人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

ベートーヴェン「弦楽四重奏曲第3番、第9番、第14番」を聴く~エルサレム弦楽四重奏団「ベートーヴェン・サイクルⅣ」:サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン

2021年06月11日 07時14分52秒 | 日記

11日(金)。わが家に来てから今日で2344日目を迎え、米東部ニューヨーク州で6月、夏の観光シーズンに向けて音楽や芝居などの興業が本格的に再開するが、人を呼び込む切り札になっているのは新型コロナウイルスのワクチン接種で、アリーナや劇場では観客に接種証明書を求める動きも相次いでいる  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

     日本でもっと早く取り組んでたら 東京五輪どうするなんて今ごろ言わずに済んでた

 

         

 

昨日、夕食に「フライパン焼き豚」「山芋の味噌汁」を作りました あとは「エシャレットとキュウリのおつまみ」です。「フライパン焼き豚」は初挑戦ですが、何とか美味しく出来ました 「山芋の味噌汁」は山芋を擦り下ろしただけ シンプル・イズ・べㇲトです

 

     

 

         

 

昨夜、サントリーホール「ブルーローズ」で「サントリーホール  チェンバーミュージック・ガーデン」参加公演、エルサレム弦楽四重奏団「ベートーヴェン・サイクルⅣ」を聴きました プログラムはベートーヴェン①「弦楽四重奏曲 第3番 ニ長調 作品18-3」,②「同 第9番 ハ長調 作品59-3『ラズモフスキー第3番』」、③「同 第14番 嬰ハ短調 作品131」です

 

     

 

1曲目はベートーヴェン「弦楽四重奏曲 第3番 ニ長調 作品18-3」です この曲はルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770‐1827)が1798年から1800年にかけて作曲、彼の後援者フランツ・ヨーゼフ・フォン・ロブコヴィッツ侯爵に献呈された6つの弦楽四重奏曲(作品18ー1~6)のうち、実質的に最初に作曲された作品です 第1楽章「アレグロ・コン・ブリオ」、第2楽章「アダージョ・アフェットゥーソ・エド・アパッショナート」、第3楽章「スケルツォ:アレグロ・モルト」、第4楽章「アレグロ」の4楽章から成ります

4人の演奏で第1楽章に入りますが、明るく穏やかな曲想を聴いていて、ハイドン風だなと思いました ベートーヴェン最初の弦楽四重奏曲ということもあってか、ベートーヴェンらしさを強烈に感じることがありません。しかし、耳に心地よい曲だと思いました

2曲目は「弦楽四重奏曲 第9番 ハ長調 作品59-3『ラズモフスキー第3番』」です この曲はウィーン駐在ロシア大使ラズモフスキー伯爵の依頼により1805年から06年にかけて作曲された3つの弦楽四重奏曲(作品59ー1~3)の最後の曲です 第1楽章「導入部:アンダンテ・コン・モート」、第2楽章「アンダンテ・コン・モート・クアジ・アレグレット」、第3楽章「メヌエット:グラツィオーソ」、第4楽章「アレグロ・モルト」の4楽章から成ります

第1楽章の冒頭は序奏ですが、ベートーヴェンは弦楽四重奏曲で初めてこの曲に序奏を取り入れました 4人によるミステリアスな演奏から、突然、明るく開けたような曲想に移るパッセージを聴いて、既視感(既聴感?)を覚えました それはモーツアルト「弦楽四重奏曲第19番K.465”不協和音”」の第1楽章の冒頭部分です また、チェロのピッツィカートに乗せてヴァイオリンとヴィオラが奏でる第2楽章の哀愁に満ちたメロディーが印象的です 一度聴いたら忘れられない曲想です そして、何と言ってもこの曲で一番の魅力は第4楽章「アレグロ・モルト」です フーガ風にテーマを重ねていく疾走感は唯一無二の快感を呼び起こします この推進力こそベートーヴェンの魅力だと言いたくなります 文句なく素晴らしい演奏でした

 

     

 

プログラム後半は「弦楽四重奏曲  第14番 嬰ハ短調 作品131」です この曲は1826年3月頃から7月までウィーンで作曲、甥のカールを士官に任命したヨーゼフ・フォン・シュトゥッターハイム男爵に献呈されました 初演はベートーヴェンの死後、1828年10月です 第1楽章「アダージョ・ノン・トロッポ・エ・モルト・エスプレッシーヴォ」、第2楽章「アレグロ・モルト・ヴィヴァーチェ」、第3楽章「アレグロ・モデラート」、第4楽章「アンダンテ・マ・ノン・トロッポ・エ・モルト・カンタービレ」、第5楽章「プレスト」、第6楽章「アダージョ・クアジ・ウン・ポコ・アンダンテ」、第7楽章「アレグロ」の7楽章から成りますが、全曲は休みなく演奏されます

ところで、ベートーヴェンの後期の弦楽四重奏曲は、第12番、第15番、第13番、第14番、第16番の順番に作曲されましたが、楽章数は第12番=4楽章、第15番=5楽章、第13番=6楽章、第14番=7楽章と1楽章ずつ増えていき、最後の第16番は4楽章に戻っています これは第16番を除き、ベートーヴェンの表現領域が次々と広がっていったことを意味します

第1楽章でフーガ主題が、第1ヴァイオリン ⇒ 第2ヴァイオリン ⇒ ヴィオラ ⇒ チェロ へと受け継がれていき、それぞれの楽器が絡み合ってフーガを展開していきます クラシックの大先輩J.S.バッハのフーガ技法を取り入れた傑作です ベートーヴェンはこの曲で「バッハに還れ」を実践しています 第2楽章以降は、楽章ごとに目先がクルクルと変わり、自由自在に作曲したと思いがちですが、実は、ベートーヴェンは作曲にあたって約600ページという大量の草稿を作成し、綿密な推敲の果てに自由自在に見える作品として完成したとのことです そこにベートーヴェンらしさを感じ、畏敬の念を抱きます 4人の演奏は、第1ヴァイオリンが突出するということはなく、4人が対等に演奏するスタイルで、それぞれの持ち味を発揮しました

特に中期、後期の作品を聴くと、ベートーヴェンがいかに綿密に作品に取り組んでいたかが想像でき、あらためて彼の偉大さを認識します

今日はエルサレム弦楽四重奏団の「ベートーヴェン・サイクル」最終日、弦楽四重奏曲第5番、第6番、第11番、第16番を聴きに行きます

 

     

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

青山真二監督・多部未華子主演「空に住む」観る 〜 両親を交通事故で亡くしタワーマンションの高層階で暮らす若き女性と猫の物語

2021年06月10日 07時01分20秒 | 日記

10日(木)。わが家に来てから今日で2343日目を迎え、米NBCユニバーサルは7日、東京五輪を計7千時間にわたって放送すると発表したが、親会社のコムキャストは国際オリンピック委員会(IOC)に対し、東京までの4大会で43億8千万ドル、さらに32年までの6大会で76億5千万ドルを支払う契約を結んでいる  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

     これだからIOCは オリンピックや〜めた と簡単に言えないんだな 金まみれの五輪

 

         

 

