明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(527)福島第一原発事故の生物学的影響がヤマトシジミ蝶に(ネイチャー誌)

2012年08月12日 07時00分00秒 | 明日に向けて(501)~(600)
守田です。(20120812 07:00)

表題の論文が、ネイチャー誌に載りました。琉球大学の大瀧丈二准教授ら
がまとめたものです。福島県に生息しているヤマトシジミチョウに異変が
起こっていることを明らかにしたものです。予想していたことですが、
ショッキングです。生態系で進行している異変の一部が明らかにされたと
いうことだと思います。

時事通信で、次のように要点が紹介されています。

***

研究チームは事故直後の昨年5月、福島県などの7市町でヤマトシジミの成
虫121匹を採集。12%は、羽が小さかったり目が陥没していたりした。これ
らのチョウ同士を交配した2世代目の異常率は18%に上昇し、成虫になる前
に死ぬ例も目立った。さらに異常があったチョウのみを選んで健康なチョ
ウと交配し3世代目を誕生させたところ、34%に同様の異常がみられた。

***

注目すべきことは、調査が昨年5月に行われていることです。ヤマトシジミ
は4月から11月にかけて、何回か羽化してくるチョウですが、この時期の成
虫はヨウ素などを含むかなり濃度の高い放射能を浴びている可能性があり、
それだけに変化が顕著に現れたのではないかと思われます。この時期の
チョウを採取したことは重要な位置があったと思います。

さてここから推論すべきことは、こうしたヤマトシジミに及ぼされた変異が、
生態系にどのように作用していったかです。被曝したのは当然にもヤマトシ
ジミだけではなく、周辺にいる多くのムシたちであると想像されますが、
ちょうどこの時期、春から夏にかけての時期は、さまざまなムシたちが爆発
的に羽化してくる時期でもあります。

その根拠をなすのは、落葉広葉樹が一斉に春に新芽を出してくることです。
4月に羽化するヤマトシジミはその前から幼虫になっていますが、このよう
に木々が芽吹くことで、昆虫の活動も活発になる。ムシたちは伸び上がって
いく葉を食べながら大きくなり、次々と羽化していくわけです。

これを絶好の餌にしている生き物がいる。鳥たちです。そのため私たちの国
には春になると多くの渡り鳥もやってきます。なぜなのか。子育ての絶好の
条件が形成されるからです。木々の芽吹きとともに一斉にあらわれてくる豊
富なムシたちがいるからです。これがタンパク質を急速に供給しなければな
らないヒナたちの格好のえさとなる。だからこの時期、虫の爆発的登場とと
もに、鳥たちが繁殖を開始し、木々のあいだに、どこでも鳥たちのかしまし
い鳴き声がこだまするのです。

これに対して、春の原発事故は大きな脅威であったはずです。まず葉をつい
ばむムシたちが被曝する。そうして体内に放射性物質を溜め込んだ幼虫を、
今度は親鳥が捕まえてヒナに与えるわけです。生態濃縮された放射性物質が、
ヒナの口から体内に入り、内部被曝を巻き起こす。そうなると細胞分裂の激
しいヒナには重大な打撃になってしまいます。

実際に、チェルノブイリ事故のときにも、鳥たちによる繁殖の失敗が観測さ
れています。それもアメリカでのことです。この事故で、ホットスポットに
なってしまったある地域で、夏に鳥たちの声が聞こえなくなってしまった。
「沈黙の春」ならぬ「沈黙の夏」が訪れてしまったのです。このことを報告
したのは、マーチン・ジェイ・グールドというアメリカの統計学者です。
『死にいたる虚構』という書物の中に書かれていますが、僕はそのことに昨
年の初夏に気づき、東北・関東の山の状態、生態系の状態に憂いを感じまし
た。以下から当時書いた記事がご覧になれます。

明日に向けて(203)沈黙の夏・・・(『死にいたる虚構』ノート(2))
2011年7月25日
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/50b74c77c69c502bc395add1444accc8

そうして今回のこの記事。やはりムシたちに異変が起こっていたかと思うと
同時に、それが生態系にもたらしている影響こそが気になって仕方がありま
せん。日本野鳥の会の方たちに問い合せたいとも思いましたが、同時に、今、
山に入ってバードウォッチングをすることの危険性も強く感じ、どのように
要望を出せば良いのか考えをまとめられませんでした。

放射線防護の観点からこれは大事なことですが、しかし私たちに迫る危機の
実相をつかみとるためにも、やはり私たちの生態系で起こっている異変を掴
むことに大きな重要性があると思います。

その点でみなさんに提案したいのは、みなさんが日常的に感じる生態系の異
常について、ぜひ何かに書き留め、記録し、可能であればこちらまで送って
いただきたいということです。例えばこの夏、みなさんの周りでセミやカの
状態はどうでしょうか。鳥が近くにいる方は、鳥たちの声が例年と変わらず
に聞こえているでしょうか。そうした情報をできるだけ広範に集めることで、
私たちの生活実感を通して、異変をつかみとっていくことが大切だと思います。

福島におけるヤマトシジミチョウの異変の報告は、私たちにそれを問うてい
るし、また市民である私たちがそのように受け止め、独自に調査を始めてこそ、
有効に活用されうるのではないかと思えます。

生き物たちの姿にも心を配りながら、進行する危機の実相を私たち自身の手で
つかみ、放射線防護を進めていきましょう!

