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今日の筆洗

2023年09月30日 | Weblog

カーリングのまちとして知られる北海道北見市常呂(ところ)町の特産はホタテである▼今年、常呂であったカーリングの日本選手権では、北京冬季五輪で銀メダルを獲得した地元拠点の女子チーム「ロコ・ソラーレ」が名物の「ほたて燻油漬(くんゆづけ)」をお土産として対戦相手に贈って話題に。業者に注文が殺到した▼常呂の漁港のホタテ水揚げは国内有数。昔は豊漁と不漁の落差が大きく、地元のオホーツク海沿いのサロマ湖で古くから養殖法を研究した。湖で育てた稚貝を外海に放流する方式を考案。海を4区域に分けて、放流、水揚げの海区を毎年替える手法を確立し、水揚げは安定したという▼東京電力福島第1原発の処理水海洋放出に反発する中国の日本産水産物禁輸。ホタテの打撃が大きい。中国向け輸出が従来多く、オホーツク海沿岸地方の関連企業などの7割超が「影響がある」と答えた調査も。冷凍庫に在庫が山積みの会社があるとも報じられた▼長く苦労して漁獲を安定させてきたのに、直面した理不尽。販路の新規開拓も簡単ではなかろう。常呂漁協の組合長らは宮下農相との面会で禁輸に関し「外交的に解除する努力を」と訴えた▼カーリングは、相手の出方を読みつつストーンを配する戦略性が求められ「氷上のチェス」と呼ばれる。凍結された商いを再開させるべく、強硬な先方と向き合う戦略を国は描けているだろうか。


今日の筆洗

2023年09月29日 | Weblog
 メチル水銀で汚れた九州・不知火海の魚を食べた人が発症した水俣病。実態を告発した作家石牟礼道子さんの『苦海浄土』に、患者の家族や漁師らが、水俣を訪れた国会議員団に陳情する場面がある▼公害病認定前の1959年の話。市立病院前に集まった人たちは議員団と向き合うと、抗議の鉢巻きを外し旗を地面に置いた▼静寂の中、主婦が前に出て語った。水俣病で子を亡くし、夫は海の汚染で魚をとることができなくなった。「私たちの生活は、もうこれ以上こらえられないところにきました。(中略)どうか、わたくしたちを、お助けくださいませ…」▼陳情から64年。助けるべき人が残されていると司法が判断した。大阪地裁判決は不知火海周辺に以前暮らしたのに法に基づく救済を受けられなかった原告128人全員を水俣病と認め、国などに賠償を命じた▼国側は救済対象者の年代を限定し、居住地も不知火海周辺の特定地域に絞ったが、無慈悲ともいえるその線引きに見直しを迫った裁き。国の役人は控訴を考えていようが、こんな時こそ「政治主導」の血の通った決断がほしい▼苦海浄土では、陳情に耳を傾けた国会議員団が「平穏な行動に敬意を表し、かならず期待にそうよう努力する」と述べ、人々は実現を祈る万歳を唱えた。当時の約束はまだ果たされていないと、原告のために動く政治家はいないものか。
 
 

 


今日の筆洗

2023年09月28日 | Weblog

1929年、世界恐慌が起きた当時の米大統領、ハーバート・フーバーはあまり笑わぬ人だったらしい。写真を確認するとどの顔も機嫌が悪そうで、お世辞にも陽気な人とは思えぬ▼28年の大統領選で陣営はフーバーの無愛想な顔に苦労した。これでは人気が出ない。ある日、選挙対策チームの一人が気づいた。フーバーさん、飼い犬と一緒にいるときだけは顔が優しく、穏やかになる。陣営は大急ぎで犬とフーバーの写真を大量に配り、しかめつらのイメージを改善した▼ホワイトハウスで暮らす、こちらの犬は大統領を笑顔ではなく心配顔にさせているようである。2歳オスのジャーマンシェパード、コマンダー。「司令官」とは立派な名だが、大統領の警護官にかみつく事故をたびたび起こしているそうだ▼先日もまた、やらかし、これで11回目とは警護官もたまったものではない。議会対応で共和党に手を焼く大統領だが、このままでは飼い主としての指導力も問われよう▼「われは虎いかになくとも犬はいぬ」。犬にかまれないためのおまじないを警護官に教えたくなるが、犬の方にもかむ事情があるはずだ。人の出入りが多い、ホワイトハウスでの暮らしはやはり、若い犬にはストレスなのかもしれない▼フーバーさんを助けた犬。一時、ホワイトハウスで暮らしたが、まわりとなじめず、かわいそうだとよそに移された。


