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今日の筆洗

2018年01月31日 | Weblog

 幼いとき、お世話になった人はどれぐらいだろう。今も読み継がれる中川李枝子さんの童話「いやいやえん」(絵・大村百合子さん、福音館)。「ちゅーりっぷほいくえん」の一室に立派な船が現れる場面がある。子どもたちが積み木を囲むように並べ、その中に机やテーブルを置く。船の出来上がり。これに乗船し、クジラを見つける航海に出る▼想像力あふれる子どもたちは何かを何かに見立てるのが得意である。日常的に目の前にある物を夢の道具や乗り物に変身させる。並べた積み木は船となり、風呂敷は正義の超人のマントに、三輪車は飛行機となる。どなたにも記憶があるだろう▼五つの男の子にはドラム式洗濯機がいったい何に見えたのだろう。痛ましい事故である。堺市の住宅で男の子が洗濯機の中に閉じ込められてしまい亡くなってしまった▼丸みのある透明の窓や数々のボタン。ドラム式洗濯機は大人の目から見ても未来的な魅力があり、どこか「宇宙船」を思わせる形をしている▼子どもなら魅了され、その中に入りこんだとしても不思議ではない。本来なら、ほほ笑ましい子どもの想像力も時に危険な「見立て」をする▼子どもの想像力にどう対応し見守るか。やはり、カギは想像力である。子どもがこれで遊ばないか。危険はないかに思いをめぐらせ、「大人の想像力」でもう一度身の回りを点検したい。


今日の筆洗

2018年01月30日 | Weblog

 その都市では「犯罪予防局」なる組織のおかげで大きな犯罪は一件も起きないのだそうだ。どうやって犯罪を防ぐのか。三人の予知能力者の力を借り、犯罪が起きることを事前に把握し、犯行前に「犯罪者候補」を逮捕してしまうのである▼現実社会ではなく、米SF作家フィリップ・K・ディックの短編小説で映画にもなった「マイノリティ・リポート」。犯罪はなくなるかもしれないが、実際にはまだやってもいない犯罪をとがめられるとは不気味な世界である▼あの小説をちょっと思い出した人もいるか。神奈川県警が人工知能を使った捜査、犯罪防止のためのシステム導入を検討しているそうだ。過去のデータを基にAIが事件の起きやすい場所、時間などを予測。これに沿ってパトロールを強化し治安向上につなげるという▼AIによるこの手の予測警備はもはやSFではなく、欧米などでは既に試験的に導入されていると聞く▼犯罪が減るというのならけっこうだが、注意すべきは行き過ぎによる人権侵害である。AIを過信し、「犯罪者候補」と決めつけられるようなことはあるまいな▼深夜、犯罪発生率の高い地区で男が長時間うろうろしている。その光景からAIがあやしいと判断。男を包囲してみれば、毎日の原稿に悩み、ただ町をぶらついていた新聞のコラム書きだったなんていう未来は御免こうむりたい。


今日の筆洗

2018年01月29日 | Weblog

 町中の人たちが急に何かにとりつかれたように雪人間をこしらえるのに夢中になる。幻想的な作風で知られる米作家のスティーブン・ミルハウザーの短編小説「雪人間」(『イン・ザ・ペニー・アーケード』収録)はそんな不思議な話である▼最初は雪人間(日本の雪だるまのようなものか)だったのが、人々はどんどんと凝った雪像を作るようになっていく。雪のライオン、雪の噴水。雪の邸宅。やがて、その熱は冷める。雨が降る。雪人間たちは「すっかり溶けて変形してしまっていて、いまやただの雪のかたまりにすぎなかった」▼先週の大雪。まだ、しぶとく残る雪だるまを見かけ、その小説を思いだしたが、道に残った雪は硬く、滑りやすく、その上を歩くのはかなりやっかいである。何度も足をとられる▼住宅地を歩けば、一つの傾向に気づく。幼い子どもがいそうな新しい家の前には雪だるまがある。比較的古い家の前の道には雪がかなり残って凍結している。そんな気がする▼断っておくが、雪かき不足を非難するつもりはない。おそらくは、したくてもできなかったのではないか。たぶん住んでいらっしゃるのはお年を召した方だけでそれさえも重労働なのであろう。無論、空き家の前の道にも雪が残る▼雪だるまは少なく、硬く凍った道が続く。大雪の後に浮かぶ日本の今の姿なのか。なんだか、ひどく寒い。


今日の筆洗

2018年01月28日 | Weblog

 古典落語「水屋の富」は水屋商売の男が富くじを当て、金の隠し場所に困る話で水屋の心配ぶりがおかしくも悲しい▼長屋で独り暮らし。さてどこに隠すか。押し入れはどうだろう。すぐ見つかるか。では押し入れの中の古い葛籠(つづら)に入れては。これも葛籠を開けられたらおわりか。葛籠の中にぼろを入れておき、その下に隠せば。でも、ぼろの下を探されたら…。心配が尽きぬ。ついには床下に隠すが、それでも不安で夜も寝られない▼仮想通貨と聞けば、最先端技術で不正アクセスから厳重に守られているのだろうと想像していたが、あの心配性の水屋なら、腹を立てる管理の甘さか。仮想通貨取引所の運営大手コインチェックの仮想通貨「NEM」の約五百八十億円分が不正アクセスによって消えてしまった▼口座をインターネットに接続したまま管理していたというが、それでは安全性は保てまい▼うかつな管理の理由を技術的困難さや人材不足というが、人さまの虎の子を預かるにしては「金庫」の用意が不十分で後先が違う話だろう。消えた資産は「最悪の場合は返せない」というから深刻である▼一億円を現金にすれば約十キロだから、五百八十億円分は約五・八トン。運ぶにはかなり人手とトラックが必要だが、仮想通貨は一度侵入を許せば、あっという間か。現金以上に「隠し場所」の難しい、しろものかもしれない