昨日、夕食に「ひき肉と野菜のドライカレー」を作りました 久しぶりに作りましたが、何回食べても飽きません

 

     

 

         

 

昨日、早稲田松竹で青山真二監督による2020年製作映画「空に住む」(118分)を観ました

郊外の小さな出版社に勤める直実(多部未華子)は、両親の急死を受けとめきれないまま、叔父夫婦(鶴見辰吾・美村里江)の計らいでタワーマンションの高層階で暮らし始める 長年の相棒である黒猫ハルや、気心の知れた職場の仲間に囲まれながらも、喪失感を抱え毎日を浮遊するように生きていた そんなある日、彼女は同じマンションに住む人気俳優・時戸森則(岩田剛典)と出会う 彼との夢のような逢瀬に溺れていくが、それに比例するようにハルの具合が悪くなり、獣医からはストレスが原因だと言われる 直実は、仕事と人生、そして愛の狭間で揺れ動くが、葛藤の末に時戸森則にインタビューをし、彼の生きる上での哲学を語らせ、それを書籍として出版することを決意する

 

     

 

この映画は、作詞家の小竹正人の同名小説と、原作とともに誕生した「三代目」の楽曲「空に住む」の世界観をもとに、現実と夢の間で葛藤しながら新たな人生を見い出していく女性たちを描いた作品です

タイトルの「空に住む」は、タワーマンションの高層階の部屋から窓外を見た直実が「まるで空に住んでいるみたい」と呟くところからきています 交通事故で死んだ父親が生前、直実のことを「まるで雲のようなやつだ」と叔父に語っていたという思い出話が出てきますが、空に浮かぶ雲のような存在の直実が、落ち着くべきところに落ち着いたといったところでしょうか また、雲のように掴みどころのない直実の精神状態を表しているかのようでもあります 彼女は結局、時戸に捨てられてしまいますが、そのまま泣き寝入りすることなく、彼の内面を抉り出すべく果敢にインタビューをします それは彼との逢瀬の間にかまってあげなかったために死んでしまったハルへの贖罪の気持ちから出たものです 人間は生きていく上で「何かを得るためには、何かを失っている」のかもしれません しかし、いつまでも喪失感に浸っているわけにはいかない 希望をもって前を向いて生きて行こう、という監督のメッセージが伝わってくるような作品でした

本日、toraブログのトータル閲覧数が640万ページを超えました( 6,400,364 IP。トータル訪問者数は 1,852,889 PV )。これもひとえに普段からご覧いただいている読者の皆様のお陰と感謝申し上げます これからも1日も休むことなく書き続けて参りますので、モコタロともどもよろしくお願いいたします

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ベートーヴェン「弦楽四重奏曲第4番、第10番、第15番」を聴く~エルサレム弦楽四重奏団「ベートーヴェン・サイクルⅢ」:サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン

2021年06月09日 07時10分57秒 | 日記

9日(水)。わが家に来てから今日で2342日目を迎え、中国の国会に相当する全国人民代表大会常務委員会は7日、外国が中国を制裁した場合に反撃する反外国制裁法案を審議したが、米欧などの対中制裁に直ちに対抗する体制を整えて、抑止する狙いがあるとみられる  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

     外国が制裁する原因を作っているのは中国なんだから それを取り除くのが先決だろ

 

         

 

昨日、夕食に「舌平目のムニエル」「トマトとアボカドとキュウリのサラダ」「もやしの味噌汁」を作り、「カツオのタタキ」とともにいただきました サラダはmiminga33さんのレシピを参考にさせていただきました 食べ終わったあとでよく考えたら、肝心のレモン汁を入れるのを忘れていました 塩だけの味付けでも美味しかったのですが、やはりレモンを入れる方が美味しそうです 料理をする時は、あらかじめ必要な調味料は目の前に出しておかなくてはならないとつくづく思いました 次回の反省材料にします

 

     

 

         

 

昨夜、サントリーホール「ブルーローズ」で「サントリーホール  チェンバーミュージック・ガーデン」参加公演、エルサレム弦楽四重奏団「ベートーヴェン・サイクルⅢ」を聴きました プログラムはベートーヴェン①「弦楽四重奏曲 第4番 ハ短調 作品18-4」,②「同 第10番 変ホ長調 作品74『ハープ』」、③「同 第15番 イ短調 作品132」です

1日目が「第1番」「第7番」「第12番」、2日目が「第2番」「第8番」「第13番」の組み合わせだったので、番号順でいけば3日目は「第3番」「第9番」「第14番」となるはずですが、なぜか「第4番」「第10番」「第15番」と1番ずつ飛ばしています 「第15番」は1824~25年の作曲で5楽章制、「第14番」は1826年の作曲で7楽章制という点に着目し、実際の作曲年と楽章数を勘案したのかもしれません ちなみに4回目公演(10日)は「第3番」「第9番」「第14番」というカップリングになっています

 

     

 

初期の作品で一番人気の「第4番」、中期の魅力的な「第10番」、後期の充実した「第15番」のカップリングとあって、これまでで一番多くの聴衆が集まりました

1曲目は「弦楽四重奏曲 第4番 ハ短調 作品18-4」です この曲はルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770‐1827)が1798年から1800年にかけて作曲、後援者フランツ・ヨーゼフ・フォン・ロブコヴィッツ侯爵に献呈された6曲から成る弦楽四重奏曲(作品18ー1~6)のうちの1曲ですが、6曲のうち唯一の短調作品で 実質的に最後に作曲されました 第1楽章「アレグロ・マ・ノン・タント」、第2楽章「アンダンテ・スケルツォ・クアジ・アレグレット」、第3楽章「メヌエット:アレグロ」、第4楽章「アレグレット〜プレスティッシモ」の4楽章から成ります

4人の演奏で第1楽章に入りますが、冒頭から集中力に満ちたデモーニッシュな演奏が展開し、ハ短調の魅力を発揮します ハ短調と言えば「交響曲第5番”運命”」やピアノ・ソナタ”悲愴”と同じ調性です フーガ風に主題が提示される第2楽章も楽しめましたが、推進力に満ちた第4楽章で、前向きなベートーヴェンを感じました

2曲目は「弦楽四重奏曲 第10番 変ホ長調 作品74『ハープ』」です この曲は1809年に作曲、フランツ・ヨーゼフ・フォン・ロブコヴィッツ侯爵に献呈されました 第1楽章「ポコ・アダージョ」、第2楽章「アダージョ・マ・ノン・トロッポ」、第3楽章「プレスト」、第4楽章「アレグレット・コン・ヴァリアツィオ―二」の4楽章から成ります 第1楽章で、ピッツィカートによりアルペッジョが奏でられますが、ハープの響きに似ていることから「ハープ」という愛称で呼ばれています また、これまでの作品は、第1番~第6番が作品18として、第7番~第9番が作品59としてまとめて出版されたのに対し、この作品は単独で出版された最初の弦楽四重奏曲です

4人の演奏で第1楽章に入りますが、冒頭の緊張感に満ちた静謐な演奏が素晴らしい この楽章では、何より各楽器のピッツィカート奏法が冴えています 第2楽章では冒頭のヴァイオリン・ソロが聴かせます 第3楽章は、第5交響曲の「運命の動機」と同じメロディーが執拗に繰り返されます 第4楽章は変奏曲ですが、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲全16曲の中で「変奏曲」と称する唯一の楽章です ベートーヴェンは変奏曲を得意としているだけあって十分楽しめました

