鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

雪に傘図鐔 正富 Masatomi Tsuba

2018-11-13 | 鍔の歴史
雪に傘図鐔 正富


雪に傘図鐔 正富

 なんて素敵な風景であろう、先の鐔と同じ鉄地薄肉彫、金銀布目象嵌、小透かしの手法を採り、傘に積もりかけた雪を心象表現している。これらの処方すべてが過ぎることなく、巧みである。江戸時代後期の江戸金工の作。江戸好みの美意識と言えよう。

雪景色図鐔 正乗 Seijo Tsuba

2018-11-12 | 鍔の歴史
雪景色図鐔 正乗


雪景色図鐔 正乗

 なんて素敵な風景であろう。雪を想わせる文様の描かれた地紙を散し、また、雪輪文を描いて地紙の背後にも雪を印象付けている。重層的な雪の文様表現。現実にはない光景であり、美しい。雪の心象表現と言って良いだろう。大小揃いの作。

松原図鐔 友英 Tomohide Tsuba

2018-11-10 | 鍔の歴史
松原図鐔 友英


松原図鐔 友英

 心象描写された海辺の風景。寄せ来る波を片切彫で、これも簡素に描いている。松の連なる様子が独創的でいい。水墨画とも違う、金工ならではの草体化された表現であり、遠く連なる海原と天空の境界は描かれていないものの、永遠の空間に身体がとけこんでゆくかのようだ。文様化でもない、正確で精巧な彫刻でないところがいいのだろう。

撫子図鐔 加賀後藤 Kaga Tsuba

2018-11-09 | 鍔の歴史
撫子図鐔 加賀後藤


撫子図鐔 加賀後藤

 豪壮で華麗、贅沢な、加賀の風合いが濃密な作。夏の庭先に群咲く撫子を量感豊かに彫り出している。金の花の中に素銅の花を交えているのが印象的。風景画ながらいかにも文様風で、添え描かれている蝶も決して変化に富んでいるわけではなく様式的。魚子地による背景の単純化は後藤流でしかも清潔感があり、主題を際立たせている。夢のような世界観が主題である。

桜図鐔 京金工 Kyoukinnkou Tsuba

2018-11-08 | 鍔の歴史
桜図鐔 京金工


桜図鐔 京金工

 黒い桜などない。だが作者は、銀が黒化することを意図して金の桜の中に散らし配している。作者の心に映った風景であろう。縮緬皺のような細かな線によって描かれた霞の棚引く様子もまた心象的表現であり、さらに背景の朧銀石目地と共に、辺りに漂う桜の香りを印象付けている。この朧銀地を下地とした処理も巧みである。川の流れに桜の組みあわせは、嵐山や吉野が思い浮かぶが、それら古典とは違った印象のある作品となっている。

鈴虫図鐔 金英 Kanehide Tsuba

2018-11-07 | 鍔の歴史
鈴虫図鐔 金英


鈴虫図鐔 金英

 源氏物語に取材したものであろうか、鄙びた野の風景に垣根と小川の流れを加えることで、雅な風情に変えている。どうやら水の流れの周囲に打ち施された魚子地が要のようだ。現実世界の絵を通して遠い昔語りの世界に意識が溶け込んでゆくように仕組まれているのではないだろうか。魚子地の存在感は、後藤家の作品にあるように背景を単純化するためだけのものではないことが良く判る作品。

月に兎図鐔 政次 Masatsugu Tsuba

2018-11-06 | 鍔の歴史
月に兎図鐔 政次


月に兎図鐔 政次

 政次は石黒派の金工。透かしが活かされた意匠構成である。透かしによって実風景は夢の中の風景のようになる。次の鐔も同じ場面で、漆黒の中に簡潔な毛彫と透かしのみで表現されており、夢の世界観が一層強まる。

ススキ野に月図鐔 Tsuba

2018-11-05 | 鍔の歴史
ススキ野に月図鐔


ススキ野に月図鐔

 無銘の鐔だが、作者の鋭い感性が示されている作。鐔の端部に沿って描かれた月が、頗る心象的。ススキの原に月が落ちてゆく場面だが、遠近といった実在感などへの意識など無用の美空間。葉上に光る露も綺麗だ。抑揚をつけた耳も意匠だけではなく、写実表現とは離れて記憶や深層意識の世界への入り口のようだ。

笹に牡丹図鐔 埋忠彦右衛門 Hikozaemon Tsuba

2018-11-02 | 鍔の歴史
笹に牡丹図鐔 埋忠彦右衛門


笹に牡丹図鐔 埋忠彦右衛門

 櫃穴の周囲に金と銀の布目象嵌で牡丹唐草を配し、雪を湛える笹を陰に意匠して冬の風景としている。とても洒落た作風。埋忠一門の美意識が突き詰められた自然風景であり、文様であり、心象的である。埋忠一門の個性でもある平面表現は、金銀の布目象嵌象嵌で表わされ、その風合いに心惹かれるが、特に透かしが活きている。

蟷螂図鐔 赤文 Sekibun Tsuba

2018-11-01 | 鍔の歴史
蟷螂図鐔 赤文


蟷螂図鐔 赤文

 赤文は度々紹介している。多彩な図柄に挑んで成功した、優れた感性と技術を備えた金工である。置かれている牛車の車輪に夕顔が絡みついている。これだけを捉えれば、『源氏物語』の『夕顔』になる。この鐔では蟷螂を添え描いている。「蟷螂の斧」の謂いがあるように、蟷螂は自ら抗えないような巨大な存在にも鎌を振り上げる。その勇ましい気質から、装剣小道具に好んで採られることがある。ちょっとした添景の違いで意味が異なってくる。櫃穴に車を陰に表現しているのがいい。源氏物語図のような古典的で文学的、雅な風景というわけではないが、構成に引き込まれてしまう。下の鐔は庄内金工の、同じ意味を持つ図で、より武骨な印象がある。