とりがら時事放談『コラム新喜劇』

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ミッドナイト・エクスプレス

2004年11月16日 22時35分44秒 | 書評
とりがら書評

数年前、書店の文庫本コーナーで「深夜特急」という気になる題名の書籍を見つけた。
作者は沢木耕太郎。
恥ずかしながら、書籍の類いは特定の作者を偏読する癖があるため、この時点でまったく知らない作家だった。
後に優れたノンフィクション作家ということを知り、手当たり次第に沢木作品を買い求め読みあさっていったのは余談。
さて、初めて見てから、実際に購入するまで半年ぐらいかかったかも知れない。なんせ偏読癖を持っているため「深夜特急」などという題名からは面白いという雰囲気をつかみ取ることができなかったのだ。
そしてある日、理由は不明だが、この書籍の第一巻を買うことになった。
一ページ目を開き読み始めると、表現できない期待感が胸を包み込み始めた。なんかワクワクするのだ。そしていつの間にか読むことを止めることができないくらい「深夜特急」の世界にはまり込んでいた自分がいたのである。

本書は一九七三年に筆者の沢木耕太郎が一年半をかけて香港からロンドンまでユーラシアを旅した時の出来事や街・人の様子、社会状態などを記した戦後紀行文の傑作である。
ミッドナイト・エキスプレスは今回改めて刊行された全集としての題名だ。

一九七三年と謂えばベトナムから米軍が撤退を決めた年だった。ヒッピーが社会現象として存在し、日本では大阪万博の余韻がまだ少し残っていた頃だろう。
その混沌とした七十年代のアジアからヨーロッパを筆者はバスで旅をするのだ。

今回改めて読んでみると、通過している(できる)国が現在とは微妙に違うことに興味を魅かれる。
筆者は当時戦火の中心であったインドシナと鎖国状態だったミャンマーは飛行機で飛び越え、まだまだ平和だったアフガニスタンの真ん中をバスで突っ切っている。
現在はインドシナが安全地帯で、アフガニスタンは極めて危険な地域となった。
9.11事件以来、アフガニスタンとイラクに世間の注目が集まっているためか、本書を初めて読んだ時感じた前半のマカオのカジノでのギャンブルの興奮よりも、今回はバスの車窓から眺めた平和なアフガニスタンの風景の描写の方が、はるかに印象に残ったのだった。
筆者が実行したインドからロンドンまでのバスの旅は現在ではほとんど不可能なルートにあたる。
真似をしようとは思わないが、もし誰かが本書に感銘を受けて、真似をしてみたいと思っても、それはほとんど出来ない相談なのだ。

「深夜特急~ミッドナイト・エクスプレス」を読了して感じた最も大きなことは、最初の時も、今回も共通している。
「畜生! もっと若いうちに、しっかりと旅をするんだった。」
という後悔である。