 

     

     

最後の曲は「弦楽四重奏曲 第15番 イ短調 作品132」です この曲は1824年から翌25年8月までウィーンで作曲され、1825年11月6日、ウィーンでシュパンツィヒ四重奏団によって初演されました 番号は「第15番」ですが、作曲年から言えば「第12番」の後に書かれた作品です 第1楽章「アッサイ・ソステヌート ~ アレグロ」、第2楽章「アレグロ・マ・ノン・タント」、第3楽章「モルト・アダージョ ~ アンダンテ」、第4楽章「アラ・マルチャ、アッサイ・ヴィヴァーチェ ~ ピゥ・アレグロ」、第5楽章「アレグロ・アパッショナート」の5楽章から成ります

この曲で面白いのは、第2楽章の中盤でバグパイプのような音色の音楽が聴けることです 4人の演奏は色彩感溢れる素晴らしいものでした

この作品の中心は全5楽章の真ん中に位置する第3楽章「モルト・アダージョ ~ アンダンテ」です この楽章は「病癒えた者の神への聖なる感謝の歌、リディア奏法で」と題されています ベートーヴェンはこの曲を作曲中、腸の疾病のため約1か月ほど作曲を中断していますが、この楽章にはその時の心境が反映していると言われています 古風なリディア旋法によりコラール旋律が繰り返されますが、「新しい力を感じて」と題されたパッセージが挟み込まれます 祈りのような旋律と高揚感溢れる旋律との対比が感動を醸し出します この後、第4楽章、第5楽章が演奏されますが、第1ヴァイオリンがリードして、というよりも、4人が対等の立場でベートーヴェンの後期の充実した作品を歌い上げます

満場の拍手に包まれた公演は午後9時13分に終了しました 次回 第4回目の公演は10日(木)です これまでのところ、エルサレム弦楽四重奏団に対する個人的な評価は、かなり高いです

 

     

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ベートーヴェン「弦楽四重奏曲第2番、第8番、第13番」を聴く~エルサレム弦楽四重奏団「ベートーヴェン・サイクルⅡ」:サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン

2021年06月08日 07時19分31秒 | 日記

8日(火)。いま住んでいるマンションの1階にイオン系のミニスーパーが入居していて、毎日便利に利用しているのですが、1週間ほど前から今月25日のリニューアル・オープンに向けて改装工事に入っています 不便だけれど、それまでは近所のコープで買い物をすればいいや、と思っていたら、そのコープが今日と明日の2日間休業し、改装工事をして10日にリニューアル・オープンするというチラシを配っていました 両店は言わばライバル同士で、過去にも開店時間が早いミニスーパーに対抗して、コープが開店時間を早めた経緯があります 小さなお店同士の顧客獲得競争ですが、民間はどこも生き残りのために必死ですね

ということで、わが家に来てから今日で2341日目を迎え、自民党の二階幹事長は7日の記者会見で、野党側が党首討論での菅義偉首相の答弁次第で内閣不信任決議案を提出する構えであることに対し、「覚悟を持って不信任案を出される場合はどうぞ。直ちに解散します」と述べ、衆院解散も辞さない構えであることを重ねて強調した  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

     オリンピック前に解散するの? 覚悟を持って言ってる? 2階の二階が気にかかる

 

         

 

昨日、夕食に「もやし巻き豚肉生姜焼き」「生野菜サラダ」「玉ねぎの味噌汁」を作りました 「もやし巻き豚肉生姜焼き」は本当はもやしのヒゲを取らなくてはならないのですが、面倒くさいので省きました 柔らかくて美味しかったです

 

     

 

         

 

昨夜、サントリーホール「ブルーローズ」で「サントリーホール  チェンバーミュージック・ガーデン」参加公演、エルサレム弦楽四重奏団「ベートーヴェン・サイクルⅡ」を聴きました プログラムはベートーヴェン①「弦楽四重奏曲 第2番 ト長調 作品18-2」、②「同  第8番ホ短調作品59-2『ラズモフスキー第2番』」、③「同 第13番 変ロ長調 作品130『大フーガ付』」です この日も、初期、中期、後期から1曲ずつ選ばれたプログラミングです

開場時間の6時半にサントリーホールに行ったら、ちょうど4人のメンバーが、マスクをして 半袖半ズボンのカジュアルなスタイルでカラヤン広場を横切り、ANAホテルに向かうところに遭遇しました メンバーの4人は特徴があるのですぐに分かりました コロナ禍なので六本木の繁華街までは散歩できなかったのではないかとお察しします

 

     

 

1曲目は「弦楽四重奏曲 第2番 ト長調 作品18-2」です この曲はルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770‐1827)が1798年から1800年にかけてフランツ・ヨーゼフ・フォン・ロブコヴィッツ侯爵に献呈した6曲の弦楽四重奏曲の1曲で、実質的に最初に作曲された作品です 第1楽章「アレグロ」、第2楽章「アダージョ・カンタービレ」、第3楽章「スケルツォ:アレグロ」、第4楽章「アレグロ・モルト・クアジ・プレスト」の4楽章から成ります

第2番となっていますが、作曲順からいうと第3番、第1番に次ぐ3番目の作品です 第1番が先輩のハイドンやモーツアルトの影響をさほど受けていないのに対し、この曲は明らかにハイドンの影響が見られます 4人の演奏で第1楽章に入りますが、冒頭は まるで知人同士が道端で会った時の挨拶のような曲想です ウィットに富んだ微笑ましい演奏でした 第2楽章は大好きな緩徐楽章です。第3楽章のスケルツォを演奏する4人は実に楽しそうです 第4楽章はユーモアを湛えた疾走感がたまりません

2曲目は「弦楽四重奏曲 第8番ホ短調作品59-2『ラズモフスキー第2番』」です この曲はウィーン駐在ロシア大使アンドレイ・ラズモフスキー伯爵の依頼により1805年から06年にかけて作曲した3曲の弦楽四重奏曲(作品59ー1~3)のうち2番目の作品です 第1楽章「アレグロ」、第2楽章「モルト・アダージョ」、第3楽章「アレグレット」、第4楽章「フィナーレ:プレスト」の4楽章から成ります

第1楽章冒頭の2つの和音と、後に続くミステリアスな音楽が印象に残ります この曲も第2楽章のアダージョが素晴らしい 第3楽章では中間部で現れるロシア民謡が印象的です これはベートーヴェンがパトロンのラズモフスキー伯爵を喜ばせるために入れたものです 第4楽章のフィナーレは馬で疾走するような爽快感がたまりません

 

     

 

