女優の吉行和子さんは小さい時、ぜんそくに悩まされた。最新刊の『そしていま、一人になった』(ホーム社)にその苦しさは「悪魔が入り込んだとしか思えない」ほどだと書いている▼お母さんは心配したそうだ。夜中に発作が起きるとお母さんが朝までおぶる。娘の苦しむ姿にお母さんは「いっそ二人で死んでしまおうか」とまで思っていたそうだ▼子どもだった吉行さんにはお母さんに困ったこともあった。美容室をやっていたのでいろいろな人からぜんそくへの助言が入り、それを試される。カラシの湿布、朝四時に起きて東の方を向いて生卵をのむ、背中を堅い棒でたたく、全身を踏む…。いずれも効果はなかった。「ありがたいとはいえ、ずいぶんヘンなことをしてくれた」▼母の日である。いつの時代も子どものために走り回る母親たちにエールを送る。母と会えない人は吉行さんのように母のヘンを笑いながら思い出し少々しんみりする日かもしれぬ▼米女性詩人のグウェンドリン・ブルックスに母の日に似合いそうな詩がある。こんな内容だ。たくさんの人がずらっと並んでいる夢を見た。「お母さんにするならどんな人がいいか、お父さんも選んで」と言われる▼いろいろな人がいるので迷ってしまう。目が覚める直前、やっとぴったりの二人が見つかった。「なんとうれしや、いつものお母さんとお父さん!」