5日(水).昨日の朝日朝刊「文化面」に「ホール被災 乗り越えて」と題する記事が載りました。「仙台フィルは、20年以上使ってきた市民センターが東日本大震災を被災して休館となり、仙台市青葉区の住宅地にある東昌寺で練習している」という内容です。写真はお寺の本堂での練習風景です。このお寺は団員の実家とのこと。宮城、福島、岩手の文化ホールは使用できない状態にあるといいます。何とか練習場を確保しようという意欲が、お寺の本堂に繋がったのでしょう。お寺の本堂なら適度に残響もあり、案外いいかもしれません。大管弦楽の音の中で,仏様も”知らぬが仏”とホットケないでしょう
さて、昨夕,東京オペラシティコンサートホールで仙台フィルハーモニー管弦楽団の東京公演を聴いてきました これは「アジア オーケストラ ウィーク 2011」の一環として”わかちあうシンフォニー”の名のもとに開かれたもので,ニュージーランドからは2月22日に大地震の被害を受けた地元のクライストチャーチ交響楽団が,日本からは3月11日に東日本大震災で被災した宮城県の仙台フィルが,そして被災に対し早期に支援を表明した韓国からは大邸(テグ)市立交響楽団が参加しています 10月2日に大低市立交響楽団が,3日にクライストチャーチ交響楽団が,4日に仙台フィルがオペラシティ・コンサートホールで演奏します.スケジュールの関係ですべては聴けないし,同じ日本人として支援をする意味で仙台フィルを選びました 座席は1階18列11番という中央ブロック通路側です.
仙台フィルは1973年に市民オーケストラ「宮城フィルハーモニー管弦楽団」としてスタートし,78年にプロ・オケとして活動を開始,89年に現在の「仙台フィルハーモニー管弦楽団」と改称しました.昨年10月には第250回の定期演奏会を開いたといいます.3月11日の大震災を受けて「音楽の力による復興センター」を立ち上げ,復興に向けて演奏活動を続けているとのことです
オーケストラを見ると顔なじみの演奏家が2人いました.一人は東京シティフィルのコンサートマスター戸澤哲夫,もう一人は東京フィルの首席ヴィオラ須田祥子です.あらためてプログラムを見ると,それぞれ客員コンサートマスター,客員首席ヴィオラと紹介されていました.
プログラムは①片岡良和「抜頭によるコンポジション」②ベートーヴェン「ピアノ協奏曲第4番」③ショスタコーヴィチ「交響曲第5番」の3曲.指揮は2009年から仙台フィル正指揮者の山下一史,ピアノは1982年仙台市生まれの津田裕也です.
1曲目の「抜頭によるコンポジション」を作曲した片岡良和は宮城フィルハーモニー管弦楽団の創立者で,現在,仙台フィルの副理事長とのこと.「抜頭によるコンポジション」は雅楽「抜頭」をヒントに作曲したもので,極めて日本的な,民族色豊かな曲です 演奏後,私の5つ前の席の男性が立ち上がり拍手に応えていました.作曲者本人でした.
2曲目のベートーヴェン「ピアノ協奏曲第4番」はある意味画期的な曲です.それまでは,協奏曲と言えばまず前奏があって,その後やっとピアノが出てくるのが普通でした.その常識を覆して,この曲は冒頭からピアノ独奏で始まります.この曲が交響曲第5番”運命”とともに初演されたことも大きな意味があるでしょう
津田裕也はたしか,仙台国際音楽コンクール・ヴァイオリン部門優勝者クララ・ジュミ・カンのリサイタルの時に伴奏を務めたピアニストです.地味な存在ですが,しっかりした音楽作りをします.盛んにを受けていました.
ショスタコーヴィチ「交響曲第5番」は,当時スターリン体制のもと自由な芸術活動が認められず,第5交響曲では”伝統的で大衆に分かりやすい”曲作りをしました.そうは言うものの名曲には違いありません
山下一史のタクトが振り下ろされ”苦悩の第1楽章”とでもいうべき音楽が始まり,コンマスの戸澤哲夫がぐんぐんオケを引っ張っていきます.仙台フィルのメンバーもよく付いていっています.最後の第4楽章フィナーレでは弦も管も打も最大限の力を振り絞って”歓喜の勝利”を歌い上げます
第4楽章が終わると会場いっぱいの拍手とブラボーが舞台に押し寄せました.力一杯の,というより,温かい拍手と言った方が相応しいでしょう.ショスタコーヴィチの交響曲第5番は,被災地の復興に向けた意志を現すのに最も相応しい曲のように思います オケのメンバーの表情を見ると,晴れ晴れとして,達成感に満ちていました
鳴り止まない拍手に,アンコールが演奏されました.大河が流れるような包容力のあるゆったりした曲です.イギリスの作曲家か?だとすれば,エルガーか?エルガーの管弦楽曲といえば・・・・エニグマ変奏曲か?・・・・と考えているうちに曲は終わってしまいました.心が洗われるようないい曲です 帰る途中,ロビーに張り出された「本日のアンコール曲」の案内を見ると,「エルガー作曲”エニグマ変奏曲”から”二ムロッド”」とありました.半分当たりでした 「ニムロッド」は”エニグマ変奏曲(なぞの変奏曲”)」の第9変奏に当たる曲で,旧約聖書に出てくるノアのひい孫で狩の名人です.お勧めCDはジョン・バルビローリ指揮ハレ管弦楽団による1956年の録音(下の写真)です.
練習場の確保,学校や施設での演奏活動などいろいろ大変でしょうが,仙台フィルにはショスタコーヴィチの第5交響曲のように,不屈の精神で頑張ってもらいたいと思います.機会があればまた聴きにいきたいと思います.そうすることが一番の支援活動になると思います