最後の曲は「弦楽四重奏曲 第13番 変ロ長調 作品130『大フーガ付』」です この曲は1825年8月にウィーンで完成、1826年3月21日、ウィーンでシュパンツィヒ四重奏団によって初演されました 従来の4楽章形式を超えた6楽章形式をとるのが大きな特徴ですが、第2楽章は2分程度、第4楽章は3分程度の短い演奏時間となっています 第1楽章「アダージョ・マ・ノン・トロッポ」、第2楽章「プレスト」、第3楽章「アンダンテ・コン・モート・マ・ノン・トロッポ」、第4楽章「ドイツ舞曲風に:アレグロ・アッサイ」、第5楽章「カヴァティーナ:アダ―ジョ・モルト・エスプレッシーヴォ」、第6楽章「大フーガ」から成ります

この作品の初演時に、第6楽章「大フーガ」について「総合音楽新聞」が、「中国語のようにわけが分からない」と評したように、当時の聴衆は困惑したようです 楽譜の売れ行きを心配した出版者のアルタリアは、ベートーヴェンに対し、彼の仲間たちを介して、別のフィナーレを書くように依頼し、思慮の末、ベートーヴェンはこの申し出を受け入れ、分かり易いフィナーレ(アレグロ)を作曲しました そのため「大フーガ」は作品133として独立した番号が付されました 一般の聴衆の感覚よりも、ベートーヴェンが先を行き過ぎていたというエピソードです

4人の演奏で第1楽章に入りますが、目先が目まぐるしく変わる曲想で、ベートーヴェンがかなり自由に、そして柔軟に作曲した様子が窺えます この曲の魅力はやはり緩徐楽章です。第5楽章「カヴァティーナ:アダ―ジョ・モルト・エスプレッシーヴォ」こそ「祈りの音楽」です ベートーヴェンの頭にあったのは人間ではなく神ではなかったか、と思えるほど静謐で純粋な音楽です 抑制された美を感じる素晴らしい演奏でした この後、最終楽章「大フーガ」の演奏に入ります 4人は楽譜通りに演奏しているのですが、聴いていると、責めたてられているような印象を受ける厳しい演奏でした ベートーヴェンはなぜか初演を聴きに行かなかったそうですが、ベートーヴェンの友人でヴァイオリニストのカール・ホルツが、居酒屋で待っていたベートーヴェンのところに行って、「ドイツ舞曲(第4楽章)とカヴァティーナ(第5楽章)が嵐のような喝采を受けてアンコールしなければならないほどだった」と伝えたところ、ベートーヴェンは、「何だ、そういう美味しいこころだけか!どうしてフーガではなかったのだ」と怒りをあらわにしたといいます しかし、ベートーヴェンの死後194年も経った現在でも、音楽の楽しさよりも厳しさを感じる「大フーガ」を、当時の聴衆のどれほどの人たちが理解できたか、非常に疑問に思います

「大フーガ」の4人の演奏は「厳しいものだった」と書きましたが、もちろん、曲そのものが「厳しい」のですから当然そのような演奏になります 別の言葉で言えば、終始 集中力に満ちた素晴らしい演奏でした

終演は午後9時23分でした。今日は弦楽四重奏曲第4番、第10番、第15番を聴きます

 

     

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ベートーヴェン「弦楽四重奏曲第1番、第7番、第12番」を聴く ~ エルサレム弦楽四重奏団「ベートーヴェン・サイクルⅠ」:サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン

2021年06月07日 07時10分55秒 | 日記

7日(月)。わが家に来てから今日で2340日目を迎え、トランプ前米大統領は5日、ノースカロライナ州の共和党大会で、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記との史上初の米朝首脳会談について「金正恩氏は毛色の変わった人物であり、彼と話すには毛色の変わった人物でないといけない」とジョークを交えながら回顧した  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

     毛色だけじゃなくて 傲慢な性格は 二人ともよく似ている お互いに気が合うはずだ

 

         

 

昨夜、サントリーホール「ブルーローズ」で「サントリーホール  チェンバーミュージック・ガーデン」参加公演「エルサレム弦楽四重奏団『ベートーヴェン・サイクルⅠ』」を聴きました このシリーズは一つの弦楽四重奏団がベートーヴェンの弦楽四重奏曲(全16曲)を演奏するもので、今回はその第1回目です 演奏するエルサレム弦楽四重奏団は1993年に結成、96年にデビューしたイスラエル出身の弦楽四重奏団で、2021年で活動25周年を迎えます メンバーは第1ヴァイオリン=アレクサンダー・パブロフスキー、第2ヴァイオリン=セルゲイ・プレスラー、ヴィオラ=オリ・カム、チェロ=キリル・ズロト二コフです。この日のプログラムはベートーヴェン①弦楽四重奏曲 第1番 ヘ長調 作品18-1、②同 第7番 ヘ長調 作品59-1「ラズモフスキー 第1番」、③同 第12番 変ホ長調 作品127です

ベートーヴェンの弦楽四重奏曲は次の4つの創作期に分けることが出来ます

①第1期(初期):1798年夏〜1800年夏=作品18(第1~第6番)

②第2期(中期前半):1806年4月~11月=作品59(第7~第9番)

③第3期(中期後半):1809年夏〜10年秋=作品74,95(第10、11番)

④第4期(後期):1824年5月~26年11月=作品127,130~132(133)、135(第12〜16番)

今回のエルサレム弦楽四重奏団のプログラムは、初期、中期、後期のそれぞれ一番最初の作品をカップリングしたものになっています これは2日目以降の公演でも同様です

 

     

 

座席は通常配置ですが、センターブロックを中心にかなり埋まっています。全体で8割位の入りでしょうか 私がブルーローズで聴くのは、おそらく2年前のチェンバーミュージック・ガーデン以来です ステージ中央の4人の椅子の手前には集音マイクが2本立てられています 記録のためか、放送のためか、不明です

4人のメンバーが配置に着きます。左から第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラというオーソドックスな並びです ヴァイオリンの2人は通常の楽譜を、チェロとヴィオラの2人は電子ブックを見て演奏するようです 電子ブック(デジタル楽譜)はフットスイッチでページをめくります

1曲目は「弦楽四重奏曲 第1番 ヘ長調 作品18-1」です ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770‐1827)は彼の後援者フランツ・ヨーゼフ・フォン・ロブコヴィッツ侯爵の依頼により1798年から1800年にかけて6曲から成る弦楽四重奏曲(作品18の1~6)を作曲、同侯爵に献呈しました なお、完成されたのは第3、第1、第2、第5、第6、第4番の順なので、第1番は実質的に2番目の曲となります 第1楽章「アレグロ・コン・ブリオ」、第2楽章「アダージョ・アフェットゥーソ・エド・アパッショナート」、第3楽章「スケルツォ:アレグロ・モルト」、第4楽章「アレグロ」の4楽章から成ります

演奏は、2番目に作曲したのに、あえて「第1番」としたベートーヴェンの意欲を反映したかのような起伏の大きな演奏で、どちらかというと、美しく演奏するよりも、ベートーヴェンらしい強さを前面に出したような演奏でした それが際立っていたのは第3楽章のスケルツォでした また、シェイクスピアの「ロメオとジュリエット」の墓場のシーンを思い浮かべて作曲した第2楽章の演奏がドラマティックで印象的でした

