鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

龍神図鍔 南蛮 Nanban Tsuba

2019-05-17 | 鍔の歴史
龍神図鍔 南蛮


龍神図鍔 南蛮

 南蛮鐔は南蛮や中国で製作されたものではない。南蛮風の装飾が施された我が国のものである。だから、打刀に装着することを想定して切羽台や櫃穴が製作されている。図柄はこのような唐草が多い。唐草と組み合わせた龍神も多い。唐草と龍神は立体的描法で、唐草の隙間を龍がくぐりぬけているような構成もある。


双龍図鍔 平戸住國重 Kunishige Tsuba

2019-05-17 | 鍔の歴史
双龍図鍔 平戸住國重


双龍図鍔 平戸住國重

 これも真鍮地に巴状に構成された双龍に特徴のある作。裏面は、この工が良く採る波の図。やはり腐らかし処理で地に変化を与えている。さて、南蛮鐔とは何だろう。そもそも南蛮とは西洋のことであり、室町時代に輸入された南蛮物と呼ばれる品々に施されていた装飾に代表される。南蛮とは中国から見て南の方角に位置する蛮国であるとの意味合いがあり、西洋の貿易船が中国の南を経由して我が国に来たことからの呼称だ。だから、南蛮風の装飾には中国の風合いも含まれていると考えられたのであろうか。純然たる西洋風ではないところに面白みがある。


双龍図鍔 平戸國重 Kunishige Tsuba

2019-05-16 | 鍔の歴史
双龍図鍔 平戸國重


双龍図鍔 平戸國重

南蛮風の鐔を製作した國重も、腐らかし処理をした作品を遺している。双龍を図として好んでいるのも、南蛮を意識した理由であろう、龍神の潜む雲を暗示したものか、図柄の背景として腐らかし処理が活かされている。明瞭に肌合いが現れているのが切羽台辺り。この鐔は真鍮地を彫り込み、耳を高く仕立て、図柄も肉の高い描法。巴状に龍神を布置している。

蕾花図鍔 金山 Kanayama Tsuba

2019-05-15 | 鍔の歴史
蕾花図鍔 金山


蕾花図鍔 金山

 花の蕾と見たが、良く判らない図柄の一つ。古作にはこのような、図柄の判らない例が多い。そこが古いところの魅力であったりする。地鉄はねっとりとして強みがある。色のさらに黒い粒状の鉄骨が耳に浮かび上がっている。


餌畚図鍔 甚五 Jingo Tsuba

2019-05-14 | 鍔の歴史
餌畚図鍔 甚五


餌畚図鍔 甚五

 銘がなければ甲冑師に紛れるような、薄手の地面に土手耳仕立てとされた鐔。左右餌畚透が肥後の特色を示している。地鉄がいい。ねっとりとして古風。耳には筋状の鉄骨が浮かび上がっている。


升目唐草文図鍔 古正阿弥 Shoami

2019-05-13 | 鍔の歴史
升目唐草文図鍔 正阿弥


升目唐草文図鍔 正阿弥

 くっきりと突き出した鉄骨が魅力の鐔。正阿弥派の作でも時代の上がる鐔は、地鉄も強靭さがあって下も意匠の優れた作が多く、評価の割に価格が手ごろである点から、数奇者の間では人気が高い一類である。昔の先生方が、「なんだ正阿弥派か…」といったような評価をしたため、今でもその言葉を信じている人が多く、時代の上がる古正阿弥まで正阿弥派全体の評価を低く押し下げてしまっているようなところがある。何度か言っているのだが、正阿弥の鐔は頗る優れている作がある。自身の目で確かめてよい作品を手にしたいものである。

水辺図鍔 金山 Kanayama Tsuba

2019-05-11 | 鍔の歴史
水辺図鍔 金山


水辺図鍔 金山

 金山と極められている鐔。地鉄がすこぶる強靭でいい。金山極めにしては透の線が幅広く感じられるが、この地鉄の強さから金山と極められたのであろう。色合い黒い鉄骨が耳から地面に広がっている。

菊花図鐔 貞廣 Sadahiro Tsuba

2019-05-09 | 鍔の歴史
菊花図鐔 貞廣


菊花図鐔 貞廣

貞廣は尾張の鐔工。このような鐔を遺しているのだから、きっと古作に紛れるような尾張鐔も作っているだろう。激しく突出した鉄骨が魅力であり、焼手腐らかしによる肌合いも鉄の素材の美観を鮮明にしている。

唐草文図鐔 信家 Nobuie Tsuba

2019-05-08 | 鍔の歴史
唐草文図鐔 信家


唐草文図鐔 信家

 信家には、文の打ち込みや鑽による筋彫などの技法を駆使した作が多い。この鐔が典型。耳際に、あるいは打ち返した耳に連続するように色合いの黒い瘤状の鉄骨が現れている。この鐔では鉄骨が景色となっている。

耳長兎図鐔 山吉兵衛 Yamakitibei Tsuba

2019-05-07 | 鍔の歴史
耳長兎図鐔 山吉兵衛


耳長兎図鐔 山吉兵衛

 折り返し鍛錬した地面に、鍛えた鎚の痕跡を残し、放射状の鑢目を施した作。山吉兵衛には炭のように真っ黒な瘤状の鉄骨の現れた作がある。本作の鉄骨はとても穏やかで、むしろ焼手腐らかしの技法が活かされた出来。肌合いの妙味が楽しめる鐔である。

流文図鐔 赤坂忠則 Tadanori Tsuba

2019-05-02 | 鍔の歴史
流文図鐔 赤坂忠則


流文図鐔 赤坂忠則

 鉄を折り返し鍛錬し、表面を腐らかして鍛え肌を明瞭に浮かび上がらせただけの簡潔な製作技法になる鐔。他に文様はない。鍛え肌を子細に観察すると、質の異なる鉄が合わせ鍛えされていることが判る。色合い黒く見える部分がそれで、時代の上がる鉄骨のようにわずかに盛り上がって量感がある。これが鉄骨の本来の姿であるとは断定できないが、鉄骨を考える上では興味深い作品でもある。

車透図鐔 信家 Nobuie Tsuba

2019-05-01 | 鍔の歴史
車透図鐔 信家


車透図鐔 信家

腐らかしの技法は、真鍮地や素銅地だけに用いられたわけではない。鉄地の鐔にも焼手腐らかしという技法がある。桃山三名工に数えられる信家にも用いたと思われる作がある。そもそも鉄鐔は、焼き入れによって強靭さが加えられて完成する。尾張鐔、金山鐔などは、その技法が施された可能性はとても高い。この車透の耳際に、兎の文様が薄肉彫で表されている。地面の自然な鉄骨のような凹凸と共に、穏やかな景色を成しているのが腐らかしによるものと思われる。ただし、鉄鐔の場合の腐らかしは、果たして酸を用いたものか不明である。