明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(365)これらかの医療に問われること(放射線防護を視座にして)・・・その1

2011年12月26日 23時30分00秒 | 明日に向けて(301)~(400)
守田です。(20111226 23:30)

最近、若い薬剤師さんと知り合いになりました。というか、前から時々、
漢方薬を買いにいっているお店の方だったのですが、偶然にもMARLYNと
のジョイント講演のときに、話を聞きにきてくださり、その後にお店で
再会して、いろいろとお話しました。今日も、ちょっと風邪をこじらせ
ているので、葛根湯の働きを補強してくれる小柴胡湯を買い足しにいっ
たのですが、そこでもいろいろと話になりました。備忘録的にまとめて
おこうと思います。


これからの医療に問われること・・・放射線防護を視座にしたときに見
えてくるのは、迫り来る疾病とのたたかいへの準備です。数年後から激
発してくるであろうガンとの闘いが一番見えやすいですが、放射線の害
は、必ずしもガンだけではなく、さまざまな形であらわれてきます。そ
こで問われるのは、広島・長崎の例から、被爆者の側で記録されてきた
さまざまな被曝のあらわれと思われる症例を医療従事者の間で共有化し
それへの対策を練り上げていくことです。

とくに憂慮されるのは、広島・長崎で「原爆ぶらぶら病」と呼ばれた、
どうしようもない倦怠感に襲われ、活動力・行動力を奪われてしまう病
の発生です。広島・長崎では、この症状に襲われて通院しても、どこの
病院でも「身体に異常はない」と「診断」されてしまい、被爆者の苦し
みの大本の一つともなりました。「原爆ぶらぶら病」という呼び名自身
も、「あいつは原爆を受けたためだといっては、ぶらぶらして怠けてい
る」というほどの意味を含んだもので、被爆者の苦しみを象徴しています。

今回の放射線被曝でも、この症状が出てくる可能性があるし、現に出て
いる可能性もあります。しかし現代医学では病とみなされないことが多い。
ようやくにして似た一群の症状に「慢性疲労症候群」という呼び名がつき、
同じような症例で苦しんでき方たちに、一条の光がさしてはいますが、そ
れとても認知度が高いわけではない。また慢性疲労症候群のすべてが放射
線が起因ともいえず、「原爆ぶらぶら病」はまだまだあまりに解明が進ん
でいない領域です。


被爆者を生涯に6000人診てこられた肥田舜太郎さんは、僕が7月に『世界』
誌上でインタビューをしたときに、この点について次のように熱く語られ
ました。

「ジャーナリズムの世界にいる人に大きく訴えて欲しいことがあります。
政府が予算を組んで、日本中の病院や研究施設、とくに広島・長崎の大学
病院、原爆医療研究所と原爆病院の医師たちに、原発事故で放射線を浴び
たらしい、あるいは内部被曝したらしいと思っている人々が来たら、どう
やって対応するか、きちんとした教育をして欲しいということです。もっ
と専門的に、より進んだ症状がでてきた時の治療法を、広島・長崎を経験
した日本の医師たちが編み出していくべきです。それをサボってきたのは
国の責任だから、国が音頭をとってやるべきことです。これをやらないの
なら総理大臣を辞めなさいというところまで新聞にも書いて欲しい。」
(『世界』2011年9月号144ページ)

ちなみに肥田さんは「このことを話しても話しても、他のマスコミはちっ
ともきちんと書いてくれない。しっかりここを書いてください」と強く言
われました。ニコニコしている肥田さんの顔がこのときだけ、きりっとし
ていたことをはっきりと覚えています。


このことはとても重要です。より具体的にはどういうことが問われるかを
考えていくと、放射線の害が、あらゆる領域に及ぶこと、とくに免疫系に
害を与えるので、あらゆる病が発生しやすくなること、今、持っている病
気の種が育ってしまい、表に出てきてしまうことなどを捉え、「原爆ぶら
ぶら病」的症状に限らず、住んでいる地域、あるいは住んでいた地域など
から、被曝の可能性が考えられる場合は、まずはそれを疑い、症例を細か
くチェックして記録し、その上で、一つ一つの症状に具体的な対応をしつ
つ、全体として免疫力のアップを目指していくことを医療的にフォローし
ていくことが問われます。

その意味で、医療サイド自身が、ぜひ放射線被曝への医療相談に乗り出し、
「気に病むな」といって返してしまうことなどなく、苦しみを訴えてきた
人と一緒になって歩むこと、同時にそうした症例を蓄積し、医療者同士で
情報交換を進め、被曝医療を前進させていくことがぜひとも必要です。

そのために僕自身、医療関係者や薬剤師の方々と連携を強化していきたい
と思っています。医療サイドの方で、もし私の話を聞いてくださる方がお
られたら、ぜひおよびください。どこにでも出向いて、積極的に交流させ
ていただきたいと思っています。


ただこうして被曝医療、あるいは医療上の放射線防護をすすめていくため
には、前提として日本の医療が今、どういう状態に置かれていくのかを市
民サイドがしっかりとつかんでおく必要があります。端的に言えば、日本
は世界の中で、技術度、安さ、かかりやすさの総合で、ダントツに世界1
と言える医療を実現していながら、それが国民・住民にあまりに知られて
おらず、さまざまな矛盾が医療従事者に極端にしわ寄せしている現状があ
ります。

これを医師たちを中心としたそれこそ超人的な努力で支えてきているのが
日本の医療の現実で、この上に、放射線の被害が重なることを考えると、
このままでは日本の医療はパンクせざるをえない。だからこそ、医療領域
での放射線防護を進めるためにも、このことに対する市民的理解を強め、
市民サイドで公的医療を守っていく必要があります。

まさにこのこととセットのものとしてこそ、被曝医療の発展、医療における
放射線防護の強化を実現することができるのです。この点をより突っ込んで
みなさんと考察するために、今後、数回にわたって日本の医療に問われてい
ることは何かを論じていきたいと思います。

続く
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