*********

チョウの羽や目に異常=被ばくで遺伝子に傷か―琉球大
時事通信 8月10日(金)21時29分配信
http://www.jiji.com/jc/eqa?g=eqa&k=2012081001219

東京電力福島第1原発事故の影響により、福島県などで最も一般的なチョウ
の一種「ヤマトシジミ」の羽や目に異常が生じているとの報告を、大瀧丈
二琉球大准教授らの研究チームが10日までにまとめ、英科学誌に発表した。
放射性物質の影響で遺伝子に傷ができたことが原因で、次世代にも引き継
がれているとみられるという。

大瀧准教授は「影響の受けやすさは種により異なるため、他の動物も調べる
必要がある。人間はチョウとは全く別で、ずっと強いはずだ」と話した。

研究チームは事故直後の昨年5月、福島県などの7市町でヤマトシジミの成虫
121匹を採集。12%は、羽が小さかったり目が陥没していたりした。これら
のチョウ同士を交配した2世代目の異常率は18%に上昇し、成虫になる前に
死ぬ例も目立った。さらに異常があったチョウのみを選んで健康なチョウと
交配し3世代目を誕生させたところ、34%に同様の異常がみられた。

********

なお同論文は以下から見れます。

福島第一原発事故の生物学的影響がヤマトシジミ蝶に
8月9日付けネイチャー誌オンライン公表論文
http://besobernow-yuima.blogspot.jp/2012/08/89.html?spref=tw
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5 コメント

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福島産は食べない方が良いですか? (けん)
2012-08-14 02:04:22
危険をあおっているように読めます、ウチの嫁は福島産は危険と買うのをやめました、このような行動は、あなたの発言の意図にあっているでしょうか?
何県産なら安全ですか?
返信する
大津波の影響の可能性も (kusukusu)
2012-08-14 15:40:01
こちらにも、すみません。

これについては、もちろん、放射能の影響ではないと断定的に考えるわけではなく、総合的に考える必要があるのではないかという意味ですが、放射能以外の可能性もあるのではないかと思っています。
というのは、ちょうど、『巨大津波は生態系をどう変えたか』(永幡嘉之)を僕はこないだ、読んで、放射能の問題を抜きにしても、今回の大震災、大津波は、東北地方の生態系に大きな変化、影響をもたらしているということを知って、驚いたところですので。
『巨大津波は生態系をどう変えたか』によると、水が引いたあとも、海水の塩分が残り続けたことによる動植物の被害は消えなかったそうで、湿地のカエルの卵が死滅し、ヒヌマイトトンボ、カトリヤンマなど、まったく見られなくなったトンボ類もいるらしいです。ヤマトシジミも、こうした塩害の影響ということも考える必要があるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
いずれにしろ、もっと調査が必要だと思いますが、放射能の影響だろうと決めつけるのは早計な気がします。
返信する
サイレント・サマーについて (榊原義道)
2012-08-17 12:15:42
榊原です。

サイレント・サマーやサイレント・スプリングはすでに原発事故の前から起こっています。
ご存知のように「地球温暖化」や「ナラ枯れ」が大きな影響を与えています。ナラ枯れが進行し、餌木を失ったチョウたちは、すでに各地で姿を消していますし、温かくなった晩冬から早春の影響で、花芽が開く時期とことなって孵化するチョウの幼虫はうまく餌を採れずに死んでいます。こうした中で、鳥がいない森や、動物が暮らせない森が、すでに広がっています。
いきものたちの状態の把握と評価は、こうした点も加味しておこなうことが必要です。もちろん原発事故の影響についても検討が必要で、生物たちの状況を調査し、これまで現地の生態をよく知っている人の力に頼りながら進めることが大切になります。 

京都・榊原義道(北山の自然と文化をまもる会)
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ご指摘ありがとうございます。 (守田敏也)
2012-08-18 07:30:37
けんさま
コメントありがとうございます。けして「あおっている」のではないのです。ただ今回の投稿は考えなおなさなくてはと思っています。

kusukusuさま
ありがとうございます。確かに各方面からこの論文だけでは結論づけられないのではという声があがっているようです。いずれにせよもっと調査が必要という意見に同感です。

榊原さま
おっしゃるとおり、僕もサイレント・サマーとうとうをこれまでも京都の山々の中でみてきました。
ヤマトシジミが原発事故前から異変をあらわしていたという情報もつかみました。少し調べて訂正記事を書こうと思っています。ありがとうございました。
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危険をあおっているとはまったく思いません。 (ディラン2012)
2012-08-24 07:53:51
はじめまして。
虫と放射能で検索していてたどりつきました。

私は危険をあおっているとはまったく思いません。むしろ、この事実を隠したりごまかしたり、遠慮して発表しなかったりするほうがはるかに危険だと思います。

私は神戸に住んでいるものですが、今年は蚊の姿が見えないので心配しています。

今日は8月24日の朝ですが、セミの声もまったく聞こえません。一匹も鳴いていないのです。もちろん今日だけではありません。
今年になってから、セミの鳴き声を聴いた記憶がありません。

静かな夏です。
沈黙の夏と言ってもいいでしょうか。

春頃にはカラスの群れもいたのですが、まったく見えなくなりました。
ゴキブリも最近見ていません。
原因は何でしょうか?
どうしても原発事故の影響が気になるのですが、どうでしょうか。
返信する

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