故郷(ふるさと)への長い道/スター・トレック4 (1986)
原題; STAR TREK IV: THE VOYAGE HOME
邦題; スター・トレック4/ 故郷への長い道
119分
監督: レナード・ニモイ
原作: ジーン・ロッデンベリー
原案: ハーヴ・ベネット、 レナード・ニモイ
脚本: ハーヴ・ベネット
出演:
ウィリアム・シャトナー ジェームズ・T・カーク提督
レナード・ニモイ ミスター・スポック
デフォレスト・ケリー ドクター・マッコイ
ジェームズ・ドゥーアン モンゴメリー・スコット
ジョージ・タケ スールー
ニシェル・ニコルス ウフーラ
ウォルター・コーニッグ パーヴェル・チェコフ
キャサリン・ヒックス ドクター・ジリアン・テイラー
マーク・レナード サレク大使
ロビン・カーティ サーヴィック
ロバート・エレンスタイン 連邦評議会議長
ジョン・シャック クリンゴン大使
ブロック・ピータース カートライト提督
マイケル・ベリーマン
ジェーン・ワイアット アマンダ
マイケル・シュナイダー
突如地球を襲った謎の生命体。彼等の発する言語とコンタクトの取れる生物が、死滅したクジラだけと知ったカーク達はクジラの生存した時代、1986年のロスへタイム・トラベルを決行。良くも悪くもTVシリーズの影響の色濃かった前3作と打って変わって、戦闘らしい戦闘も無くコメディ・タッチをベースにした造りが効を奏したのか、トレッキーだけでなく誰にでも楽しめるという意味では映画版の中でも一番の出来となった。「2」「3」「4」は完全に時間の経緯が続きの作りになっているので注意のほどを。
上が映画データベースの記述である。 オランダ民放テレビ局の深夜番組として観た。 間のコマーシャルには近年の作も近々再度放映されるとのことで何週間かこのシリーズを連続して放映している中の一作なのだろう。 スターウォーズにもスタートレックにもさしたる興味もなく初期の作はいくつか見たというだけで周りにいる熱の入ったファンが話すのをそんなものかと思いながら過ごしてきた。 SFやファンタジーのジャンルで、例えばロードオブリングズやハリーポッターにいたる一連の作にも力を入れて見る事ができないのは多分自分には想像力が欠如しているからだろう。 だからそのようなものベースにしたコンピューターゲームにも皆目興味が無い。 それでここに書くのはそういう質の定年親父が呟くものであるから多くの読者にはこれはピントの外れたものとして映るものだろうと看做している。
それでも本作を見たのは舞台が1980年代のカリフォルニアであることとミスター・スポックことレナード・ニモイが監督していることに興味が惹かれたからだ。 1986年というのは自分が今の仕事を始めた年でそのときのカリフォルニアにワープしてそこを舞台にするのはこの手の映画としては現実的ではあるし妙な舞台装置をみることもなくかつ制作費としては安くつく。 それに妙な生物や退屈な電子ビーム銃などの撃ち合いもなくアクションものをあまり好まないものには観ていて「居心地」のいいものだった。 作中オフィスで使われているアップルコンピューターの小型でサイコロのようなモデルが見えて懐かしく思った。 それは海外で日本語を比較的楽につかえる機種だったから使っていたもので、作中それを使って初期のCGを画面に示したものは今ではとるに足りない稚拙なものとして映っているけれど当時としては最先端であったことも思い出し、それは話の筋とはまったく違うもののけれど見ている自分には2013年から1986年にワープしたような感じにもなるのだ。 ただこのような話の常でワープしたのだから経済が当時に比べて現在どのようになるかということには全く示されていないのはSFなりこの手の話が簡便さを求めた結果の所謂「科学の進歩」のみに集中しがちだからだ。 ひょっとして彼らには経済には進歩がないと薄々感じているのではないかと邪推もしないではない。 地球の歴史の中で起こってきた戦争の理由として経済はかかすことのできない理由であるのだが宇宙戦争、異次元での抗争の理由は何なのだろうか、入っていけない自分には分からない。
鯨を守れキャンペーンは当時から興味のあるテーマではあり、本作中のドクター・ジリアン・テイラーの設定が当然予想できるような画一的なものであり面白かった。 当時フィットネス・タイツにハイレグの靴下、鉢巻姿の歌手、オーストラリア出身の歌手オリビア・グリース・ニュートンジョンが日本が捕鯨国だからという理由で公演をキャンセルしたことがあったことも思い出し、SFに関係すれば一寸前にシリーズで放映されていた「ヒーロー」の主演少女俳優が和歌山の捕鯨漁港で撮られオスカーも取った反捕鯨ドキュメントに出ていたことも思い出す。 だから本作では「悪役」の捕鯨漁師にカリフォルニア在住の二世・三世の日系俳優が意味の通じない妙な日本語を話しながら鯨を追いかける姿が現れるのかと少々うんざりしながら待っていたのだがそうとはならず人相の悪いいかにも安物の悪漢というコケイジアン連中がサビのでた怪しい漁船で旧式の銛を構えて鯨を追いかけるという稚拙な画像が登場してそれにも笑ったのだったが怪しい漁船というのだったらジョーズのロバート・ショウ演ずる船長の漁船を懐かしさをもって思い出すことができる。
レナード・ニモイ演じるミスター・スポックはシリーズで欠かせる事のできないキャラクターだそうだ。 バルカン星人の父と地球人の母との間に生まれ感情がなくコンピューター同様のロジックで物事を判断しそのようなバルカン人の性格と人間のもつ感情との葛藤が好ましく思われているようで、カーク船長や特に医師でもあるドクター・マッコイにはもっと感情を表し人間的になれるよう働きかけられているように見える。 それはあたかもナードやヒキコモリ、ある種の高機能自閉症に対するまなざしに似ているように思える。
そういえば卑語俗語が本作の中では少なかったことに思いが行ったのは「現在」の1986年のロスアンジェルスの街角、ドクター・ジリアン・テイラーからさえも出てくる俗語、卑語の類を聞いたときでそれはまさに宇宙の無音から俗社会の騒音と同様に現実感をもたらすものだった。 この手の宇宙ものでの会話は理論的で書き言葉のような言葉になっているのは似非理系のファンタジー作品であるから、それは俗を厭う人たちに向けての御伽噺として意図されているからだろうと愚考するがどうだろうか。