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今日の筆洗

2019年04月30日 | Weblog

 女性飛行家の草分けで文筆家のアン・モロー・リンドバーグが「サヨナラ」について、「このようにうつくしい別れの言葉をわたしは知らない」と書いている。大西洋単独飛行のチャールズ・リンドバーグの妻である▼来日時の横浜港でたくさんの「サヨナラ」を耳にし、「サヨナラ」は「さやうならば」と知った。「GOOD BYE」(神があなたとともにありたもうように)などとは違い、「サヨナラ」はいわば接続の言葉であり、それ自体、何も語っていない。その半面、別れることをあるがままに受け入れている言葉だと感じた。多くを語らずともすべての感情が込められている。だからこそ「うつくしい」▼平成がきょうで終わる。思いは尽きぬだろうが、そのうつくしい言葉で見送るとする▼バブル経済の熱と欲。カネに振り回された日々よ。サヨナラ。「24時間戦えますか」にその気になり、必死に働いた、けなげな人よ、サヨナラ。オウム事件。何が起こるか分からぬ時代の到来に震えた朝よ、サヨナラ▼東日本大震災。悲しみに打ちひしがれる人にそっと置いた誰かの温かき手よ、サヨナラ▼そして平成よ。「平らかであれかし」の願い通り、戦こそなかったが、「平らか」とは言い難き日々とそこで懸命に生きた人よ。国が年を取るとするならば、働き盛りを過ぎ、黄昏(たそがれ)の兆しを見せた切なき時代よ。サヨナラ。

 
 

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今日の筆洗

2019年04月29日 | Weblog

 「朝ドラの登場人物たちはよく喋(しゃべ)る。みんな、よく喋る」。脚本家の岡田惠和(よしかず)さんがNHK朝の連続テレビ小説についてそんなことを書いていた(『TVドラマが好きだった』)。岡田さん自身、「ちゅらさん」「ひよっこ」など三作品を手掛けている▼放送は朝の忙しい時間なので、画面を見ず、聞いているだけでも理解できるように書くそうだ。目だけの演技などの場面は避けてセリフ中心のドラマを作る。それで「みんな、よく喋る」▼それが朝ドラのにぎやかさと明るさの理由だろう。現在放送中の「なつぞら」で百作品目となるそうだが、多くの作品で三世代同居などの大家族が描かれるのもそのせいかもしれぬ。「よく喋る」ドラマのためには「喋る相手」もたくさん用意しなければならないだろう▼朝ドラの世界とはかけ離れた状況である。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると二〇四〇年、全ての都道府県で六十五歳以上の高齢者世帯のうち一人暮らしが占める割合は三割を超える。東京都は五割近い▼高齢化の進行と未婚の増加は家庭の「喋る声」をここまでか細くしてしまうのか。朝、目を覚ましても、「喋る相手」のいない家。それがやがては日本の普通になっていく▼数十年後の朝ドラを、空想してみる。間違いなく、「よく喋る」家族は現在よりもずっとまぶしく、そして切なく映るはずである。

 
 

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今日の筆洗

2019年04月27日 | Weblog

<銀の滴(しずく)降る降るまわりに 金の滴降る降るまわりに…>。美しい神の歌で知られる『アイヌ神謡集』を残した知里幸恵(ちりゆきえ)は十九歳の時、言語学者金田一京助の自邸で亡くなっている。抜きんでた言語能力や作文の才能を見いだし、東京に迎えた金田一は幸恵の死後、日記を見つけた▼<私はアイヌだ…アイヌなるがゆえに世に見下げられる。それでもよい…おお愛する同胞よ>。アイヌ民族と知れると、低く見られてしまうおそれがあった時代である。記されていたのは、偏見を前にして、幸恵の胸中にあった苦しみと悲痛な異議だろう▼明治政府の同化政策により、多くのアイヌが貧困に陥り、蔑視にさらされてきた。土地を奪われ、日本語使用を強いられた。北海道旧土人保護法は、一九九七年まで続いた。残念ながら、今なお偏見や経済的な格差に苦しむアイヌがいる▼アイヌ民族支援法が先日、成立した。独自の文化の維持、振興に向けた交付金制度の創設が盛り込まれた。法律として、初めて「先住民族」であると明記されている▼幸恵の嘆きからは、百年近い時が過ぎる。大きな一歩である半面、遅い一歩でもあるだろう。これからは、実効性にくわえて、何をすべきかの議論も必要になる▼金田一は、「とこしえの宝玉」であると幸恵の業績をたたえている。アイヌなるがゆえに、偉業が曇ることのない世の中を願う。

 
 

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今日の筆洗

2019年04月26日 | Weblog

 ヨットは向かい風に逆らって進むことができる。いかにしてか、素人には飛行機が空を飛ぶのに通じる不思議にも思える。乗る人には常識だろうが、ジグザグに走るのだという▼風の真正面には、進めないものらしい。飛行機の翼にも働く揚力を利用して斜めに進み、また逆向きにと繰り返す。そうして目的地に向かうのだそうだ▼小型ヨットを操った五十二歳の全盲のセーラー岩本光弘さんが先日、福島県の港に到着した。疲れが吹き飛んだ時の笑顔が紙面にある。約一万四千キロを無寄港で。道中の嵐を乗り越えて、太平洋横断の快挙である▼いくつもの逆風の中を進んできた人だ。先天性の弱視で、高校生のころに視力を失った。死のうとして本当に橋の上に立っている。見えないことにもきっと意味はある、人々を励ますことだと考え直したそうだ。その思いは「揚力」になっただろう▼キャスターの辛坊治郎さんとの前回の挑戦は失敗している。漂流し、自衛隊に助けられた。無謀だと多くの批判を浴び、深く落ち込んだという。あきらめない姿を若い人に見せたいという思いで戻ってきた▼向かい風はだれにでも吹くものだろう。職場や学校などで、逆風を感じる人が増える連休明けも近い。風を真正面で、受けられないときはわずかな角度でいい。斜めに、また斜めに。岩本さんのヨットを思い浮かべようと思っている。

 
 

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