とりがら時事放談『コラム新喜劇』

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メチャ痛快の、よろずや平四郎活人劇

2008年09月01日 20時08分19秒 | 書評
汚職
通り魔殺人
食品の産地偽装
期限切れ食品の再使用
政治家秘書給与のごまかし
などなど

世の中、暗くジメ~とした話題で溢れている。

「こんな暗い雰囲気、吹き飛ばしたい!」
と叫ぶあなたにぴったりの時代小説が藤沢周平著「よろずや平四郎活人剣」(上下巻)だ。

十数年前に放送されていたNHK金曜時代劇「腕におぼえあり」の一部エピソードに転用されていた連作小説だが、主人公は青江又八郎ではない。
青江は「用心棒日月抄」の主人公。
こちらの主人公は神名平四郎という旗本の妾腹の子である。

しかしその爽やかで快活な主人公と各エピソードは「腕におぼえあり」をも凌駕する。

クセのある浪人仲間の他の二人と剣道場を構えようとするところは、
「脱サラして自分の会社を持ちたい」
「今はニートだけど、いつか自分の店を持つんだ」
という人には多いに共感を与えるだろう。
もちろん私も共感した。

そしてひとつひとつのエピソードにちりばめられた市井の人間模様がこれまた心憎い。
登場する人びとがこれまたいいのだ。
商人の放蕩息子を立ち直らせた身よりの無い娘。
その娘に初めは偏見を持っていた主も、やがて息子が射止めた娘を大いに気に入るようになる。
こういうところは上手い芝居を観ているような爽快感がある。
そして、嫁に文句も言えない旦那が、強くなるエピソードや、敵討ちのピソード。
どれもこれも感動物だ。

で、一番ドキドキわくわくするのは平四郎の元許嫁、早苗との関係だ。
主人公とその元許嫁の関係が、これまたドキドキわくわくの江戸時代青春小説の雰囲気を醸し出している。

ともかく読み終わったとで、「続きを読みたい!」と叫びたくなる傑作だ。
でも、これも池波正太郎の鬼平の続きが読みたくても読めないのと一緒で、藤沢作品の続きも読むことはできないジレンマにやりきれないイライラを感じる。

なんで、人には寿命はあるのだろう。

~「よろずや平四郎活人剣」上巻 下巻 藤沢周平著 文春文庫~