守田です。(20170409 23:30)
4月7日にアメリカ軍がシリア空軍基地に向けて59発の巡航ミサイルトマホークを発射しました。めちゃくちゃです。あまりにひどい。国際法も何もかも完全に無視しています。アメリカの無法な戦争行為に対して心の底からの怒りを表明します。
そもそも今回のアメリカの攻撃のきっかけとなったのは4月4日にシリア北西部イドリブ県の反体制派が支配するハンシャイフンでシリアのアサド政権軍の空襲によって少なくとも72人以上が殺害されたことでした。
この際に、多くの人々がサリンのような猛毒ガスで殺されたことから、アメリカやトルコなどがアサド政権軍による化学兵器の使用を指摘。批判を強めていました。
これに対してアサド政権とその後ろ盾となっているロシア政府は、シリア政府軍の攻撃を受けた反体制派が毒ガスを所有しており、空襲で漏れ出して被害が拡大したと主張。化学兵器の使用を否定しました。このため国際的な調査が待たれていました。
ところがトランプ大統領はアサド政権が「レッドラインを超えた」と主張。自分は前政権の「オバマ大統領のように軟弱な事はしない」と即座に攻撃を指示。地中海からのトマホーク59発の発射にいたりました。
これに対し、アサド政権とロシア政府は猛烈に反発。アメリカの行為を主権国家への侵略と断じていますが、イランがロシアに同調。これとは別に北朝鮮も独自にアメリカの行為を侵略行為であるとして批判して事実上同調しています。
ロシア軍は反発するだけでなく、シリア北部イドリブ県でのシリア反体制派支配地域への空襲を継続、8日にも子ども5人を含む18人を殺害しました。
一方でアメリカ軍を中心に構成される「有志国軍」が同じくシリア北部にあり、「イスラム国」が「首都」と位置づけるラッカで空襲を行い、子ども4人を含む15人を殺害したとされています。
一方、これを前後する形で、ヨーロッパからアフリカの各地で爆弾や車の突入による殺害も起こっています。4日にはロシアのサンクトペテルブルグの地下鉄で爆弾事件があり14人の方が殺されました。爆弾を炸裂させたのはキルギス生まれの若者とされていて「イスラム国」との関係が疑われています。
7日にはスウェーデンの首都ストックホルムでトラックが歩道に突っ込んで歩行者をはね飛ばし、4人が殺されました。実行者はウズベキスタンの生まれの男性で「イスラム国」に共感していたと伝えられています。
さらに本日9日にエジプト北部のタンタやアレクサンドリアで、キリスト教の一つの派であるコプト教の教会が相次いで爆弾で襲われ、36人が殺されました。これに対して「イスラム国」が自分たちの兵士が殺害を実行したとの声明を出したそうです。
いずれの事件でも死者を上回る数の負傷者が出ており、その中からさらに亡くなる方も出ることも十分予測されます。大変な惨事が続いています。
僕はこれら全ての戦闘行為や事件で殺人を命令した人々、実行した人々の犯した罪に対して、心の底からの怒りを表明したいと思います。同時に亡くなられた全ての方に哀悼の意を表明するとともに、負傷された方、また犠牲者の周りの方々に心からお見舞いの意を表したいです。
このトンでもない暴力の連鎖の中で、私たちがはっきりとさせておかねばならないことがあります。一番悪いのはテロリズムだということです。テロリズムとは、自らの政治的意志を押し通すために、人々に恐怖を巻き起こす暴力を用い、平気で殺人も犯すことです。これが一番悪いことであり、人道に反することであり、止めさせなければならないことです。
そしてこの間の中東地域で起こっている混乱を見るならば、もっとも悪質なテロリズムを行使して来たのは他ならぬアメリカであることをはっきりとさせる必要があります。なんといっても「大量破壊兵器を持っている」というありもしないいいがかりでイラクに侵略戦争を仕掛け、さまざまな兵器を用いて大量の人々を殺害し、主権国家を蹂躙してしまったのだからです。
そもそもそのアメリカが、侵略戦争や大量殺人の謝罪もなしに、中東の秩序の維持者かのように登場し、国連にすらはかることなく大統領1人の判断で59発のミサイルを撃ち込んでしまったことがあまりにひどすぎる。むちゃくちゃです。法も秩序もあったものではない。こんなのはトランプ大統領によるリンチにすぎません。いっぺんの正義もありません。
