とりがら時事放談『コラム新喜劇』

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リットン報告書

2007年02月18日 20時17分42秒 | 書評
「大量破壊兵器があるので調査させよ」

と調査団が土足で踏み込んだイラクには大量破壊兵器は存在せず、

「どこに隠してるんだよ。ナメンナヨ」

と武力に訴えて是が非にでも兵器を掘り返そうと爆撃を始めて大統領を捕まえてみたが、結局化学兵器も核兵器も出てこなかった。
で、赤っ恥をかかされた腹いせに、村人の何百人か殺した事件を盾にとり、

「あんたは人道に反した罪を犯した。よって、あんたは死刑である」

と昨年末に首を括られたのがサダム・フセインで、首を括らせたのがアメリカ合衆国。
軍事行動を伴う方法で村人を虐殺したと言う理由でその時の政権首脳が死刑になるのなら、「ソンミ村大虐殺」(1968年3月 ベルナム)を起こした時のジョンソン大統領も当然死刑になるべき存在だろう。
でもフセインは死刑になったが、ジョンソンは死刑にもならず1973年まで存命し、実行犯の米軍将校も軍事法廷で無罪になったから、世の中どうなっているのか分らない。

この「調査団」というものがいかに役立たずで用無しで能無しか、ということを実証した20世紀最初の実例がリットン調査団だった。

リットン調査団と耳にして、あまり売れていないお笑いコンビを思い出したあなた。あなたはテレビの見過ぎだ。
リットン調査団とは、そんな付属高校よりもレベルが劣ると(関西では周知の)言われる桃山学院大学出身のお笑いコンビのことではなく、歴史教科書に登場することでも有名な満州事変を調査するために国際連盟から編成された調査団の名称だ。

お笑い芸人のコンビ名に使われるほど知名度高きリットン調査団。
しかしその存在は歴史教科書にも記されている通り、彼らがまとめた調査書が日本の国際連盟脱退という事態を招き、やがて第2次世界大戦、三国同盟、大東亜戦争、敗戦と悪夢の歴史につながっていくことになる原因の1つと思われている。

でも、本書の前書きにも記されている通り、日本人のほとんど全てが「リットン調査団」の名称は知っていても、その調査団がまとめた報告書についてはほとんど知らないというのが実情ではないだろうか。
もちろん私も知らなかった。

本書はそのリットン調査団報告書の全文を邦訳した戦後始めての書籍である。

リットン調査団報告書は日本の悪口ばかりが記されているのではないかと想像していたのだが、そこにはかなり多くの日本の主張も取り入れられていたのだった。
そして日本と支那、双方の意見をできるだけ客観的な目で捉えようとしていることに、少しく驚きを新たにしたのだ。
惜しむらくは、リットン卿をはじめとする調査団の白人先生諸兄が東アジアの文化や歴史、情勢にもっと精通していただけていたら報告書提出後の歴史は変わっていたかも知れないということだ。
そして日本側全権代表であった松岡洋右外相がもうちょっと勉強をしておれば国際連盟脱退など宣言しなかったかもわかない。

そういう気持ちを抱かせてくれるたのは、やはり今回リットン報告書を読むことのできる機会を得られたことに他ならない。(本書は和文と英文の双方を収録)

でも、本書の一番恐ろしく凄みのある要素はこの1930年代初めの日本と支那の関係に今現在の日中関係を彷彿させる部分が少なくないところだと言えるだろう。

~「全文 リットン報告書」渡部昇一解説 ビジネス社刊~