わまのミュージカルな毎日

主にミュージカルの観劇記を綴っています。リスクマネージャーとしての提言も少しずつ書いています。

ユーリン・タウン

2004年02月10日 | 観劇記
04年2月10日マチネ公演を観劇。
日生劇場10列目下手より。

この作品のことは、オフ・ブロードウェイでかかっている頃から、劇評で知っていました。是非観てみたいと思う一方、日本での上演は難しそうな作品だとも思っていました。
上演が決まり、亜門さんの演出ということで、これは楽しみと思いましたが、キャストをみて、観るのやめようかナァと思ったのです。正直、皮肉っぽくて、笑いもあってという舞台ほどキャストの力が大きいというのは、何本も観ていて感じていました。亜門さんがキャスティングもなさっていたとしても、今までにも二度と観たくないという舞台もありましたし・・・
やや怖いもの見たさで観たわけですが、今は、もし時間が許せば、もう一回観たいナァと今は思っています。

今回は、あまりあらすじには踏み込まないで感想を書きたいと思います。というのが、私も大筋は知っていたのですが、こんな運びになってしまうの!!!というような結末ですので、もしこれからご覧になる方がいらっしゃると申し訳ないので。ただ、感想の中にどうしてもある程度のあらすじは入りますので、その辺りはご了承の上、お読み下さい。
舞台装置は、至って簡素。オケは舞台上手やや奥にあります。
音楽は、多岐にわたり、バラード、ゴスペル、ロックなどなど、楽しいナンバーがたくさんでした。
そして、ダンスもあるし、演劇的要素も充実していました。
キャストは、亜門さんらしく無茶苦茶ハードな香盤と動きに十分に応えているナァと思えました。
台詞を補う歌と言う訳ではないのですが、ここで歌うナァと予想できてしまうのがちょっと私としてはつまらなかったのです。私の好みは、こんな台詞や進行も歌っちゃうの!なので、その点からすると、話は奇抜ですが、ちょっとミュージカルとしての典型的な形を脱していないように思いました。
客席も舞台の一部として使われるので、通路側に座ると、すごく楽しいかもしれませんね。お客さんへのサービスではなく、そこも板の上ですから、間近で歌を聞くことが出来たり、自分も一員となって戦っているような気持ちになると思います。

私の一番のお気に入りの役は、悪徳商売人、クラッドウェル。節水のためにトイレの私的使用が禁止。公衆トイレしかないのだが、有料。しかも高い!そのトイレを経営している社長がクラッドウェル。金と権力の亡者。自分のやっていることが正しいと信じているのです。お金で議員を動かし、高い料金をさらに値上げするは、娘を見捨てても自分が助かろうとするは、もう極悪非道。最後はちょっとかわいそうなのだけれど、ここまで好きに生きてのなら悔いないだろうナァと思います。
この役を演じたのは藤木孝さん。舞台で悪役を演じるなら、これ位悪い人になって欲しいと思う以上の悪役ぶり。早台詞もスパスパ言い捨て、役柄の行動力の素晴らしさをものすごく感じさせて下さいます。歌うときに声の伸びが・・・と思うこともありましたが、台詞と歌の声が変わらないので、歌うぞ!と観客が身構えることがなく、あれ、歌になっていたのねという感じでした。本当に、悪役に魅力があると舞台が楽しいですよね。

この作品の主役は、別所哲也さんなのかな?革命を主導するボビー。テレビ・ドラマですごい悪役をやったことがあって、そのときからのファンでした。が、テレビでいいナァと思う俳優さんで、舞台もいいナァと思う方はとても少ないというのが、私の今までの経験。別所さんは、衣装はボロボロ。何しろトイレ管理人の助手ですから。でも、カッコイイ。身長もあるし、革命を指揮するにはもってこいの俳優さんですよね。でも、歌い出しのときに、台詞とかなり声が変わってしまうのです。高揚していく気持ちがちょっとそがれるようでした。

他のキャストの方も、それぞれとても個性的でした。
とんでもないことをやらかす老人をなさった安崎求さん。なんとも言えない雰囲気で笑いを、そして涙を誘って下さいました。
瞬間湯沸器のようなハリーを演じる杉崎政宏さんは、とてもとてもかっこよく、過激なことを言っても許してしまいたくなりました。藤木さんと同様、極端な役柄を突き詰めているので、その登場の場面がありえるはずがないこと(あってほしくないこと)が起こっている場面がとてもリアルに感じられると思いました。

さて、ここで南原清隆さんについて正直な思いを書いてみたいと思います。作品内容にも踏み込みますので、ご了承の上お読み下さい。
正直、客寄せパンダ???と思うキャストでした。そして、ミュージカル・ファンをこの作品から遠ざけてしまうと思いました。
が、今は南原さんの努力もあったと思いますが、キャスティングした方に心からの拍手を送りたいと思います。
この作品は、観ている間は楽しく笑ったり、ちょっと涙したり、苦笑したりできます。が、はっきりいって何の救いもありません。途中明るいと思えても、最後は明るい部分は一つもなく締めくくられます。問題提起をしておしまいです。(そのあたりが「太平洋序曲」にとても似ています。)そういう作品には、南原さんのような明るいキャラクターが必要だったんだと思いました。また、ナレーターのような役割もあり、作品というよりも、ミュージカルいろはを説明したりします。この時にこの作品が他のミュージカルとは視点が違うことを感じられます。また、あまりどっぷりと作品につかると悲しいので、ある意味冷静に舞台を観ることを観客に教えてくれるのです。
歌はやはりかなりの難点がありますが、あまり歌うというところはありません。それに、他のキャストの歌が素晴らしいので、そんなに気になりませんでした。ダンスは素晴らしいし、舞台上での姿勢の良さにとても好感が持てました。
役も一応あって、進行役もやるというのは、とても難しいと思います。その難役をこなされた南原さんに心からの熱い拍手を贈らせていただきたいと思います。

私としては、とても楽しい観劇時間を過ごしました。が、こういう作品が受け入れられる土壌が日本にあるのかナァ?と少々心配です。ただの一ファンが本当に余計なお世話だとは思うのですが、2003年ミュージカル・ベストテン(月刊ミュージカル)の順位や、講評を読んでいるとどうかナァと思ってしまうのです。
私は、ミュージカルもストレートも歌舞伎も何でも観るし、聴きます。が、それぞれの分野に求めているものが違うような気もするのです。ストレートならリアリズム、自己啓発。ミュージカルなら楽しさや珍事。歌舞伎には華やかさや歴史の重みを。
しかしながら、最近は作品自体も融合したり、他分野のいいとこ取りもあります。しかし、ファンは結構自分の好きな分野からはみ出していかない感じがあります。そして、何と言ってもミュージカルが不利なのは料金が高いことにあります。私などは、当たり前と思っている、ときには、安いと思う料金でも、ミュージカルに興味のない人にとっては、とてつもなく「高い」のです。
「ユーリン・タウン」は舞台の出来とか、キャストの好みとか、いろいろのことを飛び越えて、是非観て頂きたい作品だと思います。ミュージカルだからこそ、ここまでばかばかしい内容なのに、地球規模の、全人類の問題でもあると気づかせてくれるのだと思います。しかし、ミュージカルが好きな人にはちょっと終わり方が暗いのです。どちらか言うと、ストレートが好きな人好みだと思います。となると、料金が高い。
プログラムに「ユーリンタウン誕生秘話」が載っていて、じっくり読んだのですが、NYというかアメリカの舞台、特にオン・ブロードウェイの作品が質が高くなるわけがとてもよくわかりました。日本みたいに、話題先行で、大枚叩いたらがっかりでもう舞台は観ない、なんてことないわけですよ。
確かに、この作品を日本で上演したことへの勇気を高く評価しますし、観る機会を与えて下さったことを心から感謝したいと思います。でも、どんな客層に観て欲しいのかを考えた値段設定も大切だと思いました。(この作品に限ったことではありませんが。)あのキャストのエネルギーと作品の皮肉を、満席の観客で包み込んで差し上げたいと思いました。
つまり、この日は空席が・・・

ちょっと堅い話になりましたので、「ユーリン・タウン」にまつわる話を一つ。
「有料トイレ」は存在します。日本にもいくつかありますが、無人のチップ置き場ですから、素通りごめんです。ただ、ヨーロッパのいくつかの国ではそうは行きません。
ちょっと前のことですが、私は夫と二人でスイスに行きました。夫と二人ということは、トイレは別々に行かなければなりません。公共トイレは有料なので、できる限りレストランやホテルで用をたしていました。しかし、ある登山列車の乗り換えの合間に有料公共トイレに行くことになりました。スイスのトイレは、コインを入れると鍵がかかるという方式でした。観光客はコインをなるべく持たないようにしますから、当然私達も少ししか持っていませんでした。やっと二人分用意して、時間もあまりないのでそれぞれの場所へ。
手順には慣れているつもりだったのですが、コインを入れたのに、鍵が回らないのです。焦った私は(多分焦らなくても同じ行動したと思いますが)、トイレのドアを思い切り蹴りました。「チャリ~~~ン」。回収箱にコインが落ちたいい音がしました。しかし、鍵は閉まっていないのです。あまり人がいないのが幸いか、不幸か、鍵のしまらないトイレとはこんなに不安なものかと思いました。掃除のおばちゃんならまだしも、ときにおじさま?いうことにも遭遇していたので、祈るように気持ちでした。
そのときの教訓。「スイスの旅は同性と」

オバラ座の怪人二十面相

2004年02月02日 | 観劇記
04年2月2日マチネ公演を観劇。
本多劇場、H列センター。

この作品は、今さんがご出演、という理由で行ってみる事にしていました。普通なら、それだけではなく共演者や作品内容も考慮に入れるのですが、今さんはこの先一年「エリザベート」のエルマーを演じられるようなので、別の役をここで観ておきたいと思ったのです。「ミステリー・ミュージカル・コメディ」と銘打っているので、気楽に観ればいいんだなと思いました。その上、私自身ちょっとバタバタしたので、自分でも驚くほど何の事前情報なしに出かけたのです。さらに劇場についたのもぎりぎり。

あらすじは、ちょっと複雑なのでごくごく簡単に。

題名からわかるように、怪人二十面相(今拓哉さん)が盗みをして、それを明智小五郎(斎藤晴彦さん)が解決するという構図があり、それに緑川夫人こと黒蜥蜴(ローリーさん)や小南(松田洋治さん)、花崎マユミ(絵麻緒ゆうさん)が絡んでいます。
そして、事件がオバラ座で起きたり、花崎マユミが女優であることから、オバラ座の舞台が劇中劇として繰り広げられるのです。

あまりにも登場人物が多く、すべてがパロディなので、何のパロディなのかわからない部分もありました。が、劇中劇は本当に楽しませてもらいました。
全体で3時間15分ほど。途中だれてしまう進行もあり、もう少しまとめて3時間を切るような舞台になったら、もっと面白かったのではと思いました。

あまりにも情報がなく行ったので、舞台でよく拝見している大須賀ひできさんや西村直人さんが登場した時に、すぐにわからないし、絵麻緒ゆうさんが出るんだったんだ、と何だかいろいろ驚きながら観ていました。

今さんは、ほんの数日前まで博多座にいらしたので、多分そんなに登場する役ではないだろうと予想していました。その通りで、もう少し歌って欲しいナァと思いましたが、怪人の高笑いがとても素敵でした。

劇中劇のミュージカル・パロディはとても面白い試みでした。
替え歌なんですが、なぜか、元歌の感情もちゃんとこもっているのです。全部紹介したいと思いつつ、記憶があやふやです。順番もあっていないかもしれないし、ぬけているものもあるかもしれません。
「キャッツ」の「メモリー」。三木さつきさんが歌われました。いつまで続けているの?といったような内容なんですが、三木さんの素晴らしい歌声が旋律の美しさを引き立たせていました。
「キャバレー」の「ウェルカム」。大須賀ひできさん。MCの衣装は衝撃的でしたが(笑)、歌声は相変わらず甘く、優しかったです。
「サタデー・ナイト・フィーバー」の同じ題の歌。西村直人さん。千葉が一番、という内容に。地名が一杯出てくる千葉県から感謝状が来そうな歌詞でした。勿論歌いながら踊ります。「SNF」とは縁の深い西村さんですし、ダンスは素晴らしいし、もう楽しい楽しい場面でした。
「屋根の上のバイオリン弾き」の「しきたり」。ほぼ全員で。日本の舞台には伝統があるという内容になっていました。楽屋の部屋割り、挨拶、のれんなどなど。大笑いでした。
「レ・ミゼラブル」が数曲続きます。
まず「オン・マイ・オウン」。絵麻緒ゆうさん。内容が元歌の逆。ひとりではなく二人を嘆くという設定によく考えるナァと唸ってしまいました。そして、その二人というのが「Wキャスト」への不満と来ていますから苦笑です。
楽屋は一人部屋だけど二人で使う。比べられるけど、顔を合わせれば違う話をして仲良くする。ライバル意識を感じてしまうのが本音。と歌います。
全然逆の内容でも、思いは切ないという共通点からか、とてもしみじみ聞いてしまいました。
続いてオープニングの「下向け目をあわすな・・・」の替え歌。
ほぼ全員で、舞台中央に円を作り、ぐるぐる回っています。
オーディションでやっと出られた、でも照明が暗くて誰が誰だかわからない(ここですごく暗くなる)。何役もやらされる。盆が回ってばかりで目が回る。などなど、思わずこれが本音かぁ?とクスクス。
そして、斎藤さんが、「総入れ歯、いや、総入れ替えと言う話は確かにあった。しかし、数人の精鋭は残った。あれが『レミゼ』の永久歯か」とも。
まあ、今さんへのあてつけではないのですが、斎藤さん、大須賀さんそして西村さんも総入れ替えに合ってしまったわけで、やはりやりきれないお気持ちがないとは言えないのかナァと感じました。
「対決」を斎藤さんと西村さんが。
内容は、西村さんが客席にいて携帯電話を鳴らしてしまうのです。それをとがめる斎藤さん。電話番号が「24653」。西村さんは「デートの約束。緊急事態。」と。斎藤さんは「許さない」という感じです。

どの歌も、歌詞は笑ってしまうのですが、さすがに元歌を知り尽くしているキャストにかかると、パロディもその深みが増して、笑い飛ばすだけではなくて、元歌の素晴らしさを思い出してしまうのでした。
そして、総入れ替えの意味を、その結果をいろいろと考えてしまう私でした。

仁義なき戦いという和物に、クラシックの楽曲をつけ、さらにそれに歌詞を付けた劇中劇もありました。なかなか楽しかったです。それだけで、ひとつの舞台になりそうでした。

ほかにもいろいろ楽しい場面はあったのですが、プログラムが完売で、あやふやな記憶を呼び起こすことが難しそうなのです。

今さんお目当てでしたが、思いもかけない出会い、楽しい舞台。やはり、いろいろ出かけてみなくては!と思いました。