暇つぶし日記

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手作りソーセージ講習会(上)

2018年02月25日 16時12分08秒 | 喰う

 

2018年 2月 20日 (火)

 

大学は定年で退職したけれどその職員共済組合にはまだ入っていて毎年恒例のクリスマス・ディナー講習会には参加している。 今回地元の優良精肉店が主催するソーセージ作り講習会の呼びかけがあったのでそれに息子と二人参加した。 行く前には気分が乗らなかった。 それはもう10年以上前にドイツで宿をとったときにその隣が肉屋でソーセージを作る作業場から流れて来る吐き気を催す匂いがトラウマとなっていたからでもあるし大体どのように作るのか分かっていてそれに魅力を感じないからでもあった。

その前日家人はその肉屋で求めたステーキ肉を焼いて食前に上げた。 スーパーの最上級の肉より1割ほど値段が上だが味は比較にならないほど美味い。 3週間に一度ほどはここの肉を喰う。 この日まだ30代に見えるこの日の講師、この肉屋の主人に訊くと近郊の農家と特約して育てたものでして精肉の塊にしてから7週間寝かしてから店頭に出すのだそうだ。 初めて入った店内は清潔で広く我々はこの講習の途中何度も手を洗うことになる。 今まであちこちで経験した肉屋の中で最も清潔な作業場である。

ソーセージは豚肉で作る。 欧米でどこの国でも肉の消費量で一番多いのが豚肉だ。 目の前に場で処理されて半身に切られた豚が寝転んでいた。 内臓と頭、尻尾を取られ半身になったものは40kgあり、元は88kgだったものだと肉屋は肌に押された幾つもの検印スタンプを見ながら話す。 ベルギーの養豚農家と特約していてそこでは交配を重ねて納得のいく肉種を求めた結果がこのようになっているのだそうだ。 1年ぐらい経ったものかと思ったのが生後半年だと聞き驚いた。 更に驚いたのは普通スーパーに出回るのは生後3か月で120kgほどまでに成長したものまであるということだ。 時は金なりの論理もここまで押し進められ、速く重く作られた肉が市場に出回り、その結果、味は後回しにされ、そんな肉を焼いてみると水分ばかりが出て後はパルプのように味気ない硬い肉が残るという結果にもなる。 当然部位により肉質の違いがあるにせよ概ねそのようなもので、それに満足できない農家が味を求めて長い時間をかけても小ぶりの豚を飼育するのだからその結果が味になっても値段の方も1割から2割高くなるのは当然のこととなり、それは味でカバーできるとしたら1割、2割が決して無茶に高いものではないというのは理解できることだろう。 生鮮食料品の価格競争の中にあってこのようなメカニズムを説明されればそれは今の経済社会の中のどこのセクターにもいえ、ここでもそれが例外でないことが理解できる。 結局は安ければそれでいいとするか味をとるかが分け目になる。 

肉屋の父親はこの町がまだ村だったころから牛を自分の牛舎で交配していてそれを育てて自分で・解体して店に出していたけれど時代が変わり食品衛生法等も変わり分業が進み精肉だけの店になったのだという。 それを見てきたこどもたちが跡を継ぐ段になり店に並べる製品を自分たちで吟味しマスプロダクションに少なくとも対抗する意識をもって日頃様々なワークショップを主催し広報に努めておりこの日もその活動の一環だというのだ。

そんなことを話しながら肉屋は淡々と半身を解体していく。 刃が細い肉切り包丁と鋸をつかって大きな塊に分けていくのだが作業は淡々と力も入れず滑らかに塊が外れていくように見える。 鋸にしても4,5回挽くぐらいで力も入っていないが関節の部位を見分けてそこに刃をあてるだけなのだろうが見ていて気持ちがいい。 この日ソーセージに使われる部位は喉から肩の上部だけで我々が主に見たのは普通豚肉としてさまざまな名前で店頭に並ぶ部位を塊にする作業だった。 これからするとソーセージというのは豚肉では比較的重要ではない部位を使った製品だということだ。 赤身が重要なのはいうまでもないがそれに倍する脂身が肝心でここに育てられたものが凝縮しているのだと言う。 

ここまできてよっぽど肉に近づかなければ匂わないことに気付いた。 それも獣の匂いは一切なく、清潔な作業場を洗浄する化学石鹸剤の匂いもこの空間には一切なかった。 後ほど家人が娘のころ肉屋の営業後洗浄するアルバイトをしたときのことを聞いたが肉屋と言うのはよっぽど念を入れて作業場を綺麗にしないと必ずどこかで匂ってくるからこのような匂いがついていない洗剤を使う肉屋はそのこと自体で作業場を清潔に保っている優良店の証なのだそうだ。 長年昔ドイツでトラウマになっていた臭いソーセージ作業場の呪いがこの日解けたような気がした。 



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