江戸の闇太郎

2023-09-21 03:38:53 | 美空ひばり
美空ひばり 



月に一声 ちょいとほととぎす
声はすれども 姿は見えぬ
おれも忍びの 夜働き
どっかり抱えた 千両箱
こいつァ宵から 縁起がいいわい
ヘンおいらは黒頭巾
花のお江戸の 闇太郎

風に稲穂は あたまをさげる
人は小判に あたまをさげる
えばる大名を おどかして
さらう小判は 涙金
おつな商売 やめられましょうか
ヘンおいらは黒頭巾
花のお江戸の 闇太郎

江戸の盛り場 猿若町に
ひいき役者の 幟があがる
あだな笑くぼに 雪の肌
女泣かせの 雪之丞
こいつァ今夜も
行かざぁなるめえな
ヘンおいらは黒頭巾
花の お江戸の闇太郎




 
西條八十の詞は、闇太郎にふさわしく、江戸っ子口調と庶民的な言葉遊びを使います。
 
「月に一声ちょいとほととぎす/声はすれども姿は見えぬ」
 
 
ほととぎす鳴きつるかたをながむればただ有明の月ぞのこれる
 
 
「百人一首」の後徳大寺左大臣の歌(『千載集』)以来、月にほととぎす、一声鳴いても姿は見えぬ、というのはほととぎすの定型イメージ。

ついでに挙げれば、月にほととぎすをあしらった「沓手鳥孤城落月(ほととぎすこじょうのらくげつ)」は大坂落城を描いた坪内逍遥の新作歌舞伎の題。
 
そのほととぎすの姿を見せぬ様を和歌でいう序詞のように使って、闇に紛れて姿を見せぬ自分の忍び仕事の「夜働き」へとつなぎます。
 
「こいつは宵から縁起がいいわい」は河竹黙阿弥作の歌舞伎「三人吉三廓初買(さんにんきちさくるわのはつかひ)」でお馴染み、

お嬢吉三の名台詞「こいつは春から縁起がいいわい」のもじり。

雪之丞が役者なので、闇太郎も少し芝居がかるわけです。
 
最後は、芝居がかったその勢いで、「ヘンおいらは黒頭巾/花のお江戸の闇太郎」、ちょいと気取って名乗りを挙げます。

「ヘン」は名乗りの前の咳払いみたいなもの。

得意げに威張った「エッヘン」の「ヘン」と受け取ってもよいでしょうし、「てやんでえ」みたいな啖呵の前置きと受け取ってもよいでしょう。

弁天小僧なら「知らざあ言って聞かせやしょう」とくるところです。
 
 二番の歌詞「風に稲穂はあたまを下げる」は、偉くなればなるほど世間への感謝を忘れず謙虚になるべきだという意味の俗諺「実るほど頭を下げる稲穂かな」。

「頭を垂れる」「頭の下がる」などともいう)をもじってやっぱり序詞みたいに使い、現実には人は小判に頭を下げるが、この俺は金と権力を握って

ふんぞり返る大名どもから千両箱を盗んで庶民に分けてやるのだ、俺が盗んで配る小判なんぞは奴らが貧乏人に施すべき当然の「涙金(同情の施しとして与える

わずかな金銭)」にすぎない、と義賊の心意気を歌います。

義賊とは、いわば、不合理な「格差社会」に抗議して「富の再分配」を個人で強行実践する者のことです。
 
三番で雪之丞の名を出して歌い収めるあたりもうまいもの。

浅草の猿若町は芝居小屋が集まっていた盛り場。「女泣かせの雪之丞」は単に雪之丞が女性観客を熱狂させたというだけでなく、「雪之丞変化」の物語と

深くかかわっているのです。

この曲もまた、芝居っ気があって、胸のすくように痛快で、なんとも気持ちのいい歌ですね。






























































































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