古今亭志ん朝(三代目)師匠の落語「水屋の富」



今日の筆洗

2018年01月27日 | Weblog

 苔(こけ)は、なぜ生まれたのか。それは、<地球がみどりの着物をとても着たがっていたから>と書いたのは、一九九五年に八十九歳で逝った詩人・永瀬清子さんだ▼詩人は、よほど目を凝らして苔を見つめていたのだろう。「苔について」と題した詩で、その生態をこう描いた▼<極微の建築をお前はつくる/…茎の中に/秘密の清冽(せいれつ)な水路があって/雄の胞子はいそぎ泳ぎ昇って 雌の胞子に出逢(であ)うのです/大ざっぱすぎる人間には そのかすかな歓(よろこ)びがすこしも聴えないけれども->▼そんな苔のかすかな声を聴き取ったのは、基礎生物学研究所の長谷部光泰教授らだ。「茎の中の秘密の水路」ではなく、茎と葉の微細な隙間による毛細管現象で水が下から上へと運ばれることを発見した▼その水があって苔の精子は泳げるのだが、茎と葉の間隔を決め、精子のべん毛の形成を司(つかさど)るのが、同じ遺伝子であることも突き止めた。この遺伝子は植物の進化の過程でいったんは役割を終えたが、被子植物では花をつくる遺伝子として働いているという▼長谷部教授によると、役割を失って「手ぶらになった遺伝子」が新しい機能を生み出すのは、進化の定石だという。<詩の出現とは、必ず余白の出現である>とは、詩人・北川透さんの言葉だが、「遺伝子の余白」が花を出現させたとすれば、すばらしく詩的な進化の物語ではないか。


今日の筆洗

2018年01月25日 | Weblog

 会合や食事の会などの誘いに対する「行けたら行く」。幹事役を務める人にとっては、なかなかやっかいな返事で、出席するのかしないのかよく分からない▼関西ではかなりの確率で「行かない」と同じ意味と聞き、驚いたことがあるが、地域や人によっては、そうとも限らぬ▼現状では出席は困難だが、なんとか調整した上で行こうとは考えている。ただ、無理な場合は許してほしい。こういう複雑な意味を込めた、善意の「行けたら行く」も確かに存在する▼平昌五輪開会式への出席を韓国政府に要請されていた安倍首相。当初は「国会日程を見て検討したい」と、おそらくは関西風の「行けたら行く」の立場だったかもしれないが、きのうになって出席の意向を表明した▼慰安婦問題での韓国の対応が不愉快な日本政府としては抗議の意味を込め、開会式への出席を見送るべきだとの意見もあったが、最終的には常識論に軍配が上がったか。開幕直前になっての出席表明はともかく、政治とは切り離して考えるべき平和の祭典である。胸のうちはどうであれ、招かれれば出席するのが、度量の広い、大人の対応であろう▼腹にすえかねることがあるのならば、思いのたけを訪韓時の首脳会談で面と向かって言えばよい。話し合えばよい。腹が立つからとあてつけがましくふて寝してみたところで問題解決の糸口はつかめまい。


今日の筆洗

2018年01月24日 | Weblog

 首都圏を襲った四年ぶりの大雪にお疲れの方もいるだろう。遅れ気味の通勤電車は超満員。慣れぬ雪道をそろりそろりと歩くだけでもひと苦労である。ご近所の目を気にして、雪かきに手を出すも、数分で背中が痛い▼といいつつも都会に住む人はめったに積もらぬ雪にちょっとばかり心が躍るようなところもあるのだろう。近所の鮮魚店のご主人は「ひどいめにあいましたな」などといいつつ、その顔がほころんでいたりする▼けがをされた方がいる。豪雪地帯では雪に悩まされ続けている。そう考えれば、あまりのんきなことも書けぬが、雪の降った夜、車もめっきりと減り、針一本落としてもその音が聞こえてきそうな、しんと静まり返った白い町にちょっと感じ入ったりするものだ▼そんな気分も一瞬にして消し飛んでしまう自然災害の発生である、群馬県と長野県の境にある草津白根山が噴火した▼噴石によってスキー場で訓練中の自衛隊員が亡くなっている。東京の雪とは比べることができぬ、荒ぶる自然の脅威である▼年があらたまってわずか三週間余。今年こそは大きな自然災害のない良き年にと、日記の白いページに願ってみてもそれが難しい、全世界の活火山の約七%が集中するわが国の過酷な宿命か。いつ、どこでの心配は尽きぬ。ならば監視と警戒を強めるしかない。降ってくるのは風情ある雪ではない。