2曲目は「弦楽四重奏曲 第7番 ヘ長調 作品59-1『ラズモフスキー 第1番』」です ベートーヴェンは1805年から06年にかけてウィーン駐ロシア大使アンドレイ・ラズモフスキー伯爵の依頼により3曲から成る弦楽四重奏曲(作品59ー1~3)を作曲しました この曲はその1曲目に当たります。第1楽章「アレグロ」、第2楽章「アレグレット・ヴィヴァーチェ・エ・センプレ・スケルツァンド」、第3楽章「アダージョ・モルト・エ・メスト」、第4楽章「テーマ・ルッセ:アレグロ」の4楽章から成ります

第1楽章冒頭の独奏チェロが素晴らしい 雄渾な演奏でこの曲のスケールの大きさをほんの数小節で明らかにします そして、何と言っても素晴らしいのは第3楽章のアダージョです ベートーヴェンの弦楽四重奏曲で一番魅力を感じるのは緩徐楽章と言っても過言ではありません しみじみと良い演奏でした そして第4楽章のフィナーレにおける一気呵成の畳みかけも見事でした

 

     

 

休憩後は「弦楽四重奏曲 第12番 変ホ長調 作品127」です この曲はロシア貴族ニコライ・ゴリツィン公爵の依頼により1823年から24年にかけて作曲、1825年3月6日、ウィーンでシュパンツィヒ四重奏団によって初演されました 第1楽章「マエストーソ~アレグロ」、第2楽章「アダージョ・マ・ノン・トロッポ・エ・モルト・カンタービレ」、第3楽章「スケルツァンド・ヴィヴァーチェ」、第4楽章「フィナーレ」の4楽章から成ります

第1楽章から、4人は懐の深い演奏をします 第2楽章のアダージョはベートーヴェン得意の「変奏曲」ですが、音色の変化が素晴らしい この楽章の演奏がこの日の白眉と言っても良いほどでした 第4楽章のフィナーレは息の合ったアンサンブルが見事でした

アナウンスに従い、コロナ感染拡大防止措置に伴う分散退場により会場を後にしたのは9時20分を過ぎていました 今日は第2番、第8番、第13番を聴きに行きます

 

     

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

キム・チョヒ監督「チャンシルさんには福が多いね」を観る 〜 レスリー・チャン似の幽霊が前向きな人生を後押し

2021年06月06日 07時10分00秒 | 日記

6日(日)。わが家に来てから今日で2339日目を迎え、米フェイスブック(FB)は4日、同社が今年1月にトランプ大統領(当時)のFBのページやインスタグラムのアカウントを「無期限の停止」としていた措置について「2年間の凍結」に変更すると発表したが、停止期間の終了時には再度審査があり、停止期間が延長される可能性や、深刻な規約違反があれば「アカウントの永久削除」を含めた厳正な措置があり得るとした  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

     こういう厳しい規制を受ける人間が4年間 米国の大統領だったことに 改めて驚く

 

         

 

昨日、ギンレイホールでキム・チョヒ監督による2019年製作韓国映画「チャンシルさんには福が多いね」(96分)を観ました

入館に際して、「ギンレイ  シネ パスポート(個人カード)」の有効期限が今月12日に切れるので、更新の手続きをしました 本来は4月12日に期限が切れていたのですが、コロナ禍に伴う休業期間2か月間分が延長されたため6月となったのです 事前に送られてきた「更新通知」ハガキと現金11,000円で1年間更新しました 私の場合は数年前からずっと継続しているので有効期間が13か月となります ギンレイホールは「2本立て:2週間上映サイクル」なので、計算上は年間52本の映画がいつでも何回でも観られます 1本当たり212円は安すぎます

さて、物語は・・・

映画プロデューサーのチャンシル(カン・マルグム)は、ずっと支えてきた映画監督が急死したため失業してしまう 人生の全てを映画に捧げてきた40歳の彼女には家も恋人も子供もなく、青春さえも棒に振ってきたことに気づく そんな彼女に思わぬ恋の予感が訪れる。失業したチャンシルは女優ソフィー(ユン・スンァ)の家政婦として働くことになり、そこでフランス語を教えるキム・ヨン(ぺ・ユラム)と出会う。35歳のキムは映画監督だが、生活のためアルバイトで教師をしていた。「この人こそ」と思ったチャンシルは思い切って告白するが、「お姉さんと思っている」と言われてしまい、落ち込む しかし、自称レスリー・チャンの幽霊(キム・ヨンミン)に励まされながら、かつての映画スタッフ達と新しい映画を作ろうと前を向いて歩く

 

     

 

この映画は、長年にわたりホン・サンス監督作品のプロデューサーを務めてきたキム・チョヒが初メガホンを取り、自身の体験を投影させながら描いたラブ・コメディーです

冒頭は映画完成の打ち上げのシーンで、監督とスタッフたちが、ジャンケンで負けた者が焼酎一気飲みの罰を受けるというゲームに興じています 監督が飲み過ぎて急死してしまうのですが、バックに流れているのがショパンの「葬送行進曲」なのです 大げさな選曲・演奏に思わず笑ってしまいました

チャンシルがキム・ヨンを誘って飲みに行きますが、映画談義になり、チャンシルが「私は小津安二郎の映画が一番好きです」と言うと、キム・ヨンが「彼の映画は何も起こらないから面白くない」と返します。すると、チャンシルは「何も起こらないって何ですか   あの映画の良さが分からないんですか」と怒ってしまいます。すると、キム・ヨンは「ぼくはノーランが好きです」と言います。「バットマン」シリーズや「インセプション」などで有名なクリストファー・ノーランです。チャンシルは「ふーん」と鼻を鳴らします この辺は、同じ映画人でも趣味嗜好は一人一人違うことが良く表れています

この映画で面白いのは、白のランニングシャツに半ズボン姿の男がチャンシルの前に登場し、「レスリー・チャンです」と自己紹介しますが、「彼はとっくに死んでるし。全く似てないし」と言われてしまうシーンです 実は 彼はチャンシルにしか見えない幽霊で、時々彼女の前に現れてはアドヴァイスをしてくれる貴重な存在なのです 「チャンシルさんには福が多い」のは彼が後押ししているからではないかと思います   ちなみに、この役を演じたキム・ヨンミンはNetflixドラマ「愛の不時着」の出演者とのことです

この映画は基本的にコメディーなので面白可笑しいのですが、笑いの中にペーソスもあって、不器用なチャンシルを応援したくなる とてもいい映画だと思いました

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

清水ハン栄治監督「トゥルーノース」を観る 〜 脱北者の証言に基づき北朝鮮の強制収容所の実態を暴く長編3Dアニメーション:TOHOシネマズシャンテ

2021年06月05日 07時20分05秒 | 日記

5日(土)。わが家に来てから今日で2338日目を迎え、北朝鮮の朝鮮労働党が1月の党大会で党規約を改正し、故金日成主席と故金正日総書記の名や、2人にまつわる用語を大幅に削除したことが判明したが、金正恩総書記が独自色を打ち出して統治を強化しようとする動きとみられる  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

     祖父と父から独り立ちするのはいいけど  飢えに苦しむ国民の生活をどう守るのか

 

         

 