今日の筆洗

2023年09月27日 | Weblog
 小惑星「ベンヌ」の名はエジプト神話の聖なる鳥の名に由来する。「不死」の鳥で太陽、生命、再生のシンボルでもあるそうだ▼「ベンヌ」から砂を採取した米航空宇宙局の探査機の名が「オシリス・レックス」。「起源、分光スペクトル解析、資源特定、セキュリティー(安全)のための地表探査機」が正式名称だが、英語の頭文字を並べ、「オシリス・レックス」。これも古代エジプトの神の名である。神オシリスが聖なる鳥ベンヌにもらった宝物ということになるのか。探査機のカプセルが宝物を抱え、地球に戻った▼「はやぶさ2」の採取量を大きく上回る250グラム前後もの石や砂を地球に持ち帰ってくれた。この手のサンプルリターンは日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)の十八番だが、そのお株を奪う大手柄だろう▼少々くやしいが、試料は日本を含め世界の研究機関にも分配される。生命の起源にもつながる宝の砂。どこの国もなく、人類全体で解明に取り組めば、よかろう▼研究すべきは起源ばかりではない。探査機の正式名称にも「セキュリティー」とある。「ベンヌ」は2182年9月に地球に接近する▼地球に衝突する可能性は2700分の1とか。四つ葉のクローバーを見つける確率が5000分の1と聞くからそれよりは高い。「ベンヌ」の成分分析は未来の「まさか」の備えにも役立つかもしれぬ。
 
 

 


今日の筆洗

2023年09月26日 | Weblog
ギリシャ神話などに出てくるアタランテは足の速い女性で、彼女と結婚するにはまず、「駆け比べ」で勝たねばならない。ただし、負ければ、命を奪われる。おっかないお方でもあった▼彼女の美しさに大勢の求婚者が勝負を挑むのだが、誰もそのスピードについていけぬ。最後にアタランテを負かす男が現れるが、これにしても男の投げた、「黄金の林檎(りんご)」に気を取られたせいだった▼1964年東京五輪のマラソンで金メダルを獲得したアベベ選手でも追いつくまい…とはギリシャ神話ではなく、別の女子マラソン選手の話である。アベベさんと同じエチオピアのティギスト・アセファ選手。日曜のベルリン・マラソンで優勝したが、そのタイムに驚く。2時間11分53秒。もちろん「世界新」で、これまでの記録を2分以上も短縮した。アタランテも祝福しよう▼中距離の選手だったが、限界を感じ、長距離に転向。今回が3回目のマラソンと知って、また驚く▼試しにアベベさんの記録を確認する。ローマ五輪(60年)のタイムが当時の世界記録となった2時間15分16秒。63年前の記録といえど女子のアセファ選手の方が3分以上も上回っている▼現在の男子の記録はキプチョゲ選手(ケニア)の2時間1分9秒。今は不滅に思える、この記録とて、何十年後には女子選手が…。驚異の走りにそんな夢をみる。夢ではなかろう。
 
 

 


今日の筆洗

2023年09月25日 | Weblog

『暗夜行路』などの作家、志賀直哉は濃い味が食べ物のお好みだったようだ。嵐山光三郎さんの『文人悪食』に教わった。「たいがいのものは塩辛くないとうまくない」が持論だった▼濃い味が好まれる東北の生まれというのも関係があるか。関東、東北の人間は関西の人よりも2割、多く働くため、その分、塩分が濃くなると主張し、関西の薄味は「活動しない人」の味覚とまで決めつけていたらしい。今なら、関西方面で「なに抜かしとんのや」の声が上がるだろう▼当時としては88歳と長寿の作家だが、塩分の取り過ぎが体に障るのはいうまでもないだろう。高血圧や心臓病にもつながりやすい▼「小説の神様」に特別なお箸を1膳、進呈したくなる。ユニークな研究に贈られるイグ・ノーベル賞。今年の「栄養学賞」に明治大の宮下芳明教授と東大大学院の中村裕美特任准教授による、味を変える箸の研究が選ばれた▼微弱な電流を通した箸を使って食べ物を口に運ぶと感じる味を変化させることができるそうだ。20年近く続く研究で、既に減塩した食べ物でもちゃんと塩味を感じる装置も開発している▼イグ・ノーベルとはノーベル賞と英語の「ignoble(不名誉、不誠実)」を組み合わせた造語だが、塩の摂取量を減らし、健康を増進する名誉ある研究だろう。体重増に悩む身は甘さを強く感じるフォークが欲しい。


今日の筆洗

2023年09月23日 | Weblog
昔、ウクライナの平原を駆けたコサックは独立不羈(ふき)を重んじた武装集団。現ウクライナ国歌は「われらはコサックの一族」とうたい、自由を愛した先人たちがルーツと誇る▼17世紀、ウクライナを支配したポーランドの圧政に蜂起したのがコサック指導者フメリニツキー。敵軍を倒し実質的な独立を獲得した英雄は現ウクライナの紙幣の肖像にもなった▼ただ当時、自治維持のためモスクワの君主の保護下に入る協定を締結。ロシアによる後の併合の契機をつくったとして「裏切り者」と評す人もいた(黒川祐次著『物語 ウクライナの歴史』)▼ロシアに侵攻されたウクライナが、因縁浅からぬポーランドともめている。戦乱でウクライナ産穀物の中東などへの輸出が滞り、流入を恐れるポーランドなどが自国農家を保護すべく輸入を規制しているため▼ウクライナのゼレンスキー大統領は「モスクワを手助けしている」と国連演説で批判し、ポーランドのモラウィエツキ首相はウクライナへの武器供与停止に言及したという。反ロシアで緊密だった2国間に生じた亀裂。修復せねば敵が喜ぶだけであろう▼協定を結んだフメリニツキーは、高圧的なモスクワに幻滅しスウェーデンに接近してモスクワから離れようとしたが、果たせなかったという。昔から維持が容易でない独立不羈。現代のコサックの末裔(まつえい)はどんな手を打つだろう。
 
