明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日にむけて( 4 )復旧作業の意味するもの

2011年03月28日 15時59分00秒 | 東北地方太平洋沖地震3月12~31日
守田です。(20110328 16:00)

昨日、京大原子炉実験所の小出裕章さんが、インターネット番組上で
受けたインタビューの内容を紹介しました。
ここで、その内容をどうとらえるのかの検討を行ってみたいと思います。


最悪の場合に備えて

番組の趣旨は、あえて最悪のシナリオを考えることにありました。
小出さんはそこで、最悪の場合、炉心にある燃料棒が冷却できずに加熱して
いき、溶けて下に落ちてしまい、そこにある水分と反応して水蒸気爆発を
起こすこと、当然にも原子炉も崩壊し、大量の放射能が爆発的に飛び出して
しまう可能性があることを示唆してくださいました。

その場合、広範囲に放射性物質が飛び散るけれども、チェルノブイリと
比較するならば、大火災が伴う可能性は少ないので、放射性物資が
上空高く巻き上げられてから拡散するのではなく、より近傍から著しい
汚染が広がるだろうということが明らかにされました。

僕は、こうした説明を受けて、さきほど、フランスの団体が出している、
放射性物質の拡散のシミュレーション情報をみなさんにお届けしました。
(ただしこのシミュレーションでは、放射性物質の放出は20日までにとまる
と仮定されています。実際にはその後も放出が続いているので、この点は
注意をしてみてください)
念のためアドレスをもう一度、ここに貼り付けておきます。

「2011 年3 月12 日より福島第一原子炉から放出された
放射能雲大気中拡散シミュレーション」
http://www.irsn.fr/EN/news/Documents/irsn-simulation-dispersion-jp.pdf


復旧作業の意味するもの

さて小出さんのインタビューでは、もう一点、非常に重要なことが
語られたと思っています。それは最悪の事態を防ぐことが何を意味して
いるのかです。端的に言えば、明らかに人命に危機が及ぶ放射線が
飛び交う場に、修理のために人を送りこむ必要性が生じており、実際、
現場はそこに踏み込んでいるという事実です。

小出さんは次のように語ったと僕は記憶しています。
「最悪のケースはメルトダウンによる水蒸気爆発だが、今の状態で収められる
としても、本当に長い間、放射能と格闘せざるをえないだろうし、たくさんの人が
被ばくせざるをえないと思う。本当になんと言えばいいか分からないような
仕事を、これからやらなければならないと思う。」

なんと言えばいいか分からないような仕事、それをしなければ最悪の事態の
回避はできないのです。しかもそれまで長い時間がかかります。つまり
非常にたくさんの人が従事しないと、この作業は達成できません。

私たちは、今ここで、非常に大きな難問に直面していることに気づかなければ
ならないと思います。多数の人々の安全のために、少数の人々を犠牲に
して良いのかという問題です。やむを得ないと言う前に、私たちは立ち
止まって考えなければならないのではないのでしょうか。現場の方たち
にとって、過酷な決断が下されていくことに私たちは、無関係であっては
いけないのではないかと僕には思えます。

だからと言って、僕にもそんな過酷な労働をさせるのはやめるべきだと
公言することはできない。誰かがやらなければ、破局が訪れてしまうのです。
しかもその破局は、海外の人々にも多大なダメージをもたらします。
だから誰かがやらねばならない。本当に「なんと言えばいいか分からない
ような仕事」です。どう考えればよいのか、途方に暮れてしまいます。

それでは今、どのような方たちが現場で働いているのでしょうか。
テレビに映るのは東電の社員、消防士や自衛官たちです。現場で奮闘する
方たちの姿は立派で、一部マスコミは美談として報道しています。
確かに美談と言えるものがたくさんありました。でも私たちは、もっとたくさんの
人々、原発の下請け業者の方たちが動員されていることを知っておく
必要があります。

このことを報じたニュースがあります。ウォール・ストリート・ジャーナル日本版の
「地上の星-本当の「フクシマ50」」という記事です。
http://jp.wsj.com/Japan/node_209339/?tid=tohoku


ここから少し引用します。

「福島第1原発では通常、日常的な原子炉の保守作業を行う数千人の
労働者が働いている。だが今その多くに対して、事故を起こした現場に
自ら志願して乗り込むことが要求されている。しかも、通常の賃金でだ。

 怖いが、誰かが行かなければならない、と多田堅司さん(29)は話す。
多田さんは、東京電力の下請け会社、東海塗装に勤務する保護塗装の
スペシャリストだ。」

「多田さんによると、多田さんの通常の月給は約20万円で、日本の
サラリーマンの平均月給29万1000円をはるかに下回る。それでも多田さんは、
仕方ない、誰かが行かなくてはならないと話す。だが、多田さんの母親は
行かせたがらなかったという。」

「福島第1原発から約30キロに位置する田村市の避難所にいる、原発設備
メーカーの男性社員も、今週初めに現場勤務を要請されたと述べた。男性は、
3号機への給水パイプの運搬と敷設をすることになると思うとした。

 男性は高卒で、月給は多田さんと同程度。男性によると、要請は拒否する
こともできると言われた。だが、受け入れなければならない義務だと感じた
という。他人のために自らの命を犠牲にした第二次大戦中の神風特攻隊を
思い出したのだという。」


みなさん。このようなことがあってもいいのでしょうか。いいはずがないと僕は
思うのです。しかし、いいはずがないことを、私たちは否定できません。
しかもこれからこのことが長い間続くのです。

これが「ゆっくりすすむチェルノブイリ」の、もう一つの悲しい姿です。

少なくとも、私たちは、あの困難な作業現場に、月給20万円で働いてきた人
たちが、賃金の上乗せすらないままに入って作業をしていること、こうした
事実としっかり向き合っていきたいと思います。これが原子力政策のもたらした
ものなのです。私たち自身が被ばくする恐ろしさとはまた違った、倫理的な苦しさ、
恐ろしさが、私たちに降りかかってきています。


明日に向けて、私たちは片時もこうした方たちがいることを忘れずに
いましょう。せめても、この方たちに事後的な手厚い補償をすること、
そうした深い責任を、私たちの社会は背負いつつあります。

またこうした方たちがつむぎだしている時を有効に使うこと。それが今、
私たちに問われています。少しでも被ばく者を減らす可能性を
追求することです。

情報発信を継続します。



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