昨日、夕食に「鶏の唐揚げ」を作りました あとは「エシャレットとキュウリのおつまみ」です。味噌をつけて食べます。唐揚げは2週間に1度がほぼ定着しましたが、栗原はるみ先生のレシピによる「うまみ醤油」が沁み込んで美味しかったです 2週間後のためにニンニク、ショウガ、削り節を醤油に漬けて新しく作って冷蔵庫で冷やしました

     

 

         

 

昨日、TOHOシネマズシャンテで清水ハン栄治監督による2020年製作日本・インドネシア合作映画「トゥルーノース」(3Dアニメーション・94分)を観ました

1950年代から始まった在日朝鮮人の帰還事業により北朝鮮に渡ったヨハンの家族は、1995年、両親と幼い妹とともに金正日体制下の北朝鮮の平壌で暮らしていた しかし、父親が政治犯の疑いで逮捕されたことにより、母子は強制収容所に入れられる 極寒の収容所での苛烈な生活に耐え忍びながら、家族は何とか生き延びていたが、収容所内の食糧確保によるトラブルによって母が殺害され、自暴自棄になったヨハンは次第に追い詰められていく そんなヨハンは、死に際に母が遺したある言葉により、本来の自分を取り戻していく

 

     

 

この映画は、1970年生まれの在日コリアン4世・清水ハン栄治監督が、収容体験を持つ脱北者や元看守にインタビューを行い、10年の歳月をかけて作り上げた長編3Dアニメーション作品です

母親と娘は人に優しくすることを忘れませんが、苛酷な労働と厳しい相互監視社会の中で、ヨハンは次第に優しい心を失っていきます そんなヨハンに母は「誰が正しいとか、間違っている、じゃないの。誰になりたいかを自分に問いなさい」と言い残して息を引き取ります その時、ヨハンは幼い頃、政治犯として逮捕され連れ去られた父親を思い出したかもしれません。何の罪もない人々を苦しめて平然としている体制側の人間には絶対になるまいと決心したかもしれません。そして、何より「人間の尊厳」とは何かを深く考えたに違いありません

映画の最後に「現在でも、北朝鮮の政治犯の強制収容所には12万人もの人々が収容されていると推測される」というテロップが流れます 金日成 ⇒ 金正日 ⇒ 金正恩 と最高支配者が変わっても、「金一族の世襲」による政治支配を否定・批判する人間は許さないという方針は一貫して変わらないようです 考えてみれば恐ろしいことです。北朝鮮では国家の名のもとに、支配者にたてつく人間は強制収容所に送り、強制的に苛酷な労働をさせるのですから そして、脱北すれば残された家族が収容所に送られ、脱北に失敗すれば公開処刑されるのですから

清水ハン栄治監督は5月18日の外国特派員協会でのインタビューで、この映画を撮った一番の目的は、「人々に『(12万人の収容者を)なんとかしなくてはならない』という気持ちを起こしたかったから」と語っています その意味では、北朝鮮でこれまで何が為されてきたか、現在 何が起こっているかを、この映画を通して周囲の人々に伝えていくことが大切だと思います

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

SCMGヘーゲンボルク・トリオ演奏会 ⇒ 6日後に延期 / ディアオ・イーナン監督「鵞鳥湖の夜」を観る 〜 自身にかけられた報奨金を妻子に残すべく画策する男の末路:早稲田松竹

2021年06月04日 07時02分15秒 | 日記

4日(金)。だいぶ暑くなってきたので、昨日朝、家を出る時に半袖にするか長袖にするか迷いました 短時間で長考のうえ長袖で出かけることにしました 山形県鶴岡市に単身赴任している息子に、池袋のSデパートの今半から「ステーキ&ひと口 ステーキ」セットを送りました🥩 毎日自炊している息子に、普段は食べないだろう一品を数か月に一度 送るようにしています その帰り、喫茶店に入って新聞を読んだのですが、寒いのです 陽気が暑いということに加え、現在はコロナ禍の関係で空調をきつ目に入れている店が多いので、なおさら寒いのです 半袖だったら風邪を引いていたことでしょう 朝の判断が正解だったことになります これは喫茶店に限らず、コンサート会場でも、映画館でも、寒く感じることが少なくありません 6月は衣替えの季節ですが、私はまだ長袖シャツをしまっていません

ということで、わが家に来てから今日で2337日目を迎え、香港で民主派団体が5月30日にリニューアルオープンしたばかりの天安門事件の記念館が2日、当局の指導で閉館したというニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

     中国にとって「不都合な真実」は 無かったことにするのが 習近平政権の方針だよ

 

         

 

昨日、夕食に「ラタトゥイユ」と「キャベツの中華スープ」を作りました 「ラタトゥイユ」は数年前に息子が作ってくれて美味しかったので、真似をして作ってみたのが最初で、今回は3~4回目位の挑戦です 脇雅世先生のレシピですが、野菜によって火の通り方が異なるので、一口大に切ったズッキーニ、パプリカ、玉ねぎ、ナス、トマトを1種類ずつオリーブ油で炒めてから、ニンニク、ロリエ、塩小さじ3分の2を加えてじっくり煮込みました 手間がかかっただけあってとても美味しく出来ました

 

     

 

         

 

サントリーホールから、6月に「ブルーローズ」で開かれる「サントリーホール  チェンバーミュージック・ガーデン」のうち6月20日と21日の「ヘーデンボルク・トリオ ベートーヴェン&ブラームス」公演が、コロナ禍に係る入国制限措置の関係で従来の日程での開催ができなくなったため、それぞれ6日間ずらして開催することになったーという通知が届きました 20日公演は26日(土)14:30開演に、21日公演は27日(日)19:00開演に変更となるとしています 手元のチケットで入場できるとのこと。なお、払い戻しは6月4日から7月31日まで受け付けるとしています

はっきり言って、本当に迷惑な話です 私の場合は、すでに22日(火)19時開演の「キュッヒル・クァルテット」公演が25日(金)19時開演に変更されたことにより、同日は14時開演の「フォルテピアノ・カレイドスコープ」とハシゴになっています さらに今回の変更により、27日(日)は14時開演の「ガーデン・フィナーレ」公演とハシゴになってしまいます

せっかく、1日に2回以上コンサートが入らないように計画的にチケットを取っているのに、これでは台無しです 両公演とも、払い戻しを含めて慎重に検討したいと思います

 

     

 

         

 

早稲田松竹でディアオ・イーナン監督による2019年製作中国・フランス合作映画「鵞鳥湖の夜」(111分)を観ました

物語の舞台は2012年の中国南部。再開発から取り残された鵞鳥湖(がちょうこ)周辺の地域で、ギャングたちの縄張り争いが激化していた 刑務所を出て古巣のバイク窃盗団に戻ったチョウ(フー・ゴー)は、対立組織との抗争に巻き込まれ、逃走中に誤って警官を射殺してしまう 全国に指名手配されたチョウは、自身にかけられた報奨金30万元を妻子に残すべく画策する。そんな彼の前に、見知らぬ女アイアイ(グイ・ルンメイ)が妻の代理としてやってくる。鵞鳥湖の水辺で娼婦として生きる彼女と行動を共にするチョウだったが、警察や報奨金強奪を狙う窃盗団に追われ、後戻りできない袋小路へと追い詰められていく

 

     

 

