つながりあそび・うた研究所二本松はじめ

二本松はじめ(ピカリン)の活動予定や活動報告、日頃、考えていることなどを書きます。研究所のお知らせも掲載します。

抱っこ通信1221号金子みすゞ③

2021年12月09日 | 抱っこ通信
金子みすゞも素敵だが、みすゞを蘇らせた力の方がもっと素敵!③
金子みすゞが生きていた時代と人間のやさしさとしなやかさ

文化は社会的・歴史的制約を突き破る力に
 金子みすゞの作品に魅せられる理由に、作品一つ一つに見られる自然・いのち・弱者の視点とその瑞々しいまなざしと人間らしいやさしさに大いに共感を覚えます。
 さらにもう一つ興味を持つところは、金子みすゞの作品が生み出された金子みすゞが生きていた時代と現代との関連で、金子みすゞ作品のもつ生命力がますます輝きを増しているような気がしているからです。
 本人が意識するとしないとに関わらず、私たちの生活は社会的・歴史的な制約を受けていますが、そこに生み出される文化も当然、社会的・歴史的制約を受けながら展開されています。
 本来、文化の役割は多くの人々にその社会的・歴史的な制約を突き破る力を育んできたように思うのですが、金子みすゞに作品の中にある魅力がどのように生まれ、どのように時代を突き破ってきたか、特に、現在、多くの人々から共感されている事実から何が見えるかが同じ文化に携わるものとして大変興味があるところです。

金子みすゞが生きていた時代は
 金子みすゞは1903年(明治26年)に山口県長門市仙崎に生まれ、1930年(昭和5年)に亡くなるまで512編の童謡を書いています。特に童謡を書き始めたのは1923年(対象12年)だと言われています。
 下関市での生活は、母の再婚先の書店の店番として、一日中大好きな本に囲まれていた幸せな時代です。1918年(大正7年)に創刊された童話童謡雑誌「赤い鳥」以来、この時代、教育・芸術分野においても、時代を先取りするような新しい運動がわき起こりました。日本児童文学とりわけ童謡・童話の世界でも全盛時期でもあり、童話・童謡雑誌も数多く出版され、一番輝いていた時代かもしれません。
 童謡においては、北原白秋が選者の「赤い鳥」、野口雨情が選者の『金の船』、そして金子みすゞも登場する西條八十が選者の「童謡」が三大童謡雑誌として君臨していました。
 その中で、金子みすゞは「童謡」に投稿するようになり、西條八十にその才能を認められるようなり、若き投稿詩人たちの一躍アイドルとなっていったわけですが、残念ながらその数年後には詩作を禁じられ、最後は自らの命を絶ったのです。
 さて、金子みすゞが生きていたこの時代は、お互いにの違いを認め合って「みんなちがってみんないい」というような生き方が可能だった時代でしょうか。「いのちあるものはみんな同じだよ」などが大切にされていた時代だったんでしょうか。

神様(天皇)の赤子として
 「ぼく、大きくなったら何になるの?」「兵隊さんに」と答えることが良いとされていた時代、それが金子みすゞが生きていた時代だったのです。子どもたちは神様の子どもとして育てられていました。
 一つはムラ(共同体)の中心が神社であり(天皇制ともかかわっていますが)、そのムラの子どもとして育てられたのです。子どもがお腹に宿ると岩田帯(犬帯)をしますが、その帯を神社にいってお祓いを受けますよね。丈夫な子どもが生まれますようにと。また、出産するとお宮参り、だんだん大きくなるにつれて七五三のお宮参りと、ムラの子どもとして丈夫に育ったことの報告とお礼、そして、さらに健やかにムラの担い手として育つように神様にお願いしますね。そういう意味での神様の子どもです。子どもを共同体の一員として共同体で育てる意味もありました。
 もう一つの神様の子どもと育てられた意味は、当時、子どもたちは、神様は実際にいると教えられていたのです。現人神と呼ばれて。天皇のことでした。子どもたちは天皇の赤子(子ども)として天皇のために無償の奉仕を求められ、天皇のために、国にために死ぬことを強いられていたのです。1890年にだされた教育勅語を頂点にそういう教育が展開されていたのです。
 絶対主義的天皇制のもとの軍国主義一辺倒の時代には、当然、個人の思いややさしさはおしつぶされ、「みんなちがってみんないい」なんていう思想は到底許されず、個人の「いのちあるものはみんな同じ」はずの「いのち」が、自分のものではなく、天皇のためにあった時代に、それもそんな権力の暴力が増大していった時代に、金子みすゞは生きて、作品を生み出していったのです。そんな時代に生み出されたことも金子みすゞの作品の素晴らしさを伝えたいと思う一つなんです。(次号に続く)
(『手と手と手と』第59号 2000年1月25日付より)
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