 

 


今日の筆洗

2023年09月22日 | Weblog
太平洋戦争のミッドウェー海戦で日本軍は主力空母4隻や多くの航空機を失った。敗戦への分水嶺(ぶんすいれい)になったとされる▼海戦は日本軍の空母4隻に対し米軍空母は3隻。日本は待ち伏せ攻撃された。ノンフィクション作家半藤一利さんの著書によると、戦力的にも日本は戦いようがあったはずなのに、指揮官らはそろって米軍の待ち伏せはないと思いこみ、惨敗を招いたという▼みなが一つの観念にとらわれる集団催眠と呼ぶべき現象で、物事は自分の望むように動くと決めてかかる。陸軍中央の参謀たちが「ソ連の対日参戦はない」と思い続けるなど戦時の同様の例は他にもあるという▼ミッドウェー海戦で沈没した日本の空母「赤城」の映像を撮影したと日米の専門家らが参加する研究チームが発表した▼4年前、音波探知機を使った調査で水深5千メートル超の海底に船影を見つけ形状などから赤城と特定したが、撮影成功は今回が初めて。船首部の菊の御紋も確認された。日本の運命を変えた海戦。経過した81年の歳月を思う▼半藤さんは、のるかそるかの海戦で指揮官らがみな思いこみにとらわれたことを不思議にも思っていたが、戦後50年近くたって、警察やメディア、多くの国民が無実の人を犯人と思い込んだ松本サリン事件に接し、戦時と変わらぬと感じたという。歴史に学ぶ意味を改めて問いかけてくる深海の沈没船である。
 
 

 


今日の筆洗

2023年09月21日 | Weblog

 1隻の日本の汽船の動向に世界が注目した歴史がある。船の名は「駒形丸」▼1914年、シーク教徒を中心としたインド人が「駒形丸」で、新天地での生活を求め、カナダを目指した▼夢はかなわなかった。カナダ側は当時、同じ英国の「臣民」であるにもかかわらず、インド人に対する反移民感情から入国を拒否した。結局、大半の乗客は船でインドへ向かうが、待っていたのは「コルカタの悲劇」である。乗客と警察当局が衝突し、大勢のシーク教徒が死亡した。『駒形丸事件-インド太平洋世界とイギリス帝国』(秋田茂、細川道久著)に詳しい▼「駒形丸」を拒否した過去の差別。これを2016年に謝罪し、二度と繰り返さぬと表明した首相としては、カナダに住むシーク教徒の不可解な死を見過ごしにはできなかったのだろう。トルドー首相はシーク教指導者が6月、カナダで殺害された事件にインド政府の工作員が関与している可能性を指摘した▼殺された指導者はインドがテロリストと判断した人物という。インドとシーク教過激派の長い対立の歴史は理解しても、これが事実なら、トム・クランシーの国際スパイ小説ばりの荒っぽいやり方が許されるはずもない▼インドはカナダの主張を強く否定し、両国関係は急速に悪化に向かっている。今は両国が同じ船に乗り、真相解明という港に向かうのが筋であろうが。


今日の筆洗

2023年09月20日 | Weblog

「イギリスじんの ちがにおう/いきていようが しんでいようが/ほねをこなにして パンにやくぞ」(谷川俊太郎訳)-。英国の伝承童謡集「マザーグース」にこんな詩がある。少し、怖い▼同じ英国の童話『ジャックと豆の木』の基になった伝説にもそっくりの文句が巨人のせりふとして出てくる。かの地の巨人の決まり文句みたいなものらしい▼ジャックのように、とはいかなかったが、巨人を苦しめた。ラグビーワールドカップ(W杯)の日本代表。12-34は善戦である▼相手は過去に日本が10回挑み、一度も勝てなかったラグビー発祥国。今回も日本大敗の下馬評もなくはなかったが、踏ん張った。試合中、予想以上の手ごわさにイングランドの選手が動揺しているように見えたのはこちらの身びいきばかりではなかろう▼とりわけ前半のスクラムは巨人をしのいだ印象さえある。決して詩のように「ほねをこなに」などされなかった。イングランドに冗談のようなヘディングからのトライがなければ…▼60-7。1987年の第1回W杯で日本が大敗したイングランド戦のスコアを思う。数字の語呂合わせで「無情な」と読むのは苦しいか。今回のスコアは「オイッチニサンシ」と読む。世界の頂点を目指す日本代表。近道はない。それは長い旅路を歩む地道な掛け声なのだと思うことにしよう。1次リーグはなお続く。