「薄氷の殺人」で謎の未亡人ウーを演じたグイ・ルンメイが、この作品でもキーになる女性を演じています タバコを吸うシーンが多く出てきますが、娼婦であるアイアイの口癖は「お兄さん、火を貸して?」です この言葉から会話のきっかけを作り、相手との距離を縮めていきます

「それにしてもよく似ているなあ」と思うのは、チョウを演じたフー・ゴーが日本の俳優・阿部寛にソックリなのです

チョウは最後に警察に追い詰められた挙句、撃たれて命を落としますが、ラストシーンを見ると 報奨金は無事にアイアイが受け取り チョウの妻に渡されるようです 自分が死ぬのは計算外だったでしょうが、チョウの所期の目標は達成されたとみるべきでしょう

この映画の舞台は中国南部とされていますが、実際に撮影されたのは湖北省武漢市とのことです 武漢市といえば新型コロナウイルス発祥の地として世界中に名を轟かせましたが、撮影当時 そんなことは知る由もなかったでしょう

 

     

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

新国立オペラ「カルメン」 ⇒ ドン・ホセ役の出演者変更 / ディアオ・イーナン監督「薄氷の殺人」を観る 〜 連続バラバラ死体事件の犯人は誰か:早稲田松竹

2021年06月03日 07時08分30秒 | 日記

3日(木)。新国立劇場から7月3日開催の「カルメン」初日公演のチケットが送られてきましたが、出演者変更のお知らせが同封されていました 「ドン・ホセ役に出演を予定していたミグラン・アガザニアンは、本人の都合により出演できなくなった。代わって村上敏明が出演する」としています 時々「本人の都合により」という理由が書かれますが、本当のところは「日本はオリンピックを”安心・安全に”開くと言ってはいるが、新型コロナのワクチン接種もロクに進んでいない国に行って歌おうとはとても思えない」ということではないか、と勘繰っています

ということで、わが家に来てから今日で2336日目を迎え、中国国家衛生健康委員会は1日、世界で初めて、鳥インフルエンザ「H10N3型」ウイルスの人への感染が確認されたと発表したが、同委員会は「偶発的な感染で、大規模な流行するリスクは極めて少ない」としている  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

     新型コロナの感染源を考えると 中国の説明は信用できない 情報公開を求めるべき

 

         

 

昨日の夕食は「すき焼き」にしました たまにはすき焼きもいいですね

 

     

 

         

 

昨日、早稲田松竹でディアオ・イーナン監督による2014年製作中国・香港合作映画「薄氷の殺人」(106分)を観ました

早稲田松竹は緊急事態宣言の関係で休業が続いていたので、2月16日に韓国映画「吠える犬は噛まない」と「子猫をお願い」の2本立てを観て以来、3か月半ぶりです 言うまでもなく座席は市松模様配置です

「薄氷の殺人」の物語の舞台は1999年の中国・華北地方。一人の男の切断された死体が、6つの都市にまたがる15か所の石炭工場で次々と発見されるという事件が発生した 刑事のジャン(リャオ・ファン)が捜査を担当するが、容疑者の兄弟が逮捕時に抵抗して射殺されてしまい、真相は闇の中に葬られてしまう それから5年後、警察を辞め、しがない警備員として暮らしていたジャンは、警察が5年前と似た手口の事件を追っていることを知り、独自に調査を開始する 被害者はいずれも 若く美しいウー(グイ・ルンメイ)という女性と親密な関係があったことが分かる 彼女は1999年の事件で犠牲になったリアン(ワン・シュエピン)の妻だった。妻と別れて独り身のジャンもウーに惹かれていく

 

     

 

【以下ネタバレ注意】

リアンは強盗に押し入り殺人事件を起こしましたが、警察から逃れるため、殺した男に自分の身分証明書を持たせて、自分が死んだことにして潜伏し、妻ウーを監視し、彼女に近づく男たちを次々と殺めていたのです しかし、ジャンは1999年の最初の殺人だけは腑に落ちないものがあり、ウーが努めるクリーニング店に1999年から引き取り手のない皮の上着があって、ウーと顧客との間にトラブルがあり、その後、その客が店に来なくなったことを突き止めます 実はクリーニングを巡って賠償しろとしつこく迫られたウーが顧客を殺して、リアンがバラバラにして遺棄したのです

ウーを演じたグイ・ルンメイが、どこか儚げで魅力的です また、真相を知ったジャンがウ―に、自分が殺したと自白するよう説得した後、ダンスのレッスン室のようなところで、音楽に合わせて一人で踊り狂いますが、自分の愛する女性を逮捕させてしまったことへの後悔と、それを忘れたいという思いが錯綜しているようで、とても印象的でした

また、映画のラストで、警察に連行されるウーが乗った車に花火が襲いかかりますが、ジャンのウーに対する最後の別れの愛情表現だと思います ウーがクスリと笑うシーンが微笑ましい

ところで、リアンはいつもアイススケート靴を肩にかけて歩いていることから、スケートをするシーンが多く出てきますが、流れているBGMはお約束のようにワルトトイフェル「スケーターズ・ワルツ」とヨハン・シュトラウスⅡ世「美しく青きドナウ」です

本作品は2014年、第64回ベルリン国際映画祭で最高賞の金熊賞と男優賞をダブル受賞しています 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

バッハ・コレギウム・ジャパン5月度定期 ⇒ 8月7日に延期 / 碓井広義編「少しぐらいの嘘は大目に 向田邦子の言葉」を読む ~ 独特のリズムを持った切れ味鋭い文章の秘密

2021年06月02日 07時14分32秒 | 日記

2日(水)。バッハ・コレギウム・ジャパンから5月7日(金)の定期演奏会延期の通知が届きました 東京公演は8月7日(15時から東京オペラシティコンサートホール)に延期されます 手元のチケットで入場できるとのことです 私は残念ながら、当日「フェスタサマーミューザ」の日本フィルのコンサートの予定が同じ時間に入っているので聴きに行けません フェスタサマーミューザは9日までなので、どうせなら10日以降に延期すればよかったのに・・・と思いますが、会場の手配とかいろいろと問題があるのでしょう 残念ですが仕方ありません

ということで、わが家に来てから今日で2335日目を迎え、テニスの大坂なおみ選手は選手の精神状態が軽視されていると訴え、全仏オープン開幕前に記者会見に応じない意向を表明、30日の1回戦勝利後、記者会見を拒否して1万5000ドル(約165万円)の罰金を科せられたが、31日、2回戦を棄権すると自身のツイッターで表明した  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

     トップアスリートでなければ解らないプレッシャーと 毎日闘っているんだと思う

 

         

 

昨日は、夕食に「鮭の粕漬け焼き」「タコの山掛け」「浅漬け」「もやしとワカメの味噌汁」を作りました 火曜日は魚がメインです

 

     

 

         

 

碓井広義編「少しぐらいの嘘は大目に  向田邦子の言葉」(新潮文庫)を読み終わりました 向田邦子は1929年、東京生まれ。実践女子専門学校(現・実践女子大学)卒。人気テレビ番組「寺内貫太郎一家」「阿修羅のごとく」など数多くの脚本を執筆する。1980年「想い出トランプ」に収録の「花の名前」他2作で直木賞受賞 エッセイに「父の詫び状」などがある。1981年8月22日、台湾旅行中、飛行機事故で死去

