに、自殺しようとする。そのとき一発の銃声がしてウォーグレイヴが倒れる。そう、ロンバードは死んでいなかったのです。そして、ハッピーエンドとなります。

 配役と簡単な感想を。
山口祐一郎さんがロンバード。二幕最後の「レクイエム」。心に染み入る歌でした。髪型をもう少し考えて欲しいと思いました。

匠ひびきさんがヴェラ。しっかりした女性として描かれているので、所作はとてもきびきびしていてよかったと思います。が、もう少し目と声でも演技をしていって欲しいのです。ちょっと堅かったかな?

沢田亜矢子さんがエミリー・ブレント。独身の老婦人で、潔癖症。罪の意識に皆が迷う中、一人「自分は正しい」と言い張る役。ちょっと嫌な役ですが、とてもさらりとこなしていらっしゃいました。

天田俊明さんがヴォーグレイヴ元判事。勿論私はこの人が犯人だと知っているわけですが、 全然犯人らしくない。長年の判事の貫禄、冷静さが伺えて素晴らしかったです。犯人らしくないからこの作品が面白いんですよね。

今さんはまたあとで。

金田賢一さんがアームストロング医師。何人もの人がこの人物が犯人ではと思うには、ちょっと線が細い気がしました。一度の過ちがあったとはいえ、大成功している医者の風格がもう少し欲しかったかな。

長谷川哲夫さんがマッケンジー退役将軍。自分の妻が不倫していた相手を殺してしまったとしきりに反省する。そして、生きる望みを捨ててしまう役です。3人目の犠牲者なのですが、とても印象に残ります。沢田さんの役と対照的です。

中島ゆたかさんがロジャース夫人。テレビの印象が強いのか、この役にはちょっと合わない印象でした。もっと控えめな印象を原作では持っていましたので。ただ、舞台はラストも違うし、最初の方に死んでしまう役には、原作の数倍のインパクトを与えるような台詞があるようでした。

井上高志さんはブロア元刑事。最後の方まで生き残る役。そのしたたかさが伝わる素晴らしい演技でした。舞台を引き締めていました。が、台詞の言い直しがこの日は目立ちました。
三上直也さんはロジャース。召使役です。妻をなくしたあとの廃人のようになってしまう演技はまあよかったのですが、殺され方が斧で切られるですから、あそこまで弱々しいと、なんだか犯人にあまりにも憎悪が行ってしまうような気がしました。

野本博さんはナラコットという船頭です。最初の方に登場しますが、殺されないです。 この作品の面白さは、事件がおこっている間は誰が犯人なのか全然わからないという点にあります。が、犯人のヴォーグレイヴ元判事はそれを臭わせることを言います。そして、私はこの台詞が好きです。 ブレント婦人が自分の行動は間違っていなかったと言い張り、死んでしまったのは「天罰が下ったのよ。神の裁きです。」というようなことを言います。それに対し元判事は「神はその裁きを人間の手に委ねたのではないだろうか。」と応えるのです。 長年の判事生活で、法律上有罪ではないけれど、道徳的には許されない行為の多さを見てきたのだと思います。勿論、この元判事は異常性格も手伝ってこの犯罪を計画するわけですが、自分の胸に手をあてて、罪を犯していないか、問い直さなければならなくなる作品です。 「オリエント急行殺人事件」と対をなすような作品ですよね。本当にアガサ・クリスティ作品は何度も読みたくなる魅力がたくさん詰まっています。

そして、舞台では、犯人探しは目的ではないと思うんですよね。自分が殺人犯に疑われている。殺されるかもしれない。という極限状態で、人間はその本性をあらわしたり、人間関係の別の面を見つけたりするのです。私は、それが楽しくて推理物の舞台を観ています。 ですから、今回で言えば、長谷川さんや沢田さんの演技は心に残りました。
そして、もう一人心に残った方と言えば、今拓哉さんですね。 今さんに惹かれて観劇したわけですから、まあ、こういう感想かとも思いますが、時には期待はずれだったりもするので・・・

マーストン役と聞いて、「最初に死んでしまう!」と悲しい気持ちになっていました。原作を何度も読んでいるから、また、今さんがなさった役だからということもあるのですが、このマーストンというのはとても重要な役なんですよね。 まあ、色男ですぐ若く美しい女に声をかける、道徳心のない軽い人物として書かれているわけですが、まあ、ここまでかっこいいなら許してしまえます。ロンバードとヴェラは最初からかなり意気投合していたようで、二人だけで舟に乗ってやってくるのです。マーストンは後からやってきますが、ヴェラをすぐに気に入ります。「10人のインディアン」の歌をロンバードがピアノで弾き語り始め、ヴェラも仲良く歌っているところに割り込んで入ってきて、歌います。そして、ヴェラが踊り始めると、マーストンが相手を務めます。ロンバードは寂しそうにピアノを弾き続けています。時々相手が男になっていたりと、とても楽しい雰囲気がここで出来上がっていました。今さんの笑顔が本当に光っていました。そして、マーストンは子供を二人ひき殺した罪を暴かれるわけですが、「あれは事故だった。運が悪かったんだよ、俺は」と言い切ります。他人が「運が悪かったのは子供たちでは?」と言われ、「まあ、そういうこともいえるな。」というような答えしかないのです。 レコードからの告発に皆が動揺し、「一刻も早くこの島から出よう」とパニックになっているのに、「俺はそうは思わない。犯人を捜してからだ。」と声高らかに言い放ち、ウィスキーを飲む。ちょっと咳き込んでそのまま死んでしまいます。 その様子を見ていた人は、「自殺」と考えます。が、こんな人間が自殺をするだろうか?と迷うわけです。殺人の始まりなのか、それとも偶然なのか。人々の心を不安に陥れるのは、今さんの演技、つまりマーストンの明るく、世界は自分のためにあるという態度に掛っているのです。今さんは、本当にそんな感じでマーストンとして生きていらっしゃったと思います。本当に印象的でした。
犯人は、人々の心理状態を先回りして読み取って、殺人の順番も決めているわけです。最初の意外な死、の効果は犯人にとっても、舞台の運びにとってもとても重要だと思います。 というわけで、短い出番か・・・、そして、何だか好きになれない役柄だなぁ、と思いつつ出かけたのですが、何だか今さんの演技力を思い知った舞台となりました。