とりがら時事放談『コラム新喜劇』

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モーターサイクル南米旅行記

2004年11月26日 21時51分50秒 | 書評
とりがら書評

チェ・ゲバラ、という人をご存知だろうか?
フィデロ・カストロとともに一九六〇年代キューバ革命を成功へと導いた指導者の一人だ。
本書はそのチェ・ゲバラが医学生であった時、友人と二人で南米を一年ばかし旅行した時のことを記した旅行記である。

この秋、ロバート・レッドフォードが製作総指揮をとった、本書を原作とする映画「モーターサイクル・ダイアリース」がミニシアター系列で公開され大きな話題となった。
私は残念ながら映画の方は仕事が忙しく見逃してしまった。
また一部地域では「チェ・ゲバラ展」なる展示会も催され、多くの人々が今は亡き革命家に思いをはせたことと思う。

ゲバラが革命指導者になったのは、レーニン主義に共鳴していたわけでもなく、社会に不満のある生活を強いられていたからでもない。
そもそもゲバラはアルゼンチンの中産階級の家庭に生まれ、決して乏しい生活を営んでいたわけではないのだ。むしろ医学校に進学できるくらいの財力は持った家庭にいたわけだ。
この医者、とりわけハンセン病の専門医を目指した青年が、なぜ革命運動に関わっていったのか、ということについてのヒントが本書には随所に散見することができるのである。
たとえば彼が訪れた山間部の乏しい村には、十分な医療を受けることもできず、ただ死を待つだけのインディオの人々が存在し、彼は医師としてまったく無力であることを度々彼は思い知らされることがエピソードとして紹介されている。
多感な二十代前半に、当時は珍しかったこの放浪旅行を行ったことにより、南米が抱える多くの社会的矛盾に直面し、革命家チェ・ゲバラの基礎ができあがるのだ。

この日本語訳はスペイン語の原書を使用しているとのことだが、多くの箇所が、スペイン語の言い回しをそのまま使っているのか、翻訳に携わった人の日本語構成力が乏しかったのか、日本語の文章という意味合いの上では、随分と読みにくい書物になってしまっている。
しかし、一人の若者が、どのような経験を経て、どのような人物に成長してくのかを知るためには、たいへん貴重な紀行文になっていると思わずにいられないのだ。
漠然と、何をして良いのやらわからない若者や、何かしたいがどうしたら良いのかわからない若者に是非読んでもらいたい一冊である。