政治、経済、映画、寄席、旅に風俗、なんでもありの個人的オピニオン・サイト
とりがら時事放談『コラム新喜劇』



タクシーを降りて、ジョジョに誘われて入ったのはソイに向かって左奥から2軒目に家だった。

ジョジョの自宅だという家はコンクリ製の2階建て。
自動車を2台ほど駐車できる庭が玄関先についていた。しかし、なんとなく手入れが悪いようでぺんぺん草が生えていたりして殺風景な感じが漂っていた。

殺風景といえば家の中も殺風景であった。
あまり家具が無かったのだ。
当然、テレビはない。
テレビの無い居間など日本では考えられない。
タイの一般家庭はこうなのか不明だが、希代のテレビ好きであるタイ人の居間にテレビがないなんてことはないだろう。

床は淡い緑色のタイルで敷き詰め垂れており、所々タイル間のしっくいが黒くなっている。
天井は淡い黄色で、窓も所々にある。
中は外から見るより広いようで、奥に続く廊下がある。
意外に快適だ。
外はバンコク独特の蒸し暑さなのに、家の中はなんとなくひんやりとして涼しいのだ。
クーラーも見当たらないのに、である。

玄関から入ったすぐそばに濃い茶色をしたビニールレザーの古い応接用ソファが置かれていた。

「そこへ腰掛けてて」
とジョジョは言った。

部屋はダイニングキッチンと続きになっていて、奥で小柄で痩せ形の初老のオバハンがテキパキと料理を作っていた。
ダイニングの中央にはアメリカのファミリードラマなんかに出て来そうな大きな四角いテーブルと椅子が置かれていて6人は腰を掛けられそうな感じだ。

「彼女は家の手伝いなんだ」
とジョジョはキッチンで忙しそうに立ち振る舞っているオバハンを説明した。
「いらっしゃい。今、料理作ってるからね。」
と初老のオバハンは陽気に英語で言った。
キッチンからは美味しそうな香が漂ってきている。

この家ではメイドのオバハンでさえ英語を話せるようだ。

確かに、タイでは外国人相手のメイドという職業があり、日本企業の現地駐在員なんかも日本人会や日本商工会議所などの紹介で日本語を話せるメイドさんを雇うということを聞いている。

話がそれるが、ここバンコクは、東京や大阪の郊外にある2DKや3DKといった狭くて家賃の高いマンションに家族4人ぐらいで住んでいた人たちが、
「あ、来月からバンコク転勤ね」
と指示されて、
「え~、タイですか。アメリカやなくて、タイですか?大変そう」
としぶしぶやって来てみたら、
年中暑いことを除いて、物価は安いわ、家は広いわ、メイドさんは雇えるわ、子供も巨大日本人学校があって安心だわ、スーパーもジャスコなんかがあったりして、生活に不自由しないばかりか、日本より良かったりするので、
「もう、日本には帰りたくない」
となってしまう俄セレブが多いことでも知られている。

だからして、英語を話せるメイドのオバハンがいても不思議ではないが、なんとなくこれも引っかかる要素なのであった。

「いや~、ようこそ」
とどこからともなく現れたのは、カンボジアのシアヌーク国王を俗物化して二三日のあいだ天日干して、梅干しと一緒に漬け込んだ、というような感じの、ずんぐりむっくりで小柄な、これまた初老のオッサンなのであった。

「オヤジだよ」
とジョジョは言った。

つづく

コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )