Brad Mehldau Trio at BIM Huis 12-11-05 BIM Huis, Amsterdam
1週間前には席が売り切れの盛況で客席の顔ぶれを見ると通常のBIM Huisの客層より幾分、若い層が、それに加えて女性が多く見られた。 このコンサートに先立って次のCDを聴いた。
Brad Mehldaw, Day Is Done, nonesuch 7559-79910-2
Larry Grenadier (b)
Jeff Ballard (ds)
1)Knives Out
2)Alfie
3)Martha My Dear
4)Day Is Done
5)Artis
6)Turtle Town
7)She's Leaving Home
8)Granada
9)50 Ways To Leave Your Lover
10)No Moon At All
Program
1)Days Is Done
2)Turtle Town
3)You Do Something To Me
4)Folks Who Live On The Hill
5)All The Things You Are
2nd Set
1)Granada
2)?
3)Monk's Dream
4)The Touch Of Your Lips
5)She's Leaving Home
Encore
1)Knives Out
2)??
最初とアンコールの曲にCDの中でも特に力が入っているようなものが選ばれていると感じた。 CDの演奏に比較してこの日の演奏は多少の長さがくわわり、それはピアノソロの長さであるが、よりこなれたフレーズが聴かれた。 リズムセクションのパターンはCDの中ではKnives Outのドラムが変拍子というかアクセントをずらして変化をつけていて聴くものの耳を誘うのだがこの曲を除いてはとりたてて言うこともないのだが、私のこの日の期待はドラムがどの程度、CDで披露した変拍子のパターンを見せてくれるか、であったのにもかかわらず、概ね4ビートをくりひろげ、CDでの8ビートはなりを潜めていたものの単調なものだった。
コンサートのあとBallardにこのことを質すと、レコーデイングのテンションとコンサートではテンションが違う上、ここのスペースでの全体の響きからこのようになったので、特にリズムの指示はMehldauからは出ていないとのことであったが、私にはこの答えは少々承服しかねた。 CDのなかではKnives Outはほかに比べてリズムのテンションもパターンも違う。他の曲での8ビートが出なかったことにも意図があるのかとの質問にも答えは同じ、その場で自然に流れてくるリズムを叩いているだけだ、というのにも納得できなかった。 何回もリハーサルをやり、録音も済ませ、演奏旅行を続けていく中で基本のパターンなり変奏の幅はできあがっているはずなのだ。 もしそうならアンコールでこの曲を選んだときにこのリズムパターンが出ないというのは別の意図があったと詮索されてもしかたがない。
ピアノはどの曲にしてもじっくり時間をとり、自分の曲想を開陳してそれから徐々にそれを展開、変奏するのだけれど、ここではトリオでの他の楽器とのインタープレーはほぼ見られない。 圧倒的にピアノ中心ですべて耳がピアノに向かうよう構成されているのだ。 だから、リズムパターンもピアノをたてる方向のベクトルだけしか存在しない。 だから、スタイルは当然違うにしてもアーマッド・ジャマルを彷彿とさせるのだ、奇妙なことに。 そういう意味ではそれぞれの曲でそれぞれ違ったピアノの技法を見せ、例えば2)でも4)でも中庸リズムで何コーラスかあとで徐々にコードを崩しフリージャズのピアノパターンに持っていくかのそぶりを見せるものの本気で探求のパターンにはいるとは思えなく、あくまでファッションとしか思えないぐらいの表面的なものであり、4)ではモンクのフレーズを出してくるがモンクの重みはなく甘さが漂う。
休憩中会場のCD売り場で ソロピアノ ライブイントーキョーを買って後日3曲目まで聴いたのだが、この人の未来はソロ・ピアニストのように思えた。 彼の内向にはリズムセクションは不要のように思う。
理由はなにか分からないが、この人、ピアノトリオの村上春樹だなあ、とつぶやいたのだ。