まただからこそ、このままでは中東はますます安定しなくなってしまう。いや中東だけでなくアメリカのこの無法なやり方に怒りを抱いた人々の中から、武装抵抗の発想が強まり、あちこちで殺人攻撃が必然化されてしまう。世界をよりひどい混乱に引き込むだけです。だからこそアメリカのこの無法な攻撃は批判されなくてはいけないのでもあります。
中でもより混沌とした状態に陥ってしまうのはシリアだと思われます。この国は人口の大きな部分の人々が難民になるという、戦後史の中でも類例をみない大混乱にすでに陥っています。きのうもきょうも、トルコに流入した人々が、エーゲ海を命をかけて渡っていて、途中で何人もが溺死してしまっている。その果てにヨーロッパ各地に逃れていくわけですが、その受け入れ先で、さまざまな社会矛盾が顕在化してしまっている。
ただでさえこんな矛盾が広がっているのに、今回のミサイル攻撃によってシリア内戦の終結の道はますます遠ざかり、混乱がより深まるでしょう。無法行為がまかりとってしまう限り、秩序回復はのぞめないからです。
これに対して「化学兵器の使用」はどうなのかと言う方がおられるかもしれません。もちろん化学兵器の使用はテロリズムのうちでもとても悪質なものの一つです。当然にも言語道断です。しかし化学兵器を使用しなければ良いということなど断じてありません。
その点で僕は、今回アサド政権が化学兵器を使ったのなら悪、使わなかったのなら悪ではないなどという二文法はとりません。かりにアサド政権の行っている通りに、人々を襲った猛毒が反体制派の持っていたものだとしても、それを爆破し、たくさんの子どもたちをも殺したのはやはりアサド政権なのです。それもまた悪質なテロリズムです。
この点で強調しておきたいのは、現代戦においてもはや人類は、これ以上、けして空襲を容認してはならないということです。僕は戦争行為のすべてに反対ですが、100歩も1000歩も譲って、かりにどうしても武力で決着をつけたい軍事組織同士があるならば、もはや勝手になさってくださいというしかないとは思っています。しかし絶対に民間人(武装解除した元兵士を含み)を巻き込まないこと、無抵抗のものを殺傷しない事が守られなければいけない。これは僕ひとりの主観的な意見ではなくて、少なくとも建前としては国際的に合意されていることがらです。
しかしもの凄い威力をもった爆弾を持ってする空襲では、兵士と民間人を分ける事などできないのです。だから空襲は民間人の犠牲を前提にしているのです。それを正当化するのが「誤爆」などという言葉です。誤爆なんかではない。あらかじめ多数の民間人が巻き込まれて殺される事を容認しているのです。
いやアメリカ軍は、軍隊と民間人を分けないどころか、主に民間人を標的にしたテロルとしての空襲もこれまで繰り返してきました。それが最初になされたのは第二次世界大戦におけるドイツ空襲や日本空襲でした。その果てにアメリカ軍は広島・長崎に原爆すら投下しました。民間人をターゲットにした熱戦と放射線と爆風での大量殺戮を決行したのです。
私たちが今こそ思い返すべきことは、アメリカが日本に行った最悪の戦争犯罪である都市空襲、沖縄上陸戦、原爆投下のどの一つにも謝罪してないことです。いまだに正義として肯定しているのです。
そんなことがあるものか。あれは完全なる戦争犯罪です。旧日本軍による南京大虐殺などのアジア侵略行為、ナチスドイツによるユダヤ人に対するホロコーストなどと並ぶ一大戦争犯罪です。この点を捉え返すならば、化学兵器だけが反人道的なわけでは無い事は明らかです。まさに空襲自体が最も重い人道上の罪なのです。
この点でもちろんアサド政権もまた、反体制派の支配地域に何度も空襲を行って自国民の殺傷を続けている最悪のテロリズム政権です。ロシア軍もまたアフガニスタン戦争以降、旧ソ連圏内から出る事のなかった自国軍隊をこの間、大幅に紛争地域に投入してしまって軍事テロリズムの限りを尽くしています。そこに正義などありません。
だからといってそれをアメリカが軍事的に裁く権限等毛頭ない。いやアメリカも結局、アサド政権と同じ事をやっていること、いや繰り返されて来た規模で言えばアメリカの方がより悪いことをこそ捉え返すべきなのです。
さらに言えば「イスラム国」などが行っていることもまた、アメリカによって世界に植え付けられた暴力思想、アメリカ流テロリズムそのものだということを指摘したいと思います。だからまた当然にも「イスラム国」の暴力も認められません。かの人々はアメリカに外的には抵抗しつつ、内的には完全に思想的に絡めとられてしまっているのです。アメリカに真に抵抗するならば、暴力に心を染められてしまっている事をこそ捉え返すべきです。
私たちはいま、本当に平和思想に立つ必要があります。世界各国の民衆が、まずは自国の暴力を止めるべきです。とくに空襲が戦争犯罪であることをはっきりさせ、「誤爆」などという言葉で平気で民間人を殺すことをやめさせるべきです。
大事なのは、暴力の論理に巻き込まれてしまわないこと。それぞれが自国に都合良く語る「暴力行使の大義」の嘘を暴くことです。そのことでアメリカ流の暴力思想を打ち破っていくことにこそ本当の平和への道を切開いていく可能性があると僕は思います。
最後にトランプ政権の根本的な矛盾と限界について一言しておきたいと思います。トランプがヒラリーを破ることのできた理由の一つは、ヒラリーが軍産複合体にバックを支えられた「戦争屋」だからでした。(今回もヒラリーはトランプのミサイル発射を支持しています)
しかしアメリカの多くの人々は大義なき中東での戦いに疲れ果てていました。それだけにトランプが「アメリカは世界の憲兵であることをやめる」と述べたことに支持が集まったのです。当然にもそれはアメリカ軍の各地からの撤退を含むものでした。
トランプはそのためにロシアを敵視するヒラリーを批判し、むしろロシアとの協調を掲げ、その中でつい最近までこれまでも化学兵器を使用して来た疑いのあるアサド政権を、「イスラム国」と戦うパートナーとして持ち上げ、その中でオバマ政権の求めていた「アサド大統領の退陣要求」の撤回もちらつかせていたのです。
にもかかわらず今回、トランプ大統領が攻撃を即決したのは、就任後下降線を辿るばかりの支持率の回復を狙ったためなどと言われていますが、しかしこのことで厭戦気分を強めて来たアメリカのトランプ支持は一層弱まらざるをえない必然のもとにあります。
ではどうしてそんなことになってしまうのか。トランプがオバマ政権など、前任者を批判する時に、アメリカの行って来た中東政策の根本的誤りにまでメスを入れることなく「アメリアファースト」と言ってきたからです。そうではない。アメリカはイラク戦争以来の誤りを真っ当にただし、中東の秩序回復に真摯に協力する中でこそ、ズルズルと戦争に引きずられて来てしまった自国の苦境をも打開することができるのです。
今回、すべてのマスコミのヒラリー支持を覆す形でトランプ大統領を登場させたアメリカの人々に、ぜひここまで発想を飛躍させて欲しいと思います。
そもそも誰が大統領になろうと、戦争をやめてもらったら困る軍産複合体が後ろに入り込む限り、アメリカの政権は戦争へとひきずられてしまうのです。
この道を断ち切るために必要なのは、アメリカが犯してきた人道的罪に目覚め、空襲を許さない発想に立ちきり、戦争政策を抑止していくことです。
そして私たち日本人、ないし日本の地に住んで、先の戦争の被害を直接的にも間接的にも受けてきたものこそが、真のアメリカの友としてこのことを提言できると僕は確信しています。なぜか。第二次世界大戦において、アメリカによる最もひどい戦争犯罪を受けたのが私たちだからです。だから私たちには、アメリカの戦争犯罪を浄化する人間的力があると僕は確信しています。
同時に、そのことを持って「イスラム国」など、アメリカにやられた暴力を同じように返そうとしている人々に「われわれは原爆を受けたけれども、原爆での仕返しなど考えもしていない。われわれが学んだことは平和の尊さだ。それをアメリカに知らしめることでわれわれはアメリカの暴力を超えるのだ」と言いたいと思います。
もちろん、この僕の発想は、旧日本軍性奴隷問題の犠牲者となりながら、自ら名乗りを上げ、日本政府の態度をいさめつつ、同時に本当に偉大な奮闘を通じて、自らの尊厳を一歩、一歩取り戻し、豊かな人生を送られた多くの被害女性たち、おばあさんたちから送られたものです。
戦乱で混沌するこの世界の中に、この宝を広げたい。あなたも一緒に広げましょう!
本記事(1365)に誤記と思われる部分がありましたので、コメントを投稿させていただきました。
・「まかりとって」
→「まかりとおって」
・「熱戦」
→「熱線」
・「アメリア」
→「アメリカ」
また、ややわかりにくい部分がありましたので、次のように変更されてはどうでしょうか?
・「だからこそアメリカのこの無法な攻撃は批判されなくてはいけないのでもあります。」
→「この点でもアメリカの今回の攻撃は批判されなくてはいけない。」