e-note 2005

どうも、ぽんすけです。メモ帳代わりに軽くやらせてもらいます、嘘だけはつかないように・・・

脳はなにかと言い訳する

2007年02月22日 22時50分17秒 | 
池谷裕二著『脳はなにかと言い訳する』(祥伝社)読み終える。忙しかったのでまとめて読み続けることができず、なんか多少チグハグ感もあって残念だ。

本文からの抜粋
● 進化の話をするとき、ヒトは楽しいとかユーモアというポジティブな感情があるけれども下等な動物にはなさそうだから、だからヒトの方が高等だと考える人がいます。(中略)むしろ、楽しいという感情が、ヒトやサルなど比較的高等な哺乳類にしかないとしたら、楽しいという感情は動物にとって、あまり重要ではないのだろうと考えます。
● 体があって初めて脳が存在するのです。(中略)脳は、すべて乗り物である体を通じて初めて、外部と接することができます。つまり脳にとっては「体」こそが環境であって、それ以上でも以下でもありません。私たちは、ともすると脳の価値を体よりも上位に置きがちですが、脳などなくても十分に生きていける原始動物を見れば分かります、体あっての脳なのです。「手を動かす」から、「手を動かすための脳部位」ができるのであって、手に指令を送る脳部位があってそれで手が動くわけではありません。
● 脳もまさにそんな入り組んだ非効率な構造をしています。しばしば「生物は効率的で、すべての構造や機能にはなんらかの合理的な意味があるのだ」などという、まるで幻想めいたことが言われますが、これはダーウィニズムの悪影響です。「自然淘汰で勝ち残ってきたからには、私たちはさぞかし素晴らしい生物に違いない」という思い込みがいまだに根強いような気がしています。
● 遺伝子には「遺伝子多型」と呼ばれるものがあります。同じ動きをする遺伝子であっても、その遺伝子のDNA配列が少しだけ人によって違っているので、分子のはたらきの効率が違ったりします。たとえば、アルコールに強い人や弱い人などは遺伝子多型の典型例で、これはアセドアルデヒドを分解するアルデヒドヒドロゲナーゼという酵素の活性効率が人によって違うのです。
● 2005年秋、某化粧品会社は赤色の反射を活用したファンデーションを発表した。赤い光は肌の奥まで届くので表面の情報を拾いにくい。結果としてシワや毛穴が見えにくくなるという。
● 鳥や哺乳類が持っている色素はメラニン、つまり橙や黒色系だけです。その他のあざやかな色は、すべて表面構造による光の微妙な反射によって繊細に作られているのです。
● 人間にそもそも自由意志はあるのか、ということ。(中略)ヒルの体を触ると逃げますが、その逃げ方に2通りあります。(中略)神経細胞には、電気活動としての「ゆらぎ」があります。神経の細胞膜の電気がノイズとして特に理由なく「ゆらぐ」のです。空中の風と同じで、明確な原因があるというわけではなく、システムというのは、そこに存在するだけでゆらいでいます。つまり、神経細胞の膜の電気が、たくさん溜まってるときと、少ないときがあるわけです。そして分かったことはこうだったのです。細胞膜の電気がたくさん溜まっているときに、刺激がくると泳いで逃げる。逆に溜まっていないときに刺激がくると、今度は別の行動、つまり這って逃げたのです。実にそれだけのことなのです。〈自由意志〉、〈選択〉をとことん突き詰めていくと要は「ゆらぎが決めていた」にすぎなかったのです。刺激がきたときに、たまたま神経細胞がどんな状態だったかによって行動が決まってくるわけです。
● 「ハエを調べて人間の何がわかるのさ」と思う方がいるかもしれない。しかし、ハエはヒトの約半分の13000種類の遺伝子を持っており、その60%は人とほぼ同じ機能を持っているのだ。
● A型、B型などの血液型は遺伝子そのものが違うからである。この遺伝子は赤血球の表面のタンパク質に糖鎖を付ける酵素をコードしている。つまり、赤血球の表面のザラツキ具合が血液型によって異なるのである。となれば当然、毛細血管の血流の流れやすさが異なり、酸素供給効率に影響があることは想像に難くない。実際、癌の発症率など血液型によって差があるものがいくつか知られている。
● シータ波は記憶などの脳の能力に関係している。新しいものに出会ったり、冒険したりなど、脳が外界に興味を示しているときに現われ、この脳波のリズムは海馬の神経回路を柔軟にし、脳を感受性の高い状態に保つために重要である。
● 「最近、年をとったせいか、記憶力が衰えちゃって」これは間違っています。この論文では、記憶について重要なポイントを2つ明らかにしています。ポイント①は海馬の性能そのものは歳をとっても衰えないということです。若者と同じだけの能力を歳をとってもちゃんと発揮できるのです。ポイント②は、では歳をとって何が変っているのかというと、シータ波です。シータ波は面白いなと感じているか、知的好奇心をもっているか、探索心もっているかなどといった注意力や興味に関係しています。
● アルツハイマー病は「βアミロイド」という毒が脳に溜まることによって生じる。実はβアミロイドは健康な脳にも存在する。ただ、この毒をうまく駆除できず、長年にわたり蓄積すると結果として、脳が萎縮するなどして認知症の症状が現われる。
● 空腹と脳の関係を決定づける驚くべき実験結果を発表した。彼はグレリンという生体物質に着目した。グレリンは胃が空っぽのときに放出される消化管ホルモンである。腹が空くと、血流に乗って胃から脳にグレリンが届けられる。たとえば「視床下部」という脳部位にグレリンが作用すると食欲が増進する。腹が減ると食を欲するようになるのはこうした理由である。

本当はもっと書き写しておきたいところがたくさんあるのだけれど、ちょっとあり過ぎてここまで。この本は自分用にぜひ1冊持っておくべきだ。この著者、池谷裕二は若くして才能にあふれた優秀な大脳生理学者でありながら、非常にキメの細かい、かつ面白い文章を書く素晴らしい人だ。彼の本は本当に面白い。