碓井広義は1955年、長野県生まれ。メディア文化評論家。慶応義塾大学法学部政治学科卒。1981年にテレビマンユニオンに参加。2020年3月まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)を務めた

 

     

 

そもそも私が向田邦子の作品を読むようになったのは、娘が実践女子大学付属女子高校に推薦入学してからです 最初は「父の詫び状」「眠る盃」「夜中の薔薇」などの名エッセイを読んで、その文章に魅せられ、「阿修羅のごとく」「あ・うん」「蛇蝎のごとく」などの小説を読み、さらに「寺内貫太郎一家」「冬の運動会」などの脚本を読み進め、増々向田ワールドにのめり込んでいきました 「阿修羅のごとく」はテレビでも観たし、映画でも観ました 向田作品はほぼすべて読んでいます

向田邦子の文章の大きな特徴は、基本的に「である調」で書かれた男性的な文章です さらに、独特のリズムを持った無駄のない切れ味鋭い文章です。彼女の文体を真似しようと思っても出来ません 私にとって手本となる文章は向田邦子です

 

     

 

碓井広義氏は「はじめに」の中で、向田邦子の書く文章について次のように紹介しています

「文学から政治まで、辛辣な言辞を吐くことで知られるご意見番、山本夏彦が評した『突然あらわれてほとんど名人』という言葉に、彼女への賛辞と驚きが端的に表れている 人気ドラマの脚本家であり、名エッセイスト、そして直木賞受賞作家

本書は、編者である碓井氏が向田作品(小説、エッセイ、脚本)の中から選んだ370余りの「ことば」を紹介したものです 「ことば」は次の6つのテーマに分けて収録されています。

第1章「男と女の風景」・・・見栄はらないような女は、女じゃないよ

第2章「家族の風景」・・・どこのうちだって、ヤブ突つきゃヘビの1匹や2匹

第3章「生きるということ」・・・七転八倒して迷いなさい

第4章「自身を語る」・・・私は極めて現実的な欲望の強い人間です

第5章「向田邦子の『仕事』」・・・嘘をお楽しみになりませんか?

第6章「食と猫と旅と」・・・好きなものは好きなのだから仕方がない

向田邦子が一貫して書いてきたのは「男と女」であり「家族」であり「食」であるので、この章立てには納得します

それぞれの章で特に印象に残った「ことば」をご紹介します

〇女の話には省略がない

〇水商売ってのは7年やれば一人前だけど、結婚てのは7年じゃ駄目なのかねえ

〇一番か。しからずんばビリか。どっちかでなくては気のすまない人が多い。だが、この頃になって、本当に怖いのは二番の人ではないかと思うようになった 一番は、軍旗を持って格好良く飛び出すが、タマにあたって壮烈な戦死を遂げる率が高そうだ 競輪でも、先頭切る選手は風圧でバテてしまう。最後に笑うのは、二番手につけておいて、土壇場で追い抜く人ではないだろうか

〇決断するということは、小さいものを切り捨てるということですよ

〇栄枯盛衰は時のならいだ、人間の価値とは関係なし

〇「人間はその個性に合った事件に出逢うものだ」という意味のことをおっしゃったのは、たしか小林秀雄という方と思う。さすがにうまいことをおっしゃるものだと感心をした 私は出逢った事件が、個性というかその人間をつくり上げてゆくものだと思っていたが、そうではないのである。事件の方が、人間を選ぶのである

〇思い出はあまりムキになって確かめない方がいい 何十年もかかって、懐かしさと期待で大きくふくらませた風船を、自分の手でパチンと割ってしまうのは勿体ないではないか

〇世の中で自分ひとりがすぐれている。私のすることに間違いなどあるわけがない。違っているのは相手であり世間である。天上天下唯我独尊は、お釈迦様ならいいが、凡俗がやると漫画である

〇私は「清貧」という言葉が嫌いです。それと「謙遜」という言葉も好きになれません。私のまわりには、この言葉を美しいと感じさせる人間がいなかったこともあります 少しきつい言い方になりますが、私の感じを率直に申しますと、清貧はやせがまん、謙遜はおごりと偽善に見えてならないのです。清貧よりは欲ばりのほうが性に合っていますし、へりくだりながら、どこかで認めてもらいたいという感じをチラチラさせ、私は人間が出来ているでしょう、というヘンに行き届いたものを匂わせられると、もうそれだけで嫌気がさして、いっそ見栄も外聞もなく、お金が欲しい、地位も欲しい、私は英語が出来るのよ、と正直に言う友人の方が好きでした

〇自分に似合う、自分を引き立てるセーターや口紅を選ぶように、ことばも選んでみたらどうだろう ことばのお洒落は、ファッションのように遠目で人を引きつけはしない。無料で手に入る最高のアクセサリーである。流行もなく、一生使えるお得な「品」である ただし、どこのブティックをのぞいても売ってはいないから、身につけるには努力がいる 本を読む。流行語は使わない。人真似をしない・・・何でもいいから手近なところから始めたらどうだろうか。長い人生でここ一番というときにモノを言うのは、ファッションではなくて、ことばではないのかな

〇自由は、いいものです。ひとりで暮らすのは、すばらしいものです でも、とても恐ろしい、目に見えない落とし穴がポッカリと口をあけています それは、行儀の悪さと自堕落です。自由と自堕落を、一緒にして、間違っているかたもいるのではないかと思われるくらい。これは裏表であり紙一重のところもあるのです

〇おそばのタレは、たっぷりとつけたい。たっぷり、というよりドップリといった方がいい。野暮と笑われようと田舎者とさげすまされようと、好きなものは好きなのだから仕方がない

〇カレーライスとライスカレーの区別は何だろう カレーとライスが別の容器で出てくるのがカレーライス。ごはんの上にかけてあるのがライスカレーだという説があるが、私は違う 金を払って、おもてで食べるのがカレーライス。自分の家でたべるのが、ライスカレーである。厳密にいえば、子どもの日に食べた、母の作ったうどん粉のいっぱい入ったのが、ライスカレーなのだ

〇お恥ずかしい話だが、私は平常心をもってメロンに向き合うことが出来ない なんだこんなもの。偉そうな顔をするな。たかが、しわの寄った瓜じゃないか、と無理して見下す態度をとりながら、手は、わが志を裏切って、さも大事そうに、ビクビクしながら、メロンを取り扱っている

まだまだ、挙げればきりがないのでこの辺にしておきます

最後に、碓井氏が向田邦子のエッセイ集「男どき女どき」に収録の「無口な手紙」で書いている「望ましい手紙」について解説した文章をご紹介しておきます

「『簡潔、省略、余韻、この3つに、いま、その人でなければ書けない具体的な情景か言葉が、ひとつは欲しい』とあるが、これは向田が書く全ての文章に共通することだとも言える 誰もが見逃してしまいそうな日常的事象を、独自の角度からすくい上げることで、隠されていた『何か』を見せてくれる彼女のエッセイはその真骨頂かもしれない

今年=2021年8月22日、向田邦子は40周忌を迎えます

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする