暇つぶし日記

思いつくままに記してみよう

残念な料理

2019年04月25日 01時58分43秒 | 喰う

 

先日オランダ国王が皇太子の時から住んでいてこの間ハウステンボス宮が改修されそこに引っ越すまで住んでいた森を歩いたことをここに書いた。 そのとき昼食に寄った森の中で摂った料理のことをここに記す。 今までこの38年間オランダではいろいろなところで色々なものを喰ってきたけれどそれぞれその料理にはそれなりに満足していたのだがここに来てどうにも残念な料理に行き当たったからそれについて記そうと思った次第だ。

森での散歩であり、小さな茶店であり、休日には家族連れでにぎわうのだからどこでもあるオランダの代表的な食い物、チーズとベーコンのパンケーキでもと思って入ったのだがメニューにはパンケーキはない。 妙だなと思っていると殆どがサンドイッチのバリエーションである。 自分は昔の百姓家で育ったから朝は必ず炊き立ての飯に味噌汁と決まっており弁当の時代は仕方がなかったものの成人してからは昼食、夕食と暖かいものが欲しく仮令貧しいカップラーメンでも暖かいから喰っていた。 だからオランダに来ても未だに出来るだけそういうようにしたいのだが朝食は熱いコーヒーか紅茶でトーストである。 オランダの伝統的な百姓の食生活は昼に暖かいものをどかっと腹に入れる。 だから昼食がいわばディナーであり、朝食、夕食はミルクか紅茶でハムやチーズを挟んだものでぼそぼそと済ませる。 自分はこれには耐えられない。 殊に冬の寒い夜にそのようなぼそぼそと喰う簡素な食餌には耐えられない。 尤もこの夕食の簡素な「冷たい」食事というのは流石に今の時代にはなく、そんなこともあったというようなことを知る若者も少なくなっていて何処も同じく夕食は大抵は暖かいものを摂る。

茶店のメニューを眺めていて暖かいものはスープぐらいしかなく、そこに一つ、「猟師の鍋」というものがあった。 猟師が射止めた鹿肉を鍋で煮たものだ。 それに簡単なサラダと梨の煮もの、黒パンがそえられているというのでそれにした。

ヨーロッパのあちこちでこのメニューがあれば喰う。 どこも同じような調理法であって大概梨の煮ものがついている。 古今の経験上これが合うということだろう。 実際何年もクリスマスの前になるとクリスマスティナーの為の料理講習会が開かれそこでは鹿の肉を主菜として使われることがよくあり、ここにもそれを書いたこともある。 最近は鹿の背肉のステーキだった。 それに鹿の頬の部分を低温で12時間ほど湯燗をしたものも添えられて何とも柔らかい感触と美味かったことを覚えている。 そこでも添え物としてこの梨の煮たものがあった。

けれどここでは猟師の昔からあるレシピーの、鍋でことこと煮たものがこのメニューである。 鹿肉の一切れを口に入れた。 すると噛んだ感触は硬く、レバーのような血の味がした。 梨を噛むとこれまた硬く、硬いのはいいけれどクローブやシナモンの味、香りがほとんどない。 明らかに煮込み不足だ。 特に鹿肉は多分1時間も煮ていないのだはないか。 普通自宅では肉の煮込みには少なくとも弱火で3時間は煮る。 だからどちらにしても仮令香草や香辛料を加えていたとしてもその味がまだ沁み込んでいないのだ。 トイレに行った家人がいうのにはここにはキッチンがない、とのことだった。 つまりこのような肉や梨は卸業者からプラスチックの袋に入ったものを飾りの小さな鍋に入れて電子レンジで温めただけなのだ。 自分で味を確かめずに客にこのように供するのは料理に無知かちゃんとパッケージの指示を読まなかったからなのだろう。 これを鹿肉をあと2時間煮込んでいればちゃんとした味になるし、梨にしても煮込むかシナモンシロップを振りかけてごまかすぐらいの知恵があっても良さそうなのだがそんなことに斟酌しない店なのだ。 つまりまともな料理人がいないということだ。 材料は間違っていないのに調理が不完全だからこういうことになる。 二口ぐらい肉を口にしてそのままにしてその茶店をでた。 もうここに来ることはないだろう。 あと半年弱で自分はこの世から消えるけれど、たとえそれから長く生きられたとしてももうここに来てこのメニューを注文することはない。